人身傷害保険とは?
人身傷害保険は、自動車事故によって発生した「自分自身や同乗者の死傷」に対して治療費が補填される保険のことです。
人身傷害保険に加入していると、事故の過失割合に関わらず実際の損害額がすぐに補填されたり、相手との示談交渉を待たずに保険金が受け取れたり、翌年のノンフリート等級に影響が出ないなどのメリットがあります。
- 「ノンフリート等級」とは?
- 1等級から20等級まであり、数字が大きいほど事故のリスクが低い人とみなされて自動車保険の割引率が高くなる制度。
自動車保険の加入当初は一律で「6等級」からスタートし、1年間無事故なら翌年の等級が1つ上がる。
通常、自動車の運転をするには強制保険と呼ばれる自賠責保険への加入が義務付けられていますが、自賠責保険はあくまで他人(運転手や運行供用者以外)への補償のみなので、自分自身のケガに対しては一切の補償が受けられません。
自動車事故が発生した場合、相手への損害賠償はもちろん、自分や同乗者の治療費も高額になる可能性が高いことから、自動車に乗る頻度が多い人や十分な貯金がない人、ほかの保険に加入していない人は優先的に検討したい保険商品といえます。
補償内容
人身傷害保険の補償内容は、主に3パターンに分けられます。
ケガの場合 | 治療費、休業損害、精神的損害など |
---|---|
後遺障害の場合 | 逸失利益、精神的障害、介護料など |
死亡の場合 | 葬儀費用、逸失利益、精神的損害など |
※保険商品や保険会社ごとで補償内容は大きく異なります
人身傷害保険では、契約時に補償の対象者を決めるのが一般的です。
その対象者が自動車事故などによって死傷した場合に、契約した際に取り決めた保険金額を上限とした保険金が支払われます。
また、補償の範囲は主に「車内のみ補償タイプ」と「車内・車外ともに補償タイプ」の2通りに分けられます。
人身傷害保険での補償タイプによる内容の違い
-
「車内のみ補償タイプ」
:保険契約時に定めた対象の自動車を運転中に発生した事故による死傷が補償対象 -
「車内・車外ともに補償タイプ」
:バスやタクシーといった契約自動車以外に搭乗中の事故における死傷についても補償対象
車内・車外ともに補償タイプは記名被保険者(契約時に取り決める対象の自動車を主に使用する人)とその家族についても補償が適用され、一部の保険商品では歩行中に遭遇した交通事故においても補償が適用される場合もあります。
毎月の保険料は保障が手厚い「車内・車外ともに補償タイプのほうが高く」、補償対象が搭乗中に限定される「車内のみ補償タイプのほうが保険料は割安」であることが特徴です。
搭乗者傷害保険との違い
自動車事故に対して備える任意保険には、人身傷害保険のほかに「搭乗者傷害保険」があります。
補償内容は同じものと考えられがちな両者の保険商品ですが、以下でまとめたように明確な違いがあるので事前に確認しておきましょう。
保険商品 | 人身傷害保険 | 搭乗者傷害保険 |
---|---|---|
保険金 | 過失割合に関係なく実損額を全額支払い | ケガの部位や程度によって、契約時に取り決めた金額を支払い |
補償の範囲 |
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支払い方法 | 実損額 | 定額 |
支払時期 | 後払い | 即時 ※医師の診断による入院及び通院の合計日数が5日以上を経過した時点など保険商品によって異なる |
その他 | 事故の相手から損害賠償を受け取った場合、自身の人身傷害保険の保険金から賠償額を差し引いた金額が支払われる | 相手から損害賠償を受け取っていても搭乗者傷害保険によって支払われる保険金には影響がない |
人身傷害保険は自動車事故における過失割合に関係なく、実損額が全額支払われることが特徴です。
ただし、相手から損害賠償が支払われていた場合は、保険金からその賠償額を差し引いた金額が支払われることになるので、1回の事故で受け取れる保険金額には上限が設けられています。
一方の搭乗者傷害保険は、契約時に取り決めた金額を上限として、ケガの部位や程度に応じた保険金が支払われます。
相手から損害賠償を支払われていたとしても搭乗者傷害保険からの保険金に影響はありませんが、死亡時における保険金の上限額は人身傷害保険のほうが高額になる可能性が非常に高いです。
人身傷害保険と搭乗者傷害保険にはそれぞれ一長一短の特徴があるので、両者の保険に加入しておくことで万全の補償を備えておくことができます。
ただし、補償を手厚くすればその分だけ毎月の保険料が大きな負担となるので、バランスを鑑みて保険金を設定するようにしましょう。
人身傷害保険の必要性
自動車を運転する際には「自賠責保険」への加入が義務付けられているため、わざわざ保険料を支払ってまで人身傷害保険に加入する必要性を感じない人も多いのではないでしょうか。
ですが、冒頭でもお伝えしたように自賠責保険の補償対象はあくまで「他人」であるため、自分自身のケガに対しては一切の補償が受けられません。
たとえば、交通事故によって契約者側の損害額が7,000万円、契約者の過失割合が30%で相手側が70%と仮定すると、自賠責保険のみに加入している場合の負担額は以下の通りとなります。
損害額が7,000万円、契約者の過失割合が30%で自賠責保険のみに加入している場合
- 相手からの賠償額:損害額7,000万円 × 70% = 4,900万円
- 自分自身の負担額:損害額7,000万円 - 4,900万円 = 2,100万円
上記のように、過失割合30%分の2,100万円に関しては一切の補償が受けられないので、全額を自己負担で補わなければなりません。
一方、人身傷害保険に加入していると実損額が全額補償されるため、最大で7,000万円までの保険金を受け取ることが可能です。
ただし、相手から損害賠償を受け取っている場合はその金額が差し引かれることになるため、人身傷害保険に加入している場合はその事故における実損額を上限とした保険金が受け取れるということになります。
相手へ損害賠償を支払う可能性があることはもちろんですが、自分自身の治療費が高額になることも十分に考えられるので、日常的に車を運転する機会が多い人は優先的に検討すべき保険商品といえるでしょう。
また、ほかの生命保険に加入していない人や、万が一の事態に備えられるだけの十分な貯金がない人も人身傷害保険に加入しておくことをおすすめします。
人身傷害保険の選び方
人身傷害保険は、主に以下の2点を重視して決めることが一般的です。
それぞれのポイントについて解説していきます。
毎月の保険料の設定方法
人身傷害保険は、万一のときに支払われる保険金が多くなるほど毎月の保険料が高くなっていきます。
「車内・車外ともに補償タイプ」と「車内のみ補償タイプ」で比較すると、契約自動車の搭乗中以外にも補償が適用される「車内・車外ともに補償タイプ」のほうが保険料は割高です。
また、人身傷害保険には搭乗者の治療費以外についての補償が適用される「特約」が用意されているケースも多いですが、特約を付けすぎると保険料は上がってしまいます。
そのため、保険料を節約するのであれば毎月の支出面と照らし合わせて、保険金とのバランスを取りつつ保険料を設定するのが良いでしょう。
複数の自動車を保有していて家族がほかの人身傷害保険に加入中の場合、補償内容が重複してしまうと保険料が無駄になってしまうことが多いので注意が必要です。
保険金額の設定方法
人身傷害保険の保険金額は、3,000万円から無制限と自由に決めることができます。
万が一の場合に備えて保険金を高めに設定すると毎月の保険料が高額になってしまうので、毎月の支出とのバランスを鑑みて金額を選ぶように心がけましょう。
なお、自動車事故が発生すると相手側の自賠責保険によって以下の金額が受け取れます。
自賠責保険で受け取れる金額
- 傷害:最大120万円
- 後遺障害:最大4,000万円
- 死亡:最大3,000万円
被害者となった自分自身の過失割合が70%未満の場合、支払われる保険金に過失割合が考慮されることはないので上記の金額を全額受け取ることができます。
また、すでにほかの生命保険に加入している場合はそちらから保険金が受け取れる場合もあるので、必ずしも人身傷害保険の保険金を高額に設定する必要はありません。
具体的には、人身傷害保険の保険金額として3,000万円〜5,000万円が選ばれるケースが多いので、保険料と見比べてこの範囲内で保険金を設定するのが良いでしょう。
人身傷害保険のメリットとデメリット
人身傷害保険には以下のようなメリットとデメリットがあります。
人身傷害保険のデメリット
それぞれのメリットとデメリットを理解した上で、本当に自分に必要な保険なのかを検討するようにしてください。
各ポイントについて解説していきます。
メリット1. 過失割合に関わらず実際の損害額が補償される
人身傷害保険で支払われる保険金は、過失割合に関わらず実際の損害額が全額補償されます。
一般的な自動車保険で支払われる保険金は、事故が発生したときの過失割合によって適用される補償内容が変動するため、自分の過失割合が大きい場合には自己負担額が大きくなってしまう可能性があります。
また、相手側が任意保険に加入しておらず、十分な賠償金が受け取れないケースも考えられるので、そうした事態に備えて人身傷害保険に加入しておくことで万が一の高額な治療費についての補償が受けられるようになります。
メリット2. 補償内容によっては契約車以外の事故も保障される
人身傷害保険の補償内容によっては、契約自動車以外での事故も保障される場合があります。
たとえば、家族や友人から借りた自動車の運転中に発生した事故や、自分や家族がバス・タクシーといった交通手段を利用中に発生した事故などが該当します。
また、自動車の運転中以外にも歩行中に遭遇した事故に対して補償が適用される人身傷害保険も存在するので、自分自身が備えておきたいリスクに対して補償が受けられる商品を選びましょう。
メリット3. 示談交渉を待たなくても保険金が支払われる
自動車事故が発生すると、相手との示談交渉に時間がかかってしまって賠償金を受け取るのが遅くなってしまうケースがあります。
賠償金の支払いが遅れたり、過失割合によって十分な賠償金が受け取れなかったりすると、自身のケガの治療費が家計を圧迫する要因にもなりかねません。
ですが、人身傷害保険に加入していれば示談交渉を待たずとも保険金が受け取れ、治療費に関しての心配が不要になるので安心して治療に専念することができます。
メリット4. 等級が下がらない
一般的に、事故が発生したときに自動車保険による補償が適用されると、翌年のノンフリート等級に影響が出て保険料が高くなってしまいます。
ですが、人身傷害保険による補償のみを受けた場合はノンフリート等級への影響はありません。
そのため、等級が下がらないので保険料も変わらないということになります。
ただし、人身傷害保険と同時に対人賠償保険や対物賠償保険といったほかの任意保険を併用した場合には翌年のノンフリート等級が下がってしまうので注意が必要です。
デメリット1. 補償が重複する可能性が高い
人身傷害保険は、損害保険に含まれる自動車保険のうちのひとつです。
すでにほかの損害保険に加入している人も多いかと思いますが、そうした場合には「同じ損害に対しての補償」が重複してしまう恐れがあります。
補償の重複が発生すると、片方の保険で十分な補償が受けられるのに過剰な補償が適用されてしまったり、無駄な保険料を支払うことになったりと多くのデメリットが出てきてしまいます。
特に、自動車を複数所有している人やほかの家族が人身傷害保険に加入している場合に補償の重複が発生しやすいので、ほかの損害保険の補償内容を見比べてから検討するようにしましょう。
デメリット2. 支払い基準が低く設定されている
人身傷害保険による保険金の金額は、保険会社の約款によって基準が定められています。
ですが、この基準は裁判基準よりも低めに設定されていることが通例で、人身傷害保険によって受け取れる保険金が少額になるケースが増えています。
また、人身傷害保険の性質上、相手から損害賠償を受け取った場合にはその金額が保険金から差し引かれることになるので、いざというときに十分な補償が受けられず、自分で治療費を負担することになる可能性もあります。
人身傷害保険に加入する場合は支払われる保険金額を計算する際の基準についても確認し、不足部分は搭乗者傷害保険などに加入してカバーするようにしましょう。
デメリット3. 保険金支払い対象とならない事故がある
人身傷害保険は、自分自身や同乗者のケガに対して補償が適用される保険商品ですが、一部では保険金の支払対象とならない事故も存在します。
たとえば、ほかの乗用車での事故に対して補償が適用されるタイプの人身傷害保険であっても、その自動車の保有者が記名被保険者や配偶者、同居する親族の場合には補償が適用されない場合があります。
また、社用車の運転といった業務のために搭乗している間の事故に関しても補償が適用されないケースが一般的なので、人身傷害保険に加入する際には補償対象外となるケースについても確認しておくようにしましょう。
まとめ
人身傷害保険は、自動車事故によって発生した「自分自身や同乗者の死傷」に対して治療費が補填される保険のことです。
人身傷害保険には以下のようなメリットとデメリットがあるので、これらをよく見比べてから検討するようにしてください。
人身傷害保険のメリット
自動車を運転する際には「自賠責保険」への加入が義務付けられていますが、自賠責保険の補償対象はあくまで他人であるため、自分自身のケガに対しては一切の補償が受けられません。
そのため、普段から車を運転する機会が多い人や、ほかの生命保険に加入していない人、万が一の事態に備えられるだけの十分な貯金がない人は人身傷害保険に加入することをおすすめします。