バイクも自動車と同様に、自賠責保険への加入が義務づけられていますが、それだけでは交通事故が発生したときの経済的なリスクに対処するのは困難です。
バイクを運転するのであれば、任意加入の「バイク保険」に加入して、事故相手からの損害賠償や自分自身のケガなどに備えることが大切です。
本記事では、バイク保険の補償内容や選び方、必要性などをわかりやすく解説します。
バイク保険(任意保険)とは?自賠責保険との違いも解説
バイクを含むすべての自動車は、自賠責保険への加入が義務づけられています。
バイク保険(任意保険)は、自賠責保険の補償をカバーするために加入する保険です。
バイクの運転中に事故を起こすと「相手をケガさせてしまった」「相手の車やモノを壊してしまった」などの理由で損害賠償を請求されることがあります。
また、ドライバー自身がケガをしたり、バイクが壊れたりしてしまうこともあるでしょう。
自賠責保険の補償は、相手方のケガや死亡、後遺障害によって損害賠償を請求されたときの補償に限定されています。
相手のバイクやモノを壊して損害賠償を請求されたり、自分自身がケガをしたりしても自賠責保険から保険金は支払われません。
一方でバイク保険は、相手のモノや車を壊したときの損害賠償や、自分自身のケガや死亡、運転していたバイクの損害など幅広く補償します。
また、自賠責保険から支払われる保険金には上限がありますが、バイク保険の対人賠償責任保険は支払限度額を無制限にして加入できます。
バイク保険の主な補償と付帯できる特約
バイク保険の補償には、任意の自動車保険と同じく「賠償責任保険」「傷害保険」「車両保険」があります。
加入する際に、補償を選び保険金額(保険金の支払上限額)を設定します。
バイク保険で選べる補償は、以下の通りです。
補償 | 補償内容 | |
---|---|---|
賠償責任保険 | 対人賠償責任保険 | 相手方のケガや死亡による損害賠償を補償 |
対物賠償責任保険 | 相手のモノを壊して負った損害賠償を補償 | |
傷害保険 | 人身傷害保険 | 事故による運転者や同乗者のケガ・死亡を補償 |
搭乗者傷害保険 | 事故による運転者や同乗者のケガ・死亡を補償 | |
自損事故保険 | 相手がいない事故による運転者や同乗者のケガ・死亡を補償 | |
無保険者傷害保険 | 十分な賠償が受けられない相手との事故による運転者や同乗者のケガ・死亡を補償 | |
車両保険 | 事故でバイクが損害を負ったときの補償 |
それぞれの補償について、詳しく解説していきます。
賠償責任保険
対人賠償責任保険は、事故相手のケガの治療費や慰謝料などが、自賠責保険の保険金額を超えたときに保険金が支払われます。
例えば、バイクを運転中に対向するバイクとぶつかって相手が亡くなり、7,000万円の損害賠償を負ったとしましょう。
自賠責保険から3,000万円の保険金が支払われたのであれば、対人賠償責任保険から4,000万円の保険金が支払われます。
対物賠償責任保険は、事故によって相手のモノやバイク、持ち物などを壊したときの損害を補償する保険です。
ガードレールや信号機、店舗などを壊したときも補償が適用されます。
ただし、ご自身のバイクや持ち物が負った損害は、補償されません。
なお、対人賠償責任保険と対物賠償責任保険は、保険金額を無制限にして加入するのが一般的です。
傷害保険
傷害保険のうち、人身傷害保険と搭乗者傷害保険は、どちらもバイク事故によるドライバーまたは同乗者のケガや死亡、後遺障害を補償する保険です。
一方で人身傷害保険は、ケガの治療費や休業損害(働けなくなることで得られなくなった収入)などをもとに計算する損害額と同額の保険金が支払われます。
対して搭乗者傷害保険は、バイクのドライバーや同乗者がケガしたり亡くなったりすると、あらかじめ決められた金額の保険金が支払われます。
自損事故保険は、「電柱に衝突した」などの単独事故でケガをしたり後遺障害を負ったりしたときの補償です。
無保険車傷害保険は、相手からの賠償が期待できないときに保険金が支払われる保険です。
例えば、バイク保険や任意の自動車保険に加入していない相手と事故を起こしてケガを負ったときに、保険金が支払われます。
自尊事故保険と無保険車傷害保険は、バイク保険に自動付帯されているのが一般的です。
車両保険
車両保険は、偶然の事故によってバイクが負った損害を補償する保険です。
衝突事故や接触事故だけでなく、自然災害(台風や洪水など)や、モノの飛来などによる損害も補償してもえらえます。
車両保険に加入すると、事故でバイクが大破し「全損」となった場合は、契約時に定めた保険金額(保険金の支払上限額)または、時価相当の保険金が支払われます。
ただし、地震や噴火、津波によるバイクの損害は補償されません。
バイク保険のなかには、車両保険を付けられないものもあります。
一方で、バイクの損害を重点的に備えられる保険会社もあります。
バイク保険に付帯できる特約
バイク保険は、特約を付帯することで補償を手厚くできます。
バイク保険に付帯できる主な特約は、以下の通りです。
補償内容 | |
---|---|
対物超過修理費用補償特約 | 損壊したバイクの時価相当額よりも多額の修理費用が発生した場合に補償する特約 |
弁護士費用特約 | 事故相手との交渉や訴訟をする際にかかる弁護士費用を補償する特約 |
他車運転危険特約 | 他人が所有するバイクを運転したときの自動車事故を補償する特約(対人賠償・対物賠償) |
ファミリーバイク特約 | 記名被保険者またはその家族が原付バイクを含む125cc以下のミニバイクを運転するときの補償 |
上記の特約の補償内容を詳しく解説していきます。
対物超過修理費用補償
対物超過特約とは、自動車事故によって損害を与えた相手の車やバイクの修理費用が時価額を超えたときの補償です。
事故相手の車やバイクを壊してしまったときは、対物賠償責任保険から保険金が支払われます。
しかし対物物賠償保険の保険金額は時価が上限であるため、 保険金額を無制限になっていても修理費用が賄えないことがあるのです。
対物超過特約に加入していると、例えば、相手の車の時価額が100万円、修理費用が150万円であったとき、差額の50万円を補償してもらえるのです。
※過失割合が自分:相手=100:0の場合
弁護士費用特約
弁護士費用特約は、弁護士への相談料や報酬などをカバーできる特約です。
バイク保険に加入すると、 事故相手がいれば保険会社が代わりに示談交渉をして事故の解決に努めてくれます。
しかし、もらい事故のように自分自身に責任がない事故では、保険会社は示談交渉を代行できません。
弁護士費用特約に加入していれば、自分自身に責任がない事故にあったとしても、弁護士に依頼するときの費用を保険金で賄えます。
他車運転危険補償特約
他車運転危険補償特約は、他人から借りたバイクを運転したときの事故に備えられる特約です。
他人から借りたバイクを運転したときの事故は、所有者が加入するバイク保険で補償されます。
そのため所有者がバイク保険に加入していなかったり、補償範囲を本人や本人と配偶者のみに限定していたりすると、補償は受けられません。
他車運転危険補償特約を付帯していると、 他人から借りたバイクで事故を起こしたときに、自分自身が加入するバイク保険で補償されます。
ファミリーバイク特約
ファミリーバイク特約は、原動機付自転車を含む125cc以下のミニバイクや、50cc 以下の三輪以上の自動車を運転しているときの事故を補償します。
バイク保険の記名被保険者(主にバイクを運転する人)だけでなく、配偶者や同居の家族、別居している未婚の子どもが運転するミニバイクの事故も補償の対象です。
また、ひとつの契約で、複数台のミニバイクが補償の対象となります。
ファミリーバイク特約の主な補償は「対人賠償責任保険」「対物賠償責任保険」です。
自分自身のケガや死亡については、事故相手の有無にかかわらず補償されるケースと、自損事故や無保険車との事故のみに補償されるケースがあります。
バイク保険加入の必要性
では、バイクを運転する人にとってバイク保険は必要なのでしょうか?
ここでは、バイク保険の加入率や事故を起こしたときの賠償額、運転時のリスクなどからバイク保険の必要性を考察していきます。
バイク保険の加入率
損害保険料算出機構の調査によると、バイク(二輪車)のうち対人賠償責任保険に加入している割合は43.8%、対物賠償責任保険の加入割合は44.5%となっています。
バイク保険は、対人賠償責任保険の加入が必須です。
よってバイク保険に加入しているのは、バイクの車両数の半分未満です。
自家用普通乗用車の加入割合は、対人賠償責任保険82.8%、対物賠償責任保険82.7%であることを考えると、バイク保険の加入率は非常に低いといえます。
※出典:損害保険料算出機構「自動車保険の概況」
事故が発生する多額の損害賠償が発生する恐れがある
原付自転車を含むバイクは、必ず自賠責保険に加入していますが、それだけで補償が十分であるとはいえません。
人身事故によって相手が後遺障害を負ったり死亡したりすると、以下の通り億単位の損害賠償を請求されることがあるためです。
認定総損害額 | 態様 | 裁判所 | 判決年月日 | 事故年月日 |
---|---|---|---|---|
5億2,853万円 | 死亡 | 横浜地裁 | 2011年11月1日 | 2009年12月27日 |
4億5,381万円 | 後遺障害 | 札幌地裁 | 2016年3月30日 | 2009年1月7日 |
4億5,375万円 | 後遺障害 | 横浜地裁 | 2017年7月18日 | 2012年11月1日 |
4億3,961万円 | 後遺障害 | 鹿児島地裁 | 2016年12月6日 | 2010年11月9日 |
3億6,750万円 | 死亡 | 大阪地裁 | 2006年6月21日 | 2002年11月9日 |
例えば、バイク事故で相手を死なせてしまい1億円の損害賠償を請求されたとしましょう。
バイク保険に加入していなかった場合、自賠責保険から3,000万円の保険金が支払われたとしても、残りの7,000万円を自己負担しなければなりません。
また、相手のモノを壊して損害賠償義務を負っても、自賠責保険からは1円も補償されません。
どれだけ安全運転を心がけても、交通事故のリスクをなくすことはできないため、バイク保険に加入して事故に備えておくことが大切です。
バイクは致死率が高い乗り物
バイクは、ドライバーや同乗者の体が外に露出しています。
また体を守ってくれるのは、基本的にヘルメットとプロテクターのみです。
そのため自動車よりも、事故にあったとき身体をケガしたり、死亡したりするリスクが高いといえます。
またバイクの運転には、反射神経と運動神経が求められるため、ベテランドライバーといえども身体が衰えてしまっていると事故を起こしかねません。
バイクを運転するのであれば、バイク保険に加入して自分自身のケガに備えておくことが大切です。
事故相手に賠償能力がないことも
バイク保険の加入率は、約4割であるため、事故相手がバイク保険に加入していない可能性も十分に考えられます。
もし事故相手がバイク保険に加入していない場合、ご自身がケガをして損害賠償を請求したとしても賠償金を支払ってもらえないかもしれません。
バイク保険の多くには、賠償能力がない相手と事故をしたときに保険金が支払われる「無保険車傷害特約」が自動付帯されています。
バイク保険に加入しておくことで、相手が無保険であったとしても保険金を受け取れるため、より安心して快適なツーリングを楽しめます。
バイク保険の保険料の決まり方
バイク保険に加入するためには、保険料を支払わなければなりません。
バイク保険の保険料は、ドライバーの事故実績や運転する人の範囲、走行距離、バイクの排気量などをもとに算出されます。
ノンフリート等級制度
ノンフリート等級制度は、バイク保険を契約する人の事故実績(保険金を支払った実績)に応じて等級を設定し、保険料を算出する制度です。
ノンフリート等級は、1〜20等級まであります。
4等級以上に区分されると、保険料に所定の割引が適用され、等級の数値が高くなるほど割引率も高くなる仕組みです。
初めてバイク保険に加入する人の多くは、6等級から始まります。
1年間、保険金を請求しなければ等級は1つ上がりますが、所定の保険金を請求すると1等級または3等級ダウンします。
事故の例 | |
---|---|
3等級ダウン事故 | ・他人のモノを壊した ・他人を死傷させた ・自分の車を壊した |
1等級ダウン事故 | ・車両が盗難・落書きにあった ・車両が台風の被害にあって故障した |
ただし、事故にあっても人身傷害保険や搭乗者傷害保険などしか請求しなかった場合は、 ノーカウント事故となります。
ノーカウント事故であれば、翌年は事故がなかったときと同様に1等級上昇します。
事故有係数適用期間
事故によってバイク保険の保険金を請求すると、ノンフリート等級がダウンするだけでなく「事故有係数」が適用されて保険料が割増となります。
事故有係数が適用される期間は、3等級ダウン事故の場合は3年、1等級ダウン事故の場合は1年となります。
なお事故有係数が適用されるのは、 ノンフリート等級が7以上である場合です。
運転する人の範囲・年齢
バイク保険は、事故を起こしたときに補償が適用される人の範囲と年齢を指定することで保険料が安くなります。
運転する人の範囲 | ・本人(記名被保険者)のみ ・本人+配偶者 ・本人+家族 ・限定なし |
運転する人の年齢 | ・全年齢 ・21歳以上 ・26歳以上 ・30歳(35歳)以上 |
※保険会社によって選択できる範囲が異なります。
たとえ家族であっても、設定した範囲や年齢に当てはまらない人が、バイク保険の契約対象となっているバイクを運転して事故を起こすと補償は受けられません。
バイクを運転する人の範囲や年齢は、適切に設定することが大切です。
年間走行距離
バイク保険の中には、年間の走行距離に応じて保険料が変わるものがあります。
バイクの年間走行距離が長いほど、交通事故に遭うリスクが高まるため保険料は高くなる仕組みです。
バイクの排気量
バイク保険では、バイクの排気量が保険料計算に影響します。
これは、バイクの排気量が多いほど、スピードが出るため事故が発生しやすくなると考えられているためです。
記名被保険者の免許証の色
免許証の色には、運転年数や違反の回数などにおいて「ゴールド」「ブルー」「グリーン」に区分されます。
記名被保険者が、事故や違反が少ない優良な運転者であることを表すゴールド免許を持っていると、バイク保険料が割引となる場合があります。
バイク保険の選び方とは?保険料を安くする方法も解説
「バイク保険の選び方がわからない」「加入したいけれども保険料を抑えたい」と考える方も多いのではないでしょうか。
ここでは、 バイク保険を選ぶときのポイントや保険料を抑える方法を解説していきます。
代理店型と通販型(ダイレクト型)
バイク保険には、「代理店型」と「通販型(ダイレクト型)」の2種類があります。
バイク保険の種類
-
代理店型:自動車ディーラーや保険代理店などを通じて加入するバイク保険
- 通販型(ダイレクト型):インターネットや電話などで加入するバイク保険
補償内容が同じである場合、ダイレクト型のほうが保険料は安くなります。
ダイレクト型のバイク保険は、代理店への手数料は店舗の運営費などがかからないぶん、保険料が割安となっているためです。
一方でダイレクト型のバイク保険は「車両保険を選択できない場合がある」「補償を選ぶときや事故が発生したときに代理店の担当者によるサポートが受けられない 」などのデメリットがあります。
できるだけ保険料負担を抑えたいのであれば、ダイレクト型を中心に検討すると良いでしょう。
一方で、補償を手厚くしたい方や手厚いサポートを受けたい方は、代理店型がおすすめです。
ファミリーバイク特約も検討する
運転しているバイクが125cc 以下であれば、すでに契約している自動車保険やバイク保険にファミリーバイク特約を付帯するのも方法でしょう。
ファミリーバイク特約であれば、一つの契約でご自身や家族が所有するバイクのすべてが補償の対象となります。
世帯で複数のバイクを所有しているのであれば、ファミリーバイク特約にしたほうが、1台ずつバイク保険に加入するよりも保険料を抑えられる可能性があるのです。
ロードサービスの内容を比較する
ロードサービスとは、交通事故や日常の運転で発生するさまざまなトラブルに対処してくれるサービスです。
代表的なロードサービスの内容は、以下の通りです。
ロードサービス名 | サービス内容 |
---|---|
レッカーサービス | 事故にあったバイクを修理工場や自宅まで搬送してくれる |
レンタカー無料 | バイクが事故や故障などで代車が必要になった場合、一定時間(多くは24時間)のレンタカー費用を負担してくれる |
キー閉じ込み対応 | キー閉じ込みが発生したときに解錠してくれる |
ガス欠時の対応 | ガス欠が発生した際にガソリンを届けてくれる。ガソリン代は有料の場合もあれば、10リットルまで無料の場合もある |
宿泊費サポート | バイクの故障や事故などで帰宅が困難になった場合に宿泊費用を負担してくれる |
保険会社によって提供しているロードサービスの内容や種類、無料で対応してくれる範囲や回数などが異なります。
バイク保険への加入を検討する際は、保険会社が提供するロードサービスも比較して選ぶと良いでしょう。
車両保険の必要性を考える
バイク保険の補償のなかでも、車両保険は特に保険料が高額です。
保険料を抑えたいのであれば、車両保険を付帯せずにバイク保険に加入する方法もあります。
一方でローンを組んでいる方は、事故を起こしてバイクが大破すると、返済義務だけが残ってしまいかねないため車両保険に加入しておくと安心です。
また、バイクの本体価格が高い方は、車両保険に加入していると保険金で修理費用を買い替え費用をカバーできるため、貯蓄を大きく減らさずに済みます。
複数の保険会社から見積もりを取り寄せる
契約内容が同じであっても、保険会社によってバイク保険の保険料は異なります。
これは、保険料を算出する方法や適用できる割引の制度が、保険会社ごとに異なるためです。
バイク保険を検討する際は、複数の保険会社から見積りを取り寄せて比較したうえで加入先を選ぶと良いでしょう。
まとめ
バイク保険は、任意の自動車保険と同じく事故相手から請求された損害賠償を無制限で補償してくれます。ドライバーが負ったケガや後遺障害を負ったり、亡くなったりしたときの補償も付帯が可能です。
またバイク保険の多くには、無保険車傷害保険が自動付帯されているため、 事故相手が保険に加入していなかったときの金銭的なリスクに備えられます。
交通事故が発生すると、億単位の損害賠償責任を負うことがあります。また、バイクは乗っている人の体が外部に露出しているだけでなく、基本的にヘルメットやプロテクターしか身体を守るものがないため、事故が発生したときにケガをしやすいです。
バイク同士の接触事故のときは、相手がバイク保険に加入していなければ十分に賠償してもらえない可能性もあります。より安心してバイクの運転を楽しみたいのであれば、バイク保険に加入しましょう。