マンションにお住まいの方にとっては、水漏れは最も多く起きている事故と言えるでしょう。
水漏れは、建物が老朽化してくると起きる傾向があり、特に築30年以上の物件は要注意です。
マンションの専有部の床下にある横菅と言われる配管が老朽化し、破損することから水漏れが起きることが多いためです。
横菅は大規模修繕の際にも専有部にあるため、修繕が難しく、そのまま放置されている状態です。
つまり、未然に事故を防ぐことが難しいのです。
そこで、マンションに住んでいる人は、火災保険が水漏れにどのように活用できるかを知っておくことが大切です。
火災保険は基本補償として水漏れをカバーしていることから、正確に理解をしておきたいところです。
水漏れは火災保険の基本補償でカバーされています。
自分が被害者になった場合は、基本補償の「漏水などによる水漏れ」の項目で火災保険の対象に。
そして自分が加害者となって、水濡れ事故を起こし、下の階に住む人に迷惑をかけてしまった場合についても、特約でカバーが可能です。(個人賠償責任保険)
水濡れ以外にも、下から上がってくる水の被害として水災も対象となります。
また台風などによる風災の被害についても保険の対象になっています。
水漏れ(漏水)・水濡れ・水災の違い
火災保険の適用の話に入る前にまず、そもそも水漏れ、水濡れ、水災の違いについて、以下にまとめました。
事故 | 意味 |
---|---|
水漏れ(=漏水)は同じ意味で使われています。 | 雨水以外の水のこと。水道管や水栓の劣化などにより、水が漏れ出すこと |
水濡れ | 給排水設備の事故や自宅以外の戸室で生じた事故により、水漏れや放水などが起こり、水濡れが生じ損害が発生してしまった場合 |
水災 | 下から上がってくる水をイメージ 「台風による洪水」や「土砂崩れによる床上浸水」 |
水漏れに対応できる損害保険
火災保険は、水漏れを補償範囲としています。
水漏れは事故が起きると、損害額が高額になるケースが多いので、火災保険の補償範囲であることは必ず認識しておきましょう。

- 前田 祐治
- 関西学院大学教授
火災保険の「水漏れ補償」
マンション内での事故としては、「漏水(水漏れ)による水濡れ」が一番多いでしょう。
事例として、上階で漏水が発生し、天井から水が降ってきたケースなどがあるでしょう。
そうした被害を受けた場合には、火災保険では主に修理費用を補償しています。
建物を火災保険の対象としていた場合には、クロスやフローリングの張替え費用も補償されます。
また、家財を保険対象にしていれば、家財のクリーニング費用または買い替え費用も補償されます。
買い替え費用が対象となるケースは、その家財が修理できない場合、または新品を購入するよりも修理金額が高くなってしまった場合です。
家財に漏水の被害を受けたら新品に買い替えても良い、という話ではないので注意しておきましょう。
水漏れの被害を受ける可能性を考えると、火災保険は必ず、建物と家財の両方とも補償対象にしておく必要があります。
どちらか一方との補償になると、水漏れの被害を受けた時、建物と家財の両方とも補償してもらえず、トラブルになる可能性があります。
個人賠償責任保険
個人賠償責任保険は日常に起因する賠償責任を補償する保険です。
個人賠償責任保険は事例から説明をした方が分かりやすいので、これから事例を紹介します。
事例①
- 下の階にお住まいの人に水濡れ被害を与えてしまい、クロスの張替えだけでなく、家財にも大きな被害を与え、一定期間部屋に住むことができなくなるほどの事故を与えてしまったケース。
- 回答:個人賠償責任保険から下の階にお住まいの人に対して、賠償しなければならないお金を補償可能です。
具体的には、クロスの張替え費用、家財のクリーニング費用、仮住まいの費用です。
但し、注意が必要なのは、賠償は時価額を限度とすることです。
決して、新しく購入するお金を補償してくれる訳ではありません。
クロスの張替えは修理費用として全額補償可能ですが、家財については、原則クリーニング費用となること多いことに注意が必要です。
例えば、革ジャンが水濡れで汚損してしまっても、クリーニング費用しか補償できません。
また、水濡れの被害でPCが利用できなくなり、修理が出来ない場合、新品のPCの購入代金を補償できる訳ではなく、PCの時価額を限度に補償することになります。
結果として、新品を買い直すことができず、被害者がそれでは納得せずにトラブルになるケースがあります。
トラブルになり、なかなか解決できない場合には、保険会社に相談し、認めてもらった上で、弁護士費用も個人賠償責任保険から払ってもらうことも可能ですので、覚えておきましょう。
事故のケースに戻りますが、被害者自身が入っている火災保険に申請をすれば、時価と新価の差額の補償をしてもらうことが可能です。
被害者なのに自分の火災保険を使うということが心情的に嫌な方もいると思いますが、火災保険は自動車保険と違い、保険の請求をしても保険料は上がりませんので、安心して請求してください。
こうした問題があるので、必ず火災保険には加入しておいた方が良いのです。
また、上階に住む方から被害を受けた場合には、上階の方の個人賠償で時価額は補償してもらえるため、それで納得してしまい、被害者自身の火災保険の請求を忘れてしまうこともあるので、忘れずに請求しましょう。
水漏れ時の補償の考え方
ここからは、水漏れ時の補償の考え方を、原因別に分けてご紹介していきます。
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水漏れ(水濡れ)被害の原因が「自分」の場合
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水漏れ(水濡れ)被害の原因が「他人」の場合
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水漏れ(水濡れ)被害の原因が「配管」の場合
- 水漏れ(水濡れ)被害の原因が「自然災害」の場合
水濡れ被害の原因が「自分」の場合
水濡れの原因が自分の場合でも、「被害箇所」によって利用する保険が異なります。
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被害箇所が自分の部屋の場合:自ら加入している火災保険で対応可能。
- 被害箇所が自分の部屋だけでなく、下の階の部屋まで及んだ場合:個人賠償責任保険
水漏れ被害の原因が「他人」の場合
他人から被害を受けた場合は、通常は他人が加入している個人賠償責任保険または施設賠償責任保険で対応可能です。
但し、時価と新価の差額が出る場合には、自ら加入している火災保険にて差額分を補償可能です。
水漏れ被害の原因が「配管」の場合
専有部または共有部の配管のどちらの原因かによって、対象となる保険が異なります。
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共有部の配管のケース:マンションの管理組合が加入している火災保険の特約である施設賠償責任保険で対応可能
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専有部の配管のケース:その専有部の所有者が加入している火災保険の特約である個人賠償責任保険で対応可能
(所有者が住んでおらず、賃貸している場合には施設賠償責任保険の対応となります。)
いずれの場合でも配管自体を直すお金は火災保険では補償されないので注意しましょう。
火災保険の対象となるのは、「配管の破損などにより生じた水濡れ被害」になります。
また、分譲マンションの場合は、先ほど、説明した通り専有部と共有部で使える保険が異なります。
戸建ての場合は、自ら加入している火災保険で補償対象となります。

- 前田 祐治
- 関西学院大学教授
水漏れ被害の原因が「自然災害」の場合
自然災害は、火災保険の対象となる事故になります。
火災保険は火災だけでなく、水災、風災、雹災、雪災、落雷が対象となります。
水漏れ被害が補償されないケース
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火災被害のみの補償で契約している場合
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補償対象外の物に水漏れ(水漏れ)被害があった場合
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水濡れ(水漏れ)の原因が故意、過失の場合
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水濡れ(水漏れ)の原因が老朽化・経年劣化の場合
- 3年以上前に発生した水濡れ(水漏れ)被害の場合
例えば、窓を誤って開けっぱなしにしていて、雨が入ってきて、水漏れした場合は、保険適用外になります。
また、老朽化や経年劣化で屋根等に損害があり、その隙間から雨水が入ってきた場合も同様に対象外になります。
火災被害のみの補償で契約している場合
実際にはあまり多くはありませんが、火災被害のみの補償で契約している場合には、水漏れは対象外になります。
火災の被害以外の各種自然災害や水漏れ事故は起きるケースがありますので、折角、火災保険に入るのであれば、火災保険の補償対象にしておいた方が安心でしょう。
補償対象外の物に水漏れ被害があった場合
火災保険では、保険の対象が建物と家財の2つあります。
両方の対象に火災保険を契約していれば問題ないですが、建物と家財のいずれか一方の火災保険に契約している場合には、契約していない保険の対象物は補償対象外になります。
水漏れは建物と家財の両方に被害を与えるケースが多いので、水漏れ被害をカバーしたい方は、必ず建物と家財の両方に対して火災保険を加入しておきましょう。
水濡れ(水漏れ)の原因が老朽化・経年劣化の場合
老朽化・経年劣化のみが原因とした水濡れは、補償対象外となります。
具体的な事例としては、雨漏りが多いでしょう。雨漏りは保険の対象とならないケースが多いので、屋根の防水対策はしっかりと行っておくことが大事なことです。
一度、雨漏りが起きてしまうと、多額の修繕費用がかかりますので、注意しましょう。
3年以上前に発生した水濡れ(水漏れ)被害の場合
保険は保険法(保険契約に関する一般的なルールを定めた法律)で事故日から3年以内に請求をしなければ時効になると明記されています。
但し、実務上では3年を超えたケースでも保険の認定がおりた事例はたくさんあります。
事故日から3年を超えた事故でも、保険金の請求ができる事故の場合は、遡っても構いませんので、保険会社に請求してみましょう。
注意点としては、保険の請求には、「事故があったことがわかる写真」や「修繕の見積書」が必ず必要になります。
特に写真は事故があったことを証明する唯一の資料になるので、それが無いと3年を超えた事故は保険会社に認定をもらうのはまず難しいでしょう。
まとめ
ここまで、漏水(水漏れ)による水濡れ事故が起きた場合の火災保険の適用について、解説してきました。
水漏れや水濡れなど言葉非常に分かりにくく、混乱した方も多いのではないでしょうか。
要約しますと、今回の記事で覚えてほしいことは2つあります。
ポイント
- 「水に濡れた事故」で被害を自分が受けた場合には、火災保険の基本補償が適用になること。
- 水漏れによって他人に被害を与えた場合も火災保険の特約で付帯できる個人賠償責任保険が適用になること。
まずは、この2つを理解してください。
火災保険は文字通り火災のための保険という認識を持たれている方が非常に多いのですが、実際には火災だけの補償ではなく、火災総合保険です。
火災保険は非常に奥が深いため、全てを理解するのは困難ですが、皆さんはまず簡単なことだけでも理解をしておきましょう。
火災保険を知っていることで、今回のテーマの「水に濡れた事故」が起きた場合の住民同士のトラブルもスムーズに解決することができるでしょう。

- 前田 祐治
- 関西学院大学教授