差額ベッド代とは、自ら希望して個室や少人数部屋に入って入院するときに支払う費用のことです。
病室の規模にもよりますが、差額ベッド代の平均は1日あたり約6,700円です。
※参照:主な選定療養に係る報告状況|厚生労働省
差額ベッド代には健康保険が適用されませんが、病院側の都合や医師の判断で、患者が希望していないにもかかわらず個室に入院した場合は差額ベッド代は支払う必要はありません。
この記事では、差額ベッド代の基礎知識や相場、支払わなくて良いケースをわかりやすくご紹介していきます。
差額ベッド代がかからないケース
差額ベッド代とは?
差額ベッド代とは、部屋の設備状況によって別途発生する料金のことです。正式には「特別療養環境室料」と言います。
大部屋よりも個室の方が利用料金は高いですが、簡単に説明すると「個室を利用した場合の差額分として支払うことになるのが差額ベッド代」と覚えておけばよいでしょう。
差額ベッド代を請求される病室には条件があるので、すべての入院患者が支払わなければならない訳ではありません。
差額ベッド代について
差額ベッド代がかかるケース
差額ベッド代が発生するのは、一般的な大部屋の病室とは異なる特別療養環境室(特別室)に入院した時のみです。
差額ベッド代が発生する特別療養環境室(特別室)には、以下の4つの条件があります。
差額ベッド代が発生する「特別療養環境室(特別室)」の条件
- 一病室の病床数は4床以下であること
- 病室の面積は一人あたり6.4平方メートル以上であること
- 病床ごとのプライバシーの確保を図るための設備(仕切り、部屋内トイレなど)を備えていること
- 特別の療養環境として適切な設備を有すること
重要なポイントは、個室でなくとも差額ベッド代が発生する可能性があることです。
ただし、差額ベッド代が発生するのは、以下の2つのケースに当てはまるときです。
差額ベッド代が発生するケース
- 入院患者の希望によって特別室に入院した場合
- 医師からの説明を聞いた上で同意書にサインをした場合
上記の通り、必ず入院患者の希望と同意書への署名が必要となります。
病院側の都合(「大部屋が満員で~」など)や、医師の判断(感染症を防ぐなど)でやむを得ず特別室を利用する場合は、差額ベッド代を支払う必要はありません。
詳しくは「差額ベッド代がかからないケース」で解説しますが、このことを知らずに高額な差額ベッド代を支払い続けているご家庭も多いです。
差額ベッド代の相場(費用)はいくら?
一般的な差額ベッド代の相場(費用)についても知っておきましょう。
厚生労働省が公表している「主な選定療養に係る報告状況」の資料によると、差額ベッド代の相場は以下の通りです。
1人室 | 8,437円 |
---|---|
2人室 | 3,137円 |
3人室 | 2,808円 |
4人室 | 2,724円 |
平均 | 6,714円 |
※記載の数値は令和5年7月1日の統計
※参考:主な選定療養に係る報告状況|厚生労働省
全体平均は1日あたり約6,700円、1人部屋で約8,400円、最大の4人部屋で約2,700円の差額ベッド代が相場であることがわかります。
厚生労働省が発表している「令和5年/患者調査の概況」から、病気ごとに必要な差額ベッド代は以下の通りです。
病名 | 平均入院日数 | 差額ベッド代 (平均入院日数×6,714円) |
---|---|---|
悪性新生物(がん) | 14.4日 | 約9万6,682円 |
心疾患(高血圧性を除く) | 18.3日 | 約12万2,866円 |
肺炎 | 26日 | 約17万4,564円 |
糖尿病 | 31.8日 | 約21万3,505円 |
高血圧性疾患 | 41.6日 | 約27万9,302円 |
慢性腎臓病 | 57.3日 | 約38万4,712円 |
脳血管疾患 | 68.9日 | 約46万2,594円 |
参照:令和5年 患者調査 表6 傷病分類別にみた年齢階級別退院患者の平均在院日数|厚生労働省
上記の金額は、入院日数や病気の状態など人によって変わるため、あくまで平均値の金額です。
差額ベッド代は、公的医療保険(国民健康保険・健康保険)の3割負担(療養の給付)や高額療養費制度の適用対象外で、全額自己負担となります。
差額ベッド代がかからないケース
差額ベッド代は「患者側の希望」「同意書にサインをした」の2つの場合に発生する費用です。
下記に該当する場合は差額ベッド代を支払う必要はないので、しっかりと覚えておきましょう。
差額ベッド代がかからないケース
ここでのポイントは「あくまで患者側の希望で」「納得した説明をされた上で同意書にサインをした時」を除いて、病院側の都合で特別室を利用した場合に差額ベッド代はかからないという点です。
1. 同意書による確認を行っていなかった場合
特別室を利用する際、同意書による確認が行われていなかった場合は差額ベッド代を支払う必要はありません。
また、仮に同意書へサインをしていても、以下のケースでは差額ベッド代を支払わなくて良いことになっています。
差額ベッド代を支払わなくて良い条件
- サインする際に十分な説明がなかった
- 差額ベッド代の金額が明記されていなかった
しかし、同意書にサインをすると基本的には差額ベッド代を負担することになります。
差額ベッド代を支払いたくないときは、大部屋を希望していることをきちんと伝えましょう。
また、理解が不十分なまま同意書にサインをしないことが大切です。
十分な説明がないままに同意書へサインをしてしまった場合の対処法
病院側から不十分な説明なまま、雰囲気に押されてサインをしてしまった方も少なからずいると思います。
そんな時は「厚生労働省から差額ベッド代に関する通知が届いているはずなので確認してください」と言えば、一度サインをした同意書を破棄してもらえる可能性があります。
また、厚生労働省の地方支分部局である「地方厚生局」に相談をするのもおすすめです。
差額ベッド代に関する相談をしたい場合の参考にしてください。
名称 | 管轄区域 | 連絡先 |
---|---|---|
北海道厚生局 | 北海道 |
|
東北厚生局 | 青森県、岩手県、宮城県、秋田県、山形県、福島県 |
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関東信越厚生局 | 茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県 |
|
東海北陸厚生局 | 富山県、石川県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県 |
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近畿厚生局 | 福井県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県 |
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中国四国厚生局 | 鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県 |
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四国厚生支局 | 徳島県、香川県、愛媛県、高知県 |
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九州厚生局 | 福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県 |
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2. 治療上の都合により特別室に入院した場合
治療上の都合により、医師の判断で特別室への入院をする場合は差額ベッド代を支払う必要はありません。
医師の判断による部分なので一概にはお伝えできませんが、厚生労働省が発表する資料には一例として以下のケースが挙げられています。
治療上の都合により特別室へ入院となる場合の一例
- 救急患者、術後患者等であって、病状が重篤なため安静を必要とする者、又は常時監視を要し、適時適切な看護及び介助を必要とする者
- 免疫力が低下し、感染症に罹患するおそれのある患者
- 集中治療の実施、著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要のある終末期の患者
- 後天性免疫不全症候群の病原体に感染している患者
- クロイツフェルト・ヤコブ病の患者
上記に該当しなくても、医師の判断によって特別室へ入院することになった場合は差額ベッド代の支払いは不要です。
入院する際に個室へ案内された場合は「これは医師の判断によるものですか?」と確認してみるのが良いかと思います。
3. 病院側の都合で特別室に入院した場合
差額ベッド代は、病院側の都合で特別室に入院した場合は支払う必要がありません。具体的には下記のケースが該当します。
病院側の都合で特別室に入院する場合の一例
- MRSA等に感染している患者であって、主治医等が他の入院患者の院内感染を防止するため、実質的に患者の選択によらず入院させたと認められる者の場合
- 特別療養環境室以外の病室の病床が満床であるため、特別療養環境室に入院させた患者の場合
参照:平成30年度「療担規則及び薬担規則並びに療担基準に基づき厚生労働大臣が定める掲示事項等」及び「保険外併用療養費に係る厚生労働大臣が定める医薬品等」の実施上の留意事項についての一部改正について | 厚生労働省
差額ベッド代問題で特に多く聞かれるのが「大部屋が満床で~」という説明される場合です。
これは病院側の都合のため、差額ベッド代を支払う必要はありません。
中にはちゃんとした説明もないまま、請求書に差額室料が上乗せされているケースもあるそうなので、しっかりと確認しておくのがベストです。
ただし、実際に大部屋が満床で物理的に入院できないケースも存在します。その場合は、別の病院への紹介状を書いてもらい対応してもらえないかも確認してみるといいでしょう。
差額ベッド代に保険は適用される?
差額ベッド代は公的保険制度の適用対象外です。そのため、全額自己負担となります。
患者の希望しない形で特別室に入院する場合は、支払う必要がありません。
しかし、大部屋だと他の入院患者もいることがあり、入院生活で大きなストレスがかかることもあります。
それらを回避するために「快適な空間」の個室や特別室で過ごす必要費用として、差額ベッド代を支払うのは決して悪い選択ではありません。
これらの差額ベッド代などの公的保険制度の対象外の費用で家計が圧迫されないためにも、健康なうちから入院生活に備えて「医療保険」を検討するのがおすすめです。
医療保険には様々な種類がありますが、その中でも入院日数に応じて給付される「入院給付金」の金額から判断するのが良いでしょう。
具体的には「差額ベッド代の相場(費用)はいくら?」でお伝えしたように、1日あたり平均6,600円強の差額ベッド代が必要なので、この金額を目安にしてご検討ください。
【注意点】差額ベッド代は医療費控除の対象外
保険適用外で全額自己負担で支払う必要がある差額ベッド代は、医療費控除は対象外なのでご注意ください。
- 「医療費控除」とは?
- 1年間の内に「ある一定の金額以上の医療費」を支払った場合に、その内の一部の税金が返ってくる制度
- 医療費控除が可能となる金額は、年間10万円、もしくは合計所得金額の5%のどちらか低い方を超える医療費を支払った場合
医療費控除の対象となるのは簡単に言えば、「医師の診断や治療を受けるために最低限必要なもの」に限られます。
つまり、「医師の判断では不要だが、患者の希望によって特別室を利用する」といった場合に発生する差額ベッド代は、治療を受けるために必要最低限なものとしてみなされないため、医療費控除が適用されません。
反対に、医師の判断によって特別室に入院する場合は「治療を受けるために最低限必要なもの」となるので医療費控除の対象となります。
ただし、「医師の判断によって特別室に入院する場合は差額ベッド代がかからない」ので、結果として医療費控除に使える支払いは発生しません。
差額ベッド代は対象外ですが、通院や入院のための交通費や、入院中に病院で支給される食事については医療費控除の対象となります。
詳しくは以下の記事で解説していますので、参考にしてください。
まとめ
差額ベッド代とは、入院で使う病室の利用料金のことで、原則入院患者が希望しなければ払わなくてよいとなっています。
差額ベッド代がかからないケース
万が一、トラブルが起こった場合は各地域を管轄している「地方厚生局」へご相談ください。
また、差額ベッド代は対象外ですが、高額な治療費がかかった場合には「高額療養費制度」という医療費の自己負担額を軽減する制度があります。
どのような場合であれば対象なのかを詳しく解説したこちらの記事も参考にしてください。



- 諏澤 吉彦
- 京都産業大学教授