厚生労働省の調査によると、2024年度上半期における正常分娩の出産費用は全国平均で約51万8,000円にのぼり、異常分娩ではさらに費用がかさむケースも珍しくありません。
出産を控えるなかで、「加入中の医療保険から給付金は支払われるのだろうか」と気になっている方もいるのではないでしょうか。
実際のところ、医療保険の給付対象となるかは分娩方法や処置の内容によって異なります。
また、受け取れる給付金額も加入先の保険商品によってさまざまです。
本記事では、正常分娩・異常分娩・無痛分娩といったケース別の給付条件と受け取れる金額の目安を解説します。
妊娠中に医療保険を検討する際の注意点も紹介しますので「今から医療保険に入っても間に合うのか」が気になっている方も参考にしてください。
出産で医療保険はおりる?
出産で医療保険の給付金を受け取れるかは、分娩方法や分娩後の経過などによって異なります。
自己負担を少しでも抑えたい場合は、想定される分娩方法が医療保険の給付対象に該当するかを事前に確認しておくと安心です。
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正常分娩の場合
正常分娩の場合、原則として民間の医療保険から給付金は支払われません。
多くの医療保険は「治療を目的とした病気やけが」を保障対象としているためです。
公的医療保険(健康保険)も適用されず、分娩にかかる費用は全額自己負担となります。
ただし、公的制度である出産育児一時金は分娩方法を問わず支給されます。
2023年4月以降の支給額は子ども一人あたり原則50万円です。
多くの医療機関では「直接支払制度」に対応しており、窓口での支払いは一時金との差額分のみで済みます。
異常分娩の場合
異常分娩とは、分娩の過程で医療行為の介入が必要になった出産を指します。
異常分娩に該当する場合は公的医療保険が適用されるため、医療費の自己負担は原則3割です。
加えて、民間の医療保険に加入していれば、入院給付金や手術給付金の支払い対象となる可能性があります。
異常分娩として扱われる代表的なケースは以下のとおりです。
異常分娩として扱われる代表的なケース
- 帝王切開(母体や胎児の状態に応じて、腹部を切開して赤ちゃんを取り出す)
- 器械分娩(吸引カップや鉗子を用いて、赤ちゃんの娩出を補助する)
- 常位胎盤早期剥離(胎盤が出産前にはがれ、大量出血や胎児の酸素不足を引き起こす)
- 子宮破裂(分娩中に子宮壁が裂け、母体に深刻な出血をもたらす)
また、陣痛が弱く分娩が進まない「微弱陣痛」に対して陣痛促進剤を投与する場合なども、医療保険の支払い対象となる可能性があります。
医師が医学的に必要と判断して実施した治療であれば、当初の分娩予定にかかわらず保険の給付対象となり得る点を覚えておきましょう。
さらに、弛緩出血や胎盤遺残といった出産時または出産後に治療を要するトラブルが生じた場合も、異常分娩もしくは産じょく期の異常として扱われるのが一般的です。
こうしたケースでは公的医療保険が適用され、民間の医療保険から給付金を受け取れる可能性があります。
- 「産褥期」とは?
-
出産後、母体が妊娠前の状態に戻るまでの回復期間のこと。
一般的に分娩後6〜8週間とされ、身体的な回復とともに、ホルモンバランスの変動による精神的な不安定さが生じやすい時期でもある。
ただし、民間の医療保険で給付対象となるかは、診断名・手術名・入院理由・約款の内容・加入時期などによって異なります。
同じ異常分娩でも保険商品や契約条件によっては給付金が支払われないケースもあるため、加入中の保険の約款や保障内容を事前に確認しておきましょう。
関連記事:帝王切開の費用に医療保険は適用される?出産前に知っておきたい保険や社会保障制度
無痛分娩の場合
無痛分娩(硬膜外麻酔分娩)が医療保険の給付対象になるかどうかは、実際に行われた処置の内容によって判断が分かれます。
無痛分娩は妊婦自身が希望して選択する分娩方法であり、医学的に必要な治療行為とはみなされないのが一般的です。
そのため、無痛分娩を選んだだけでは民間の医療保険から給付金は支払われず、公的医療保険も適用されません。
麻酔にかかる費用は自己負担となるケースがほとんどです。
ただし、無痛分娩の途中で異常が発生し、帝王切開や吸引分娩への切り替えが必要になった場合は、異常分娩として扱われるため、公的医療保険が適用されるとともに、民間の医療保険でも給付対象となる可能性があります。
異常分娩で受け取れる医療保険の給付金の種類と金額の目安
異常分娩で入院・手術を受けた場合、民間の医療保険からは以下の給付金を受け取れる可能性があります。
受け取れる可能性のある給付金
- 入院給付金(入院日数に応じて支払われる)
- 手術給付金(所定の手術を受けた際に支払われる)
- 女性疾病特約の上乗せ給付(付加している場合に追加で支払われる)
ここでは、帝王切開で7日間入院したケースを想定し、保障内容が異なる3つの保険商品で受け取れる給付金額をシミュレーションしました。
※厚生労働省の調査によると帝王切開の平均入院日数は約7日で、正常分娩に比べると若干長くなる傾向があります。
出典:厚生労働省|分娩取扱施設を対象とした「分娩取扱施設における出産に係る費用構造の把握のための調査研究」について
- A社:入院給付日額5,000円/手術給付金は給付倍率タイプ(日額の10倍)/女性疾病特約なし
- B社:入院給付日額5,000円/手術給付金は給付倍率タイプ(日額の20倍)/女性疾病特約あり(日額5,000円上乗せ)
- C社:入院給付日額10,000円/手術給付金は固定タイプ(一律10万円)/女性疾病特約あり(日額5,000円上乗せ)
A社 |
B社 |
C社 |
|
|---|---|---|---|
入院給付金 |
5,000円×7日=35,000円 |
5,000円×7日=35,000円 |
10,000円×7日=70,000円 |
手術給付金 |
5,000円×10倍=50,000円 |
5,000円×20倍=100,000円 |
一律100,000円 |
女性疾病特約 |
なし |
5,000円×7日=35,000円 |
5,000円×7日=35,000円 |
給付金合計 |
85,000円 |
170,000円 |
205,000円 |
同じ入院日数・同じ手術を受けた場合でも、入院日額の設定や手術給付金の倍率、女性疾病特約の有無によって受け取れる金額に差が生じます。
また、会陰切開のように、正常分娩か異常分娩かによって給付の判断が分かれる処置もあります。
異常分娩の一環として行われた会陰切開は公的医療保険の適用対象となり、民間の医療保険でも給付金を請求できる可能性があります。
一方、正常分娩のなかで行われた会陰切開は公的医療保険の対象外であり、民間の医療保険からも給付金は支払われません。
陣痛促進剤の投与によって異常分娩へ移行したケースなど、会陰切開以外の処置についても同様の考え方が当てはまります。
※上記はあくまで一般的な保障内容にもとづくシミュレーションであり、実際の給付金額は保険商品の約款・契約内容・加入時期などによって異なります。正確な金額は加入先の保険会社へご確認ください。
関連記事:会陰切開は保険適用外?適用されるケースや出産時に利用できる制度を解説
妊娠中や出産前に医療保険を検討する際の注意点
妊娠中や出産前に医療保険への加入を検討する場合、妊娠前とは異なる制約が生じます。
知らずに手続きを進めると、必要な保障を受けられないこともあるため、注意しましょう。
妊娠は保険会社への告知義務がある
医療保険に加入する際は、現在の健康状態や過去の傷病歴などを保険会社に申告する告知義務があります。
妊娠中に加入を申し込む場合も同様で、妊娠している事実や妊婦健診での指摘事項を正しく告知しなければなりません。
告知内容に虚偽があった場合は「告知義務違反」に該当し、給付金が支払われなかったり、契約が解除されたりする可能性があります。
妊娠を隠して加入しても、給付金の請求時に保険会社の調査で発覚するケースがあるため、ありのままを正確に告知しましょう。
加入にあたり特別条件が付く可能性がある
加入できる場合でも、特別条件が付くケースが多いため注意が必要です。
特別条件とは、特定の部位や疾病に関する治療を一定期間(または契約期間中)保障の対象外とする条件を指します。
特別条件には主に以下の種類があります。
特別条件の種類
- 特定部位不担保:特定の身体部位(例:子宮)に関する入院・手術が保障対象外となる
- 特定疾病不担保:特定の疾病(例:異常妊娠・異常分娩)のみが保障対象外となる
どちらの条件が付くかは保険会社や告知内容によって異なります。
加入前に不担保の範囲と期間を必ず確認しておきましょう。
加入できる妊娠週数に制限がある
民間の医療保険の多くは、妊娠中の加入に週数の制限を設けています。
一般的には妊娠27週目(妊娠7か月頃)までが加入の目安とされており、28週目以降は新規加入が難しくなります。
妊娠週数に制限のない商品も存在しますが、免責期間(加入後1年未満の帝王切開は給付対象外など)などの条件が設定されているケースがほとんどです。
妊娠週数が進むほど選択肢は限られていくため、加入を検討している場合はできるだけ早い段階で手続きを進めましょう。
出産までに医療保険へ加入できなかった場合の対処法はある?
妊娠後期に入り、医療保険への新規加入が間に合わなかった場合でも、公的制度を活用して経済的な負担を軽減する方法があります。
高額療養費制度を利用する(※異常分娩の場合)
まず、異常分娩で公的医療保険が適用された場合は、高額療養費制度を利用できます。
高額療養費制度とは、1か月あたりの医療費の自己負担額が所得に応じた上限額を超えた際に、超過分が払い戻される仕組みです。

マイナ保険証や限度額適用認定証を提示すれば、窓口での支払い自体を上限額までに抑えられるため、出産前に申請しておくとよいでしょう。
医療費控除を受ける
さらに、1年間に支払った医療費の合計が10万円(総所得金額等が200万円未満の場合は、総所得金額等の5%)を超えた場合は、確定申告で医療費控除を申請して税負担を軽減する方法もあります。

出典:国税庁|No.1120 医療費を支払ったとき(医療費控除)
妊婦健診の自己負担分や通院時の交通費なども控除の対象となるため、領収書や診療明細書は出産後まで保管しておきましょう。
関連記事:高額療養費制度はいくら以上から適用?申請方法や年代別の計算方法をわかりやすく解説
関連記事:確定申告の医療費控除とは?いくらからもらえるのかシミュレーションや申請方法を解説
まとめ
正常分娩は医療保険の給付対象外ですが、帝王切開をはじめとする異常分娩では入院給付金や手術給付金を受け取れる可能性があります。
ただし、妊娠判明後に医療保険へ加入する場合は特別条件が付いたり、妊娠週数や告知内容によっては加入できなくなったりする可能性もあるため、妊娠前の段階で早めに加入を検討しておくとよいでしょう。
すでに医療保険に加入している方は、出産前に自身の契約内容を確認し、給付金を請求できる範囲を把握しておきましょう。
また、公的医療保険が適用されない妊娠・出産についてより詳しく知りたい方は、【コのほけん!】公的医療保険の適用外となる妊娠・出産とは?民間の医療保険での備え方を解説もあわせてご覧ください。