年末調整とは、1年間の支払うべき税金の金額を確定することです。
内容によっては支払い過ぎた税金が返還されることがあり、また生命保険を年末調整で申告すると支払う税金が軽減されるメリットがあるので、きちんと申告をしないと損をしてしまいます。
生命保険に加入している人は、保険料を支払ったことを証明する書類である「保険料控除証明書」が秋ごろに届くことが一般的です。
ご自身の保険料控除証明書と照らし合わせながら、この記事を読み進めると年末調整の手続きをスムーズに進められるでしょう。
また、生命保険料控除のことを詳しく知りたい人は、「そもそも生命保険料控除とは?」を参考にしてください。
「給与所得者の保険料控除申告書」記入時のポイント
会社員や公務員など給与をもらっている人は、毎年10月〜12月頃に年末調整の書類記入を求められます。
この書類を基に会社が従業員の支払うべき税金を確定させ、支払い過ぎている税金の還付や、足りない税金の請求を行います。
「給与所得者の保険料控除申告書」とは年末調整の書類の一つで、給与所得者は生命保険にお金を支払っていると、一定額が所得控除となり税金が軽減されます。
給与所得者の保険料控除申告書の記入例は以下のとおりです。
参照:令和元年分給与所得者の保険料控除申告書
保険料控除申告書は記入欄がたくさんあり、一見すると非常に複雑で、なかなか覚えられないと感じる人もいるかもしれません。
しかし、保険料控除証明書で記入する4つの項目を整理すると、実はそこまで難しい申告書ではありません。
下記は保険料控除証明書で記入する具体的な4つの項目です。
記入する保険の種類 | |
---|---|
生命保険料控除 | 生命保険・医療保険・介護保険・所得補償保険など |
地震保険料控除 | 地震保険や地震特約つきの火災保険など |
社会保険料控除 | 国民年金や健康保険料・介護保険料などのうち給与天引き以外に支払ったもの |
小規模企業共済等掛金控除 | 小規模企業共済・確定拠出年金・心身障害者扶養共済 |
保険料控除証明書は、基本的に秋頃に送付されるので年末調整時まで必ず取っておきましょう。
給与所得者の保険料控除申告書の書き方と注意点
先ほど分類した4項目別に、保険料控除申告書の書き方と注意点を項目別に解説します。
保険料控除は項目への記入とともに、添付書類も必要なケースがあるので注意してください。
生命保険料控除の書き方
生命保険料控除の申告欄のサンプルは以下のとおりです。
生命保険会社から送付される保険料控除証明書には、1〜8の内容がわかりやすく書かれているので、保険の種類に注意しながら転記してください。
転記後は保険料を合計して計算式に当てはめた上で数字を書いていけば、生命保険料控除は記入完了です。
特に複雑に感じやすい計算式の箇所は、以下のイメージを参考にしてください。
また、保険会社から送付された生命保険料控除証明書は、添付して勤務先に提出する必要があります。
勤務先の団体保険など勤務先でまとめている保険は別ですが、基本的には添付が必要なので忘れないようにしましょう。
生命保険料控除の注意点
生命保険料控除の注意点
- 生命保険料控除の対象外になる契約と特約がある
- 更新により旧制度から新制度になっている場合がある
新制度では、契約と特約の一部が生命保険料控除の対象外となりました。
対象外となる契約の条件は、下記のとおりです。
新制度の生命保険料控除の対象外の契約
- 5年未満の保険期間である契約
- 外国の保険会社と国外で契約した保険
- 財形、信用保険、傷害保険とみなされる保険
対象外となる特約の条件は、下記のとおりです。
新制度の生命保険料控除の対象外の特約
- 傷害特約
- 災害割増特約
もし、対象外の契約をしていたり特約を付けていたら、実際に支払っている保険料と、生命保険料控除対象となる金額が変わる場合があるので注意してください。
地震保険料控除の書き方
地震保険料控除の申告欄のサンプルは以下のとおりです。
損害保険会社から送付される保険料控除証明書には、1〜8の内容がわかりやすく書かれているので、保険の種類に注意しながら転記してください。
転記後は保険料を合計して計算式に当てはめた上で数字を書いていけば、損害保険料控除に関しては記入完了となります。
地震保険料控除は、地震保険や火災保険につけている地震特約の特約保険料が対象となります。
火災保険に加入していても、支払っている保険料全てが対象となるわけではないことに注意しましょう。
保険会社から送付された地震保険料控除証明書は、添付して勤務先に提出する必要があります。
勤務先でまとめている団体保険などは別ですが、基本的には添付が必要なので忘れないようにしてください。
地震保険料控除の注意点
地震保険料控除を書く際の注意点
- 地震保険料控除は自分や生計を一にする配偶者などが住宅として使用している建物のみが対象
- 地震保険と旧長期損害保険を分ける
地震保険料は、主に自宅のみに適用できる保険です。
他人に貸している住宅や別荘などは控除の対象とならないので注意してください。
平成18年以前に契約した長期損害保険の保険料を支払っている人は、保険料控除の対象とすることができます。
一つの保険で地震保険、旧長期損害保険のどちらも対象になる場合は、控除額が大きい地震保険にするのが一般的です。
社会保険料控除の書き方
社会保険料控除の申告欄のサンプル以下のとおりです。
社会保険料控除は、自分や家族(自分と生計を一にする親族)の社会保険料のうち、給与や賞与から天引きされたもの以外の保険料を申告します。
例えば、20歳以上の大学生の子供の国民年金保険料を支払った場合は、申告をする必要があります。
国民年金保険料などの社会保険料控除証明書は勤務先に添付が必要ですが、国民健康保険の添付書類は特に必要ありません。
転職した人は失業中に支払った国民年金など対象となる額が大きいので、忘れずに申告してください。
小規模企業共済等掛金控除の書き方
小規模企業共済等掛金控除の申告欄のサンプルは下記のとおりです。
小規模企業共済等掛金控除は、「独立行政法人中小企業基盤整備機構の共済契約の掛金」や「企業型年金加入者掛金」「個人型年金加入者掛金(iDeCo)」「心身障害者扶養共済制度に関する契約の掛金」を支払っている金額のうち、給与や賞与で天引きされていない金額を申告します。
全額が所得控除の対象となるので、送付されてくる小規模企業共済等掛金払込証明書の金額を全て書いてください。
また、個人確定拠出年金などの小規模企業共済等掛金払込証明書は、勤務先に添付が必要です。
そもそも生命保険料控除とは?
生命保険料控除とは、支払った保険料に応じて税金が軽減される制度で、大きく下記の3種類に分けられます。
基本的な考え方として、終身保険、定期保険、収入保障保険などの死亡保険(人の生存や死亡に関わる保険)は「一般生命保険料控除」となります。
学資保険も一般生命保険料控除の対象となります。
個人年金税制適格特約がついていない個人年金保険は、「一般生命保険料控除」ですが、個人年金税制適格特約がついている個人年金保険は、「個人年金保険料控除」になります。
その他の生命保険料控除については、「介護医療保険料控除」とみなしてほぼ問題ありません。
生命保険会社が取り扱っているほとんどの保険商品が生命保険料控除の対象となっており、秋頃に保険会社から送付される保険料控除証明書を用いて、保険料控除の申告を行います。
生命保険料控除の旧制度と新制度の違い
生命保険料控除には、「旧制度」と「新制度」があり、保険を契約した時期によって適用される制度が変わります。
生命保険料控除の「旧制度」「新制度」の違い
- 旧制度:2011年12月31日以前に契約もしくは更新
- 新制度:2012年1月1日以降に契約もしくは更新
旧制度と新制度での生命保険料控除の上限額は以下のとおりです。
昔から入り続けている保険契約の見直しやプラン変更をすると新制度の控除金額が適用され、今までの控除金額よりも不利になるケースがあるので注意が必要です。
生命保険料控除額の計算方法と上限額
旧制度と新制度での、生命保険料控除の計算方法と上限額を解説します。
生命保険料控除額の計算方法は支払った保険料の金額によって変わり、所得税と住民税で保険料控除額の計算方法が違うので注意してください。
【旧制度】所得税の計算方法
旧制度で生命保険料控除額の所得税を計算する方法は、以下のとおりです。
1年間の払込保険料 | 控除額の計算式 |
---|---|
25,000円以下 | 払込保険料全額 |
25,000円超〜50,000円以下 | 払込保険料 × 1/2 + 12,500円 |
50,000円超〜100,000円以下 | 払込保険料 × 1/4 + 25,000円 |
100,000円超 | 一律50,000円 |
一般保険料・年金保険料ともに計算式は変わりません。この計算式に当てはめて計算した金額を最終的に合計して申告します。(合計の上限額は100,000円)
【新制度】所得税の計算方法
新制度で生命保険料控除額の所得税を計算する方法は、下記のとおりです。
1年間の払込保険料 | 控除額の計算式 |
---|---|
20,000円以下 | 払込保険料全額 |
20,000円超〜40,000円以下 | 払込保険料×1/2+10,000円 |
40,000円超〜80,000円以下 | 払込保険料×1/4+20,000円 |
80,000円超 | 一律40,000円 |
一般保険料・年金保険料・介護保険料ともに計算式は変わりません。この計算式に当てはめて計算した金額を最終的に合計して申告します。(合計の上限額は120,000円)
【旧制度】住民税の計算方法
旧制度で生命保険料控除額の住民税を計算する方法は、下記のとおりです。
1年間の払込保険料 | 控除額の計算式 |
---|---|
15,000円以下 | 払込保険料全額 |
15,000円超〜40,000円以下 | 払込保険料×1/2+7,500円 |
40,000円超〜70,000円以下 | 払込保険料×1/4+17,500円 |
70,000円超 | 一律35,000円 |
一般保険料・年金保険料ともに計算式は変わりません。この計算式に当てはめて計算した金額を最終的に合計して申告します。(合計の上限額は70,000円)
【新制度】住民税の計算方法
新制度で生命保険料控除額の住民税を計算する方法は、下記のとおりです。
1年間の払込保険料 | 控除額の計算式 |
---|---|
12,000円以下 | 払込保険料全額 |
12,000円超〜32,000円以下 | 払込保険料×1/2+6,000円 |
32,000円超〜56,000円以下 | 払込保険料×1/4+14,000円 |
56,000円超 | 一律28,000円 |
一般保険料・年金保険料・介護保険料ともに計算式は変わりません。この計算式に当てはめて計算した金額を最終的に合計して申告します。(合計の上限額は70,000円)
【新旧、両制度併用】生命保険料控除の計算方法と上限額
新制度と旧制度のどちらも契約している場合は下記の3通りの申告方法があり、それぞれの上限額は以下のとおりです。
申告方法 | 保険種類ごとの上限額 | 合計上限額 | ||
---|---|---|---|---|
所得税 | 住民税 | 所得税 | 住民税 | |
新制度の保険料のみ | 4万円 | 2.8万円 | 12万円 | 7万円 |
旧制度の保険料のみ | 5万円 | 3.5万円 | 10万円 | |
新制度+旧制度の両方を申告 | 4万円 | 2.8万円 | 12万円 |
上記だけでは分かりづらいかと思いますので、以下を例に解説します。
計算式 | 控除額 | |
---|---|---|
新制度対象の保険料のみ控除する場合 | 40,000円 × 0.5 + 10,000円 | ①30,000円 |
旧制度対象の保険料のみ控除する場合 | 100,000円 × 0.25 + 25,000円 | ②50,000円 |
新旧合算で保険料を控除する場合 | ①30,000円 + ②50,000円 | ③40,000円(限度額が40,000円となるため) |
参照:旧生命保険料と新生命保険料の支払いがある場合の生命保険料控除額|国税庁
今回の例では、新生命保険料の支払額が40,000円、旧生命保険料の支払額が100,000円の場合で計算を行いました。
上記の場合、新制度対象の保険料のみ控除する場合は30,000円まで、旧制度対象の保険料のみ控除する場合は50,000円までの控除が受けられ、新旧合算で保険料を控除する場合は最大40,000円までの控除が可能です。
この中で最も控除額が大きいのは、「旧制度対象の保険料のみを控除する場合」なので、最大50,000円までの生命保険料控除が受けられることになります。
このように控除額の計算で若干の手間がかかるので、新制度と旧制度の両方が対象となる保険契約をしている方は、保険会社に確認を取りながら計算を行うようにしましょう。
年末調整に関するよくある質問 Q&A
年末調整に関するよくある質問にお答えしていきます。
年末調整に関するよくある質問 Q&A
Q.年末調整の対象にならない場合は?
A.会社員や公務員などの給与所得者は、年末調整を行うことで支払税金額を確定し精算します。
しかし、下記の場合は年末調整の対象となりません。
年末調整の対象外のケース
-
年間給与等の収入額が2000万円を超える人
-
1か所から給与等を受けていて、給与所得および退職所得以外の所得金額が20万円を超える人
- 2か所以上から給与等を受けている人
この場合、年末調整ではなく確定申告を自分で行う必要があります。
確定申告でも、会社員で給与所得を受け取っている人と、自営業者(個人事業主)で提出する際の書類が異なるので、以下を参考にして書類をご用意ください。
確定申告書類の種類
- 会社員:確定申告書A(第一表・第二表)、生命保険料控除証明書、源泉徴収票
- 自営業者:確定申告書B(第一表・第二表)、生命保険料控除
また、確定申告の手続は申告する年の翌年3月15日までなので、期日が過ぎてしまわないように余裕を持ってお手続きください。
Q. 申告額と証明額のどちらを記載すればいいですか?
A. 生命保険料控除証明書の記入の際には、申告額を記載してください。
証明額とは、1月以降に生命保険料控除証明書が発行されるまでに払い込んだ金額です。
一方の申告額とは、その年の1月から12月分までの保険料を12月末日までに払い込んだ金額です。
Q.保険料控除証明書を紛失してしまったら?
A.保険料控除証明書を紛失した場合、発行先の保険会社などに連絡して再発行してください。
問い合わせ方法は保険会社によって異なりますが、基本的には以下の3つのパターンで再発行ができます。
生命保険料控除証明書の再発行方法
- インターネットサービス(各種保険のマイページより)
- 電話(コールセンター)
- 最寄りの店舗窓口
インターネットサービスや電話での再発行には、一週間程度の時間がかかる場合があります。
確定申告や年末調整の時期に間に合わない可能性がある場合は、直接窓口まで訪問しましょう。
Q.転職すると手続きの流れも変わる?
A.転職して、すでに給与所得者になっている人は、新たな勤務先で手続きする必要があります。
基本的な手続きは変わりませんが、以前の勤務先での所得や支払った社会保険料も申告しなければなりません。
「給与所得の源泉徴収票」が以前の勤務先から配布されるので、一緒に提出してください。
Q.記入の際、行が足りなくて書ききれない場合は?
A.行が足りない場合は、もう一枚保険料控除申告書を用意して記入してください。
ただし、生命保険料控除と地震保険料控除には控除上限額があります。
その上限額を超える場合は必ずしも全て記入する必要はありません。
Q.控除証明書を入手・発行できるのはいつ?
A.生命保険料控除証明書は、基本的に毎年10月から翌年1月にかけて加入中の保険会社から発行されます。
しかし、「その年に初めて加入した保険」と「その年以前に加入していた保険」では発送時期が微妙に異なります。
新契約の保険料に関する控除証明書の発送時期(その年に初めて加入した保険)
- 8月末までに加入した保険契約:10月中旬
- 9月1日以降に加入の保険契約:加入月の翌月末頃
支払方法 | 保険料の支払い時期 | 控除証明書の発送時期 |
---|---|---|
月払い | 1〜8月中に8月分までの保険料を支払い済みの契約 | 10月中旬 ※8月分保険料を9月中に支払った場合は10月末頃に発送 |
年払い/半年払い | 1〜8月中に保険料を支払い済みの契約 | 10月中旬 |
9月中に保険料を支払い済みの契約 | 10月末頃 | |
10月中に保険料を支払い済みの契約 | 11月末頃 | |
11月中に保険料を支払い済みの契約 | 12月末頃 | |
12月中に保険料を支払い済みの契約 | 翌年1月頃 |
控除証明書の発送時期は保険契約の内容によって多少のズレが発生する場合もあるので、あくまで参考程度に留めておきましょう。
また、支払い方法として前納や一括払い、団体扱の場合は保険会社によって送付時期が異なります。
詳細な発送時期を知りたい方は、ご加入中の保険会社までお問い合わせください。
Q.生命保険料控除証明書の発行が年末調整に間に合わない場合は?
A.自宅に郵送される「生命保険料控除申告予定額のお知らせ」に記載されている金額を保険料控除申告書に記入すれば、年末調整で生命保険料控除の手続きが可能です。
ただし、その場合は「生命保険料控除証明書」が届き次第、速やかに勤務先に提出する必要があるので、提出をし忘れることがないようにご注意ください。
また、勤務先によっては「生命保険料控除申告予定額のお知らせ」が年末調整に使えないケースもあるので、年末調整の時期が近づいたら勤務先の担当者に確認しておきましょう。
Q.年末調整の申告が間に合わなかった場合は?
A.年末調整ができなかった場合は、確定申告をすることで控除を受けることができます。
確定申告の提出期限は、原則2月16日~3月15日です。
もし、この期限に遅れると、「延滞税」や「無申告加算税」などのペナルティを受ける可能性があるので、注意してください。
まとめ
今回は年末調整に関する保険料控除についての重要なポイントを振り返ります。
-
保険料控除申告書は項目別に支払った保険料を記入する
-
各機関から送られてくる保険料控除証明書は添付して提出する必要がある
- 年末調整の対象とならない場合や間に合わなかった時は確定申告が必要
- 生命保険料控除を申請すると所得税で最大12万円、住民税で最大7万円の所得控除が適用される
毎年記入するのが面倒だと思う人もいるかもしれませんが、きちんと申告しないと余計に税金を支払うことになるので、損をする可能性があります。
所得税で最大12万円、住民税で最大7万円の控除が受けられる非常にメリットの大きい制度なので、生命保険に加入している方はぜひこの機会にご活用ください。