会社を退職すると、さまざまな手続きを行わなければなりません。
その中でも重要なのが「健康保険」に関する手続きです。
日本では国民皆保険制度が導入されているため、全日本国民は必ず何かしらの保険制度に加入しなければなりません。
そこでこの記事では、会社を退職した後の健康保険の手続き方法についてわかりやすく解説していきます。
加入する保険制度によっては毎月の保険料や加入条件、注意点が異なるので、退職済みの人や退職予定の人はぜひ参考にしてください。


退職後の健康保険の手続きには4つの選択肢がある
会社を退職した後の健康保険の手続きは、全部で4つの選択肢があります。
退職後における健康保険の手続き方法
冒頭でもお伝えした通り、全日本国民は必ず何かしらの保険制度に加入しなければなりません。
会社を退職すると、退職日の翌日には健康保険の資格が喪失することになるので、病院を受診する際の医療費を全額自己負担で支払うことになってしまいます。
また、それぞれの加入条件を満たした上で手続きを行う必要があるので、なるべく早いうちに手続きを行うようにしてください。
それぞれの手続き方法や加入条件について詳しく見ていきます。

- ナビナビ保険監修
- (株)アセット・アドバンテージ代表取締役/FP相談ねっと 代表
- 山中 伸枝


1. 任意で健康保険を継続する
健康保険に加入していた被保険者が退職する場合、諸条件をクリアしていればこれまでの健康保険を任意継続することができます。
これを「健康保険任意継続制度」と呼び、これまでとまったく同様の健康保険を最長2年間まで利用できるようになります。
また、扶養家族がいる場合はこれまでと同様、家族分の保険料を払い込む必要がないというメリットもあるので、多くの人は任意継続制度を利用したほうが払い込む保険料を軽減することができるでしょう。
健康保険任意継続制度を利用する際の条件
健康保険任意継続制度を利用する際の条件は以下の通りです。
健康保険任意継続制度を利用する際の条件
- 資格喪失日までに健康保険の被保険者期間が継続して2ヵ月以上あること
- 資格喪失日(退職日の翌日等)から20日以内に「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出すること
任意継続制度を利用するためには、2か月以上の被保険者期間があることに加え、資格喪失日から20日以内に手続きを完了させなければなりません。
この期間を過ぎてしまうと任意継続制度を利用できなくなってしまうのでご注意ください。
なお、手続きの際に必要となる「任意継続被保険者資格取得申出書」は、全国健康保険協会公式ホームページからダウンロードすることができます。
記入例も掲載されているので、そちらを参考にしながら申請書を完成させ、これまで加入していた健康保険組合に提出すれば任意継続が可能です。
任意継続制度の加入期間は最長2年間と決められており、満了時には加入していた健康保険組合から「任意継続被保険者資格喪失通知書」が送付されます。
それまで使用していた保険証等は協会けんぽ支部へ返送する必要があり、満了後は別の保険制度への加入手続きを行う必要があるので覚えておきましょう。


保険料は全額自己負担
会社員の負担する保険料は勤務先との労使折半で払い込むことになっています。
ですが、任意継続制度を利用すると「退職前の標準報酬月額」と「30万円」のどちらか安い方をベースに計算された保険料を全額自己負担で払い込まなければなりません。
また、これまでは給与からの天引きで払い込まれていた保険料ですが、任意継続制度の場合は自分で手続きを行なって払い込む必要がある点には注意が必要です。
なお、健康保険任意継続制度は保険料の計算方法や負担額が異なるだけで、その中身はこれまでの健康保険とまったく同じです。
任意継続制度を利用することで扶養家族分の保険料を支払わなくて済むというメリットがあるので、国民健康保険に加入する場合と比較して、どちらがより保険料負担が少なく済むかを比較するようにしましょう。


2. 国民健康保険に切り替える
国民健康保険は、自営業者やフリーランス、専業主婦、学生などが加入する保険制度です。
会社を退職した後、任意継続制度を利用しない人のほとんどが国民健康保険へ切り替えることとなります。
なお、会社員であれば「扶養」という概念から家族分の保険料を払い込む必要はありませんでしたが、国民健康保険の場合には扶養という概念がありません。
そのため、会社を退職して国民健康保険に加入した場合、ほかの家族も国民健康保険やその他の保険制度に加入することになるので覚えておきましょう。

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- 山中 伸枝
保険料の試算方法
国民健康保険の保険料は「所得割」と「均等割」によって算出された金額の合計となります。
- 「所得割」とは?
- 前年の所得に所定の保険料率をかけて算出される金額
- 「均等割」とは?
- 1世帯あたりの国保加入者数から算出される金額
つまり、家族が多ければ多いほど国民健康保険による保険料負担は大きくなります。
国民健康保険の保険料は住んでいる市区町村によって異なるので、詳細についてはお住まいの市区町村公式ホームページにてご確認ください。
国民健康保険の加入手続き方法
国民健康保険に加入するための手続き方法は以下のとおりです。
国民健康保険の加入手続き
- 会社から離職票を受け取る
-
資格喪失日から14日以内に以下の持ち物を持ってお住まいの市区町村役場で手続きを行う
(ア) 社会保険資格喪失証明書または離職票(退職証明書でも可)
(イ) マイナンバーがわかる書類(マイナンバーカード、通知カード)
(ウ) 本人確認書類(免許証やパスポートなど)
なお、国民健康保険への切り替え手続きは14日を過ぎた場合でも受け付けられます。
退職後に一切の手続きをしない場合でも自動的に国民健康保険の被保険者ということになりますが、保険証がないために病院では医療費を全額自己負担で支払わなければなりません。
それに加え、国民健康保険に加入した日時まで遡って、あとから保険料を請求される事態になってしまうので、退職後は早々に手続きを行うようにしましょう。


任意継続制度と国民健康保険はどちらがお得?
任意継続制度と国民健康保険では、毎月の保険料が変わってきます。
そのため、会社を退職した際に自分はどちらに加入したほうが払い込む保険料が少なく済むかを計算して、よりお得な保険制度に加入するようにしましょう。
ここでは、以下の前提条件をもとにして令和2年分以降における任意継続制度と国民健康保険料について比較していきます。
前提条件
- 家族構成:夫60歳、妻60歳(夫の被扶養者で専業主婦)
- 加入保険:協会けんぽに加入、定年を迎えたことで保険制度の変更が必要
- 退職時収入:標準報酬月額50万円(年収750万円)
- 居住地:東京都中央区
保険料率 | 9.87% |
---|---|
標準報酬月額30万円の保険料額 | 29,610円 |
年間保険料 | 355,320円 |
※任意継続制度利用時の保険料は「退職時の標準報酬月額」と「30万円」のいずれか低い方を参照して計算※妻が被扶養者であるため保険料の負担が発生しない参照:令和2年度保険料額表|全国健康保険協会
均等割 | 39,900円×2人=79,800円 |
---|---|
所得割 |
|
年間保険料(均等割+所得割) | 均等割79,800円+379,848円=459,648円 |
参照:国民健康保険の保険料(令和2年度)|中央区参照:給与所得控除|国税庁
上記の前提条件のもとでシミュレーションを行った結果、健康保険任意継続制度を利用したほうが保険料は10万円以上も安くなることがわかりました。
そのため、会社を退職した直後であるなら健康保険の任意継続を利用したほうが保険料による負担を減らすことができます。

- ナビナビ保険監修
- (株)アセット・アドバンテージ代表取締役/FP相談ねっと 代表
- 山中 伸枝


3. 家族の健康保険に加入する
昨今では夫婦共働きの家庭も多いことから、退職後に家族の健康保険に加入する(被扶養者となる)という方法もあります。
扶養に入ると被扶養者の保険料を払い込む必要がなくなるので、保険料による負担を大幅に減らすことができます。
扶養に入るための条件
扶養に入るための条件は、勤務先の加入する健康保険組合によって異なります。
以下、協会けんぽにおける被扶養者の範囲を例に挙げて、扶養に入るための条件について確認してみましょう。
扶養に入るための条件
-
被扶養者の直系尊属、配偶者(事実上婚姻関係と同様の人を含む)、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人
- 必ずしも同居の必要はない
- 被保険者と同一の世帯で主として被保険者の収入により生計を維持されている次に該当する人
-
被保険者の三親等以内の親族
- 被保険者の配偶者で、戸籍上婚姻の届出はしていないが事実上婚姻関係と同様の人の父母および子
- 上記の配偶者が亡くなった後における父母および子
- ただし、後期高齢者医療制度の被保険者等である人は除く
- 収入がある人が被扶養者となる場合は以下の基準により判断される
- 認定対象者の年間収入が130万円未満であり、かつ被保険者の年間収入の1/2未満であること
-
年間収入が130万円未満であり、かつ被保険者の年間収入を上回らない場合で、その世帯の生計の状況を果たしていると認められるときは被扶養者と認められる場合がある
- 認定対象者の年間収入が130万円未満であり、かつ被保険者からの援助による収入額より少ない場合は被扶養者となる
一般的に、被扶養者となるためには「扶養者に生計を維持されており、一定の年収要件を満たしていること」が条件となります。
詳細については家族の勤務先の担当部署までご確認ください。


4. 再就職先の健康保険に加入する
会社を退職後、再就職先の健康保険に加入することでも保険制度を利用できます。
退職した次の日に再就職をすると、スムーズに健康保険への切り替えをすることができるでしょう。
なお、資格喪失日(退職日の翌日)から再就職するまでの間に1日以上の期間がある場合、どれだけ短い場合であっても国民健康保険料の支払い義務が発生します。
保険料は日割りではなく月単位で計算されるため、退職時期と再就職時期によっては国民健康保険の加入期間が数日程度であってもひと月分の保険料を支払うことになってしまいます。
退職後に再就職をする予定の人は、可能であるなら退職日の翌日から再就職先の健康保険に加入できるよう手続きを進めておくことをおすすめします。
退職後の健康保険についてよくある質問Q&A
退職後の健康保険についてよくある質問にお答えします。
退職後の健康保険についてよくある質問Q&A
Q. 健康保険証はどこに返却すればいいですか?
A. これまで使っていた健康保険証は、会社を退職する際に元勤務先の担当部署に返却するのが一般的です。
詳細については勤務先の担当者までお問い合わせください。
Q. 健康保険証が届く前に医療機関にかかる場合はどうしたらいいですか?
A. 新しい健康保険証が届く前に医療機関を受診する場合、一旦は医療費を全額自己負担で支払うことになります。
その後、健康保険証が届いてから受診した病院にて手続きを行うことで、自己負担分を差し引いた額が払い戻されます。
一時的とはいえ医療費を全額自己負担で支払うのが厳しい場合には、事前に健康保険被保険者資格取得証明書を発行しておくことで、健康保険証を提示した場合と同様に自己負担分だけの支払いで医療機関を受診できます。
発行方法は、日本年金機構や年金事務所の窓口に行くと即日発行してもらえるので、勤務先に相談した上で手続きを行うようにしてください。
Q. 健康保険を切り替えたら扶養家族の健康保険証はどうなりますか?
A. 健康保険を切り替えた場合、今まで使っていた扶養家族分の健康保険証を以前所属していた健康保険組合に返却しなければなりません。
一般的には元勤務先の担当部署に返却することになるので、事前に扶養家族の健康保険証を預かっておくようにしましょう。
なお、退職した後に再就職をしない場合、扶養家族はそれぞれが国民健康保険に加入しなければなりません。
自身の手続きと同じタイミングで国民健康保険の加入手続きを行うようにしてください。
Q. 任意継続制度から途中で国民健康保険に切り替えることはできますか?
A. 任意継続制度の資格喪失が認められるケースは以下の4通りのみです。
任意継続制度の資格喪失が認められるケース
- 加入者が就職して健康保険等の被保険者の資格を取得したとき
- 保険料を納付期限までに納付しなかったとき
- 加入者が後期高齢者医療制度の被保険者の資格を取得したとき
- 加入者が亡くなったとき
任意継続制度に加入中、国民健康保険や被扶養者になるという理由で任意継続制度の資格を喪失することはできないので気をつけましょう。
まとめ
会社を退職した後、健康保険の手続き内容としては以下の4通りの選択肢が挙げられます。
退職後における健康保険の手続き方法
会社を退職するとさまざまな手続きを行うことになりますが、中でも健康保険の手続きは非常に重要な項目です。
退職日の翌日には今まで加入していた健康保険の資格が喪失することになってしまうので、なるべく早いうちに手続きを行うようにしてください。

