正常分娩による出産は公的医療保険制度の対象外であり、民間の医療保険からも給付金を受けとれない場合がほとんどです。
今回は、会陰切開に対する保険適用の可否や妊娠・出産時の費用に備える方法について詳しく解説します。
この記事でわかること
会陰切開は公的保険制度の適用外?
公的保険制度は、病気やケガの治療費を支払うことによって生じる、経済的な負担を軽減するための制度です。
正常分娩での会陰切開は、医療ではなく介助措置にあたり公的保険制度が適用されません。
しかし分娩中に異常が発生し、吸引分娩(きゅういんぶんべん)や鉗子分娩(かんしぶんべん)などの施術をするために会陰切開を行った場合は、公的保険制度の給付を受けられる可能性があります。
- 「吸引分娩(きゅういんぶんべん)、鉗子分娩(かんしぶんべん)」とは?
- 分娩(出産)時に赤ちゃんがうまく産道を通り抜けられない場合に、特殊な器具を使用して赤ちゃんを外に引き出す方法。
- 吸引分娩と鉗子分娩では、使用される器具に違いがある。
以下のような異常分娩に関わる治療費については、基本的に公的保険制度の対象となることを覚えておきましょう。
公的保険制度の対象となる出産
- 帝王切開分娩(帝王切開術)
- 会陰切開(異常分娩を伴う場合)
- 鉗子分娩(鉗子娩出術)
- 流産 など
ただし、異常分娩であっても、入院中の食事代や個室などを利用する際にかかる差額ベッド代などは全額自己負担となります。
民間医療保険の場合
民間医療保険の場合も公的保険制度と同様に、正常分娩に伴う会陰切開については基本的に保障対象外です。
一方、異常分娩に伴う会陰切開は、入院給付金や手術給付金が受け取れる可能性があります。
例えば、公的保険制度に連動して給付金が支払われる医療保険の場合、診療明細書や領収書の「入院料」や「手術」の項目に点数が入っていれば、給付金を請求することができます。
ただし、給付金の支払い条件は保険会社や保険商品によって異なるため、公的保険制度の適用対象になるからといって、必ずしも給付金を受け取れるとは限りません。
なお、一部の少額短期保険では、正常分娩も保障対象としている商品があります。
会陰切開とは
会陰切開(えいんせっかい)とは、出産時に赤ちゃんが通る産道を広げるために、会陰部(膣と肛門の間の部分)に行う外科手術のことです。
会陰部の自然な裂傷を防ぐためや、出産を早く終えるために行われます。
切開をするのは2〜3センチ程度になることが多く、局部麻酔をしてから手術をするケースが一般的です。
会陰切開が行われるケース
以下のようなケースでは、会陰切開が行われることが多くなっています。
会陰切開が行われるケース
- 心拍数に異常があるなど、胎児の状態が不安定な場合
- 出産が遅れている場合
- 胎児のサイズが大きい場合
- 吸引分娩や鉗子分娩が必要な場合
- 会陰部の組織が硬い場合
胎児や母体への負担を考慮し、出産を早く終わらせる必要があるときや、自然分娩では会陰が裂けてしまう可能性がある場合に会陰切開が行われます。
会陰切開にかかる費用
出産にかかる費用は、平均で48.2万円です。参照:出産費用の実態把握に関する調査研究(令和4年度)の結果等について|厚生労働省
具体的な会陰切開にかかる医療費は以下の通りです。
会陰切開にかかる費用
- 会陰(陰門)切開及び縫合術(分娩時) … 17,100円
-
会陰(腟壁)裂創縫合術(分娩時)
- 1.筋層に及ぶもの … 19,800円
- 2.肛門に及ぶもの … 55,600円
- 3.腟円蓋に及ぶもの … 43,200円
- 4.直腸裂創を伴うもの … 89,200円
参照:産婦人科社会保険診療報酬点数早見表 令和4年4月|公益社団法人日本産婦人科医会
上記は、公的保険制度適用前の料金です。
異常分娩となった場合は、上記費用の3割を自己負担することになります。
ただし、病院によっては治療費が異なる場合もあるため、実際にかかる費用が気になる方は直接病院に問い合わせてみましょう。


妊娠出産の費用に備える方法は?
妊娠や出産には多くの費用がかかりますが、公的保険制度や民間の医療保険を活用することで、経済的な負担を軽減できます。
以下で具体的な方法を紹介します。
公的保険制度の場合
妊娠や出産で利用できる公的保険制度には、以下のようなものがあります。
妊娠や出産で利用できる公的保険制度
- 妊婦健診などの助成金:妊娠中の定期健診にかかる費用を一部助成する制度。助成額は自治体によって異なる。
- 出産手当金:産前産後の休業中の収入減少を補うために健康保険から支給される給付金。1日につき「支給開始日以前12ヶ月間の各標準報酬月額の平均額÷30日×2/3」が支給される。
- 出産育児一時金:出産費用の一部を補助するために、健康保険から支給される一時金。子ども一人当たり一律50万円が支給される。
- 育児休業給付金:育児休業を取得した場合、雇用保険から支給される給付金。1日あたり「休業開始時賃金日額×67%(育休開始から181日目以降は50%)」が支給される。
これらの制度以外で妊娠や出産で利用できる公的保険制度を知りたい場合や、出産にかかる費用の内訳などを確認したい場合は、以下の記事も参考にしてください。
民間医療保険の場合
妊娠前から医療保険に加入しておくことで、異常分娩などのリスクに備えることができます。
例えば、帝王切開やその他の合併症が発生した場合、通常の分娩費用に加えて高額な医療費がかかることがあります。
医療保険に加入していれば、これらの費用をカバーすることが可能です。
妊娠前から計画的に医療保険の加入を検討することで、予期せぬ事態に備えることができ、安心して出産を迎えることができます。
保障の内容や条件は保険会社によって異なるため、自分に合ったプランを選びましょう。
妊娠中の医療保険の必要性については、以下の記事でも詳しく解説しているので参考にしてください。
まとめ
正常分娩に伴う会陰切開は、公的保険制度や民間の医療保険の給付対象外ですが、異常分娩で行われる場合は原則として給付を受けられます。
妊娠・出産の費用は高額になることもあるため、公的保険制度や民間の医療保険をうまく活用しましょう。



- 鬼塚 眞子
- 保険ジャーナリスト/一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
産道を通って出産する(経膣分娩)際に、なかなか赤ちゃんが出てこなかったり、会陰が切れるような場合、赤ちゃんが苦しんだり、会陰の傷が深くなることが予測されます。そこで、少しでも母子ともに安全に出産できるように、あらかじめ会陰を切開することがあります。会陰切開は出産以外でも、裂傷する場合もあり、会陰切開は切開した傷の長さ(深さ)で、1度から4度までに区分されます。
出産のときに医師が会陰切開を行なうのは、一般的に2度とされています。ちなみに2度は会陰裂傷はあるものの、肛門括約筋は損傷が及んでいないの、4度は肛門括約筋にまで損傷を及ぶものが目安です。出産における会陰切開は医師が縫合するものの、一般的に医療行為ではなく、医療補助と位置づけられます。このため、民間の保険では一般的に手術とみなされず、保険金は支払われないケースが多いようです。しかし、実際に、会陰切開後に出血が止まらず、入院が長びいて入院給付金が支払われたケースもあります。また、会陰切開が3度や4度になった方は手術給付金も支払われています。出産はデリケートですが、会陰切開をした場合は、ドクターと保険会社に確認してください。