生命保険や医療保険、がん保険などに申し込むときは、保険の対象となる人の健康状態や職業を告知しなければなりません。
告知した内容次第では、申し込んだ保険契約に加入できないことがあります。
もし、健康状態に不安があったとしても虚偽の内容を告知してはいけません。
告知した内容と事実が異なる場合、告知義務違反となって保険金や給付金が支払われないなどのペナルティーを受ける恐れがあります。
生命保険の加入時に告知が必要な理由や、告知義務違反をした場合のリスク、健康状態に不安がある人の対処法などを幅広く解説します。
生命保険の告知義務とは?
生命保険に加入する際は、契約者または被保険者(保障の対象となる人)の状態を、ありのままに告知する義務(告知義務)があります。
生命保険を申し込む際、契約書と合わせて所定の告知書に健康状態や過去の傷病歴などを記入します。
加入する人の年齢や保険金額の多寡によっては、健康診断結果の添付が必要です。
生命保険の加入時に告知が必要な項目は、身長・体重・職業・年収・他社の保険加入状況、健康状態です。
健康状態は、以下のように問われます。
告知書に記載されている質問の例 | |
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現在の健康状態 |
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過去の傷病歴 (既往歴) |
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健康診断・人間ドック | 過去2年以内に健康診断・人間ドックで所定の臓器または検査項目で以上を指摘されたことがありますか ※所定の臓器とは心臓・肝臓・腎臓・など※検査項目とは血圧測定・尿検査・血液検査・心電図検査など※異常とは要経過観察・要再検査・要精密検査・要治療 |
身体障害の有無 |
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妊娠の有無 (女性限定) |
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がんについて |
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上記のような質問に該当する場合は「はい」、該当しない場合は「いいえ」で回答します。
申し込む保険の種類によっては、「はい」と答えた告知項目があると、疾病の名前や処方された薬の名前などの詳細を記入しなければなりません。
告知で問われる内容は、保険会社や保険商品などによって異なります。一部の貯蓄型保険は、職業の告知のみで加入できる場合や、告知がまったくないものもあります。
保険会社の職員や保険代理店に、健康状態や過去の病歴を口頭で伝えても告知したことにはなりません。
ただし、保険契約によっては保険会社指定の医師の質問に答える形で、告知をすることはあります。
被保険者が告知をしたあとは、保険会社による診査が行われます。診査の結果によっては、生命保険に加入できません。
また、生命保険に加入ができたとしても、以下のような特別条件が適用される場合があります。
特別条件
- 保険料の割増:保険会社に支払う保険料が通常よりも割高になる
- 保険金額の削減:受け取れる保険金が減額される
- 特定疾病・部位の不担保:特定の臓器や特定の疾病を保障の対象から除外する
例えば、医療保険を申し込む前に、帝王切開によって出産をした経験がある場合、加入したあとに帝王切開を受けても入院給付金や手術給付金は受け取れないケースがほとんどです。
保険会社が診査した結果、特別条件が提示された場合「特別条件承諾書」を記入し、押印して提出すると保険契約は成立します。
また、新たに保険に加入するときだけでなく、以下のようなケースに当てはまる場合も、告知は必要です。
新規加入以外で告知が必要となる例
- 保険金額を増額したり、特約を中途付加したりする場合
- 契約中の保険を、別の保険契約に転換するとき
- 失効していた保険契約を復活させるとき
一方で、保険期間が満了を迎えて契約を更新するときは、原則として告知の必要はありません。
告知が必要な理由
生命保険の契約時に告知が必要な理由は、加入者の間で不公平が生じないようにするためです。
生命保険は、加入者同士が保険料を出し合って運営されている相互扶助の制度です。
生命保険の保険料は、年齢や性別ごとの死亡する確率や病気になる確率をもとに計算されています。そのため、同一の保険商品において、年齢と性別が同じであれば保険料は変わりません。
しかし、保険料が同じであるにもかかわらず、保険金を受け取れる確率が異なると加入者の間で不公平が生じてしまいます。
生命保険の保険金や医療保険の給付金を受け取れる確率が高い人とは、死亡したり病気になったりするリスクが高い人。つまり、健康状態が良くない人です。
保険の契約時に被保険者の健康状態を告知してもらい、保険金や給付金が受け取りやすい状態の人が、そうでない人と同じ保険に加入できない仕組みにしています。
上記と同様の理由で、ケガをしやすい職業の人が他の人と同じ条件で保険に加入しても、不公平が生じてしまいます。
保険金や給付金を受け取りやすい職業の人が、他の人と同じ条件で保険に加入しないよう、保険契約の申込時に職業の告知も求められるのです。
告知義務違反となった場合のリスク
故意、または重大な過失によって、重要なことを告知しなかったり、事実と異なることを告知した場合は告知義務違反となります。
保険会社から告知義務違反とみなされると、保険金や給付金が支払われません。
告知義務違反とみなされるケースは、以下の通りです。
告知義務違反とみなされる代表的なケース
- 所定の期間内に入院や手術を受けていたにもかかわらず告知しなかった
- 過去にかかったことのある傷病名を偽って記入した
- 服用している薬があるにもかかわらず告知しなかった
例えば、血圧を下げる薬を服用していたにもかかわらず告知をしなかった場合、高血圧が原因と想定される病気で亡くなった場合に死亡保険金が支払われません。
なお、加入者が意図して告知義務違反をした場合だけでなく、告知をし忘れていた場合も告知義務違反とみなされる場合があります。
告知義務違反となった場合、保険会社は保険契約を解除または取り消しを行います。
保険契約の解除
保険契約の解除とは、保険の契約日にさかのぼって、契約そのものを最初からなかったことにする措置です。
保険契約が解除されると、たとえ保険会社に請求中であっても保険金や給付金が支払われることはありません。
告知義務違反が発覚すると、保険会社は一定期間内であれば契約者の同意を得ることなく保険契約を解除できます。
もし、契約が解除となった時点で解約返戻金がある場合は、契約者に返還されます。
ただし、保険の保障が有効になる日(責任開始日)から2年以上経過している場合は、告知義務違反があっても契約は解除されません。
もし、責任開始日から2年を超えて保険金や給付金を請求しても、保険金や給付金を支払う事由が発生したのが責任開始日から2年以内であった場合、契約を解除される可能性があります。
保険契約の取消し
責任開始日から2年が経過していても、告知義務違反の内容が重大で、保険契約者による詐欺行為があったと保険会社から判断されると保険契約は取消しとなります。
例えば「現在の医療水準では治癒が困難または死亡危険のきわめて高い疾患の既往症・現症等について故意に告知されなかった場合」のようなケースでは、重大な告知義務違反として保険契約が取消しとなるのです。
保険契約が取り消されると、保険金や給付金を請求しても受け取れないばかりか、支払った保険料が戻ってくることもありません。
時効・過失・告知妨害・不告知教唆の場合は解除されない
保険契約を締結したときから2年が経過した場合や、保険会社が契約を解除できる理由を知ってから1ヶ月以上が経過すると時効となります。
時効を迎えると告知義務違反があったとしても、保険会社は保険契約を解除できません。
また、保険の契約を締結した時点で、保険会社が解除の原因となる事実を知っていた場合や、過失によって知らなかった場合も保険会社は契約を解除できません。
もし、保険会社の職員から告知を妨害(告知妨害)されたり、告知義務違反を勧められたり(不告知示唆)した場合も、保険会社は契約を解除できないとされています。
保険の契約時に、保険会社の職員から「この病気については告知しなくても良い」などと言われた場合には、不告知示唆にあたるため保険契約が解除されない可能性があります。
告知義務違反を避けるための注意点
告知義務違反を避ける方法は、以下の3点です。
告知義務違反を避ける方法
ありのままを記入する
保険加入の引受診査にマイナスになると感じる事実があっても、内容を偽ることなく実際にあったことをありのまま記入することが、告知においては重要です。
保険会社は、保険金や給付金を支払うときも、被保険者の既往歴を徹底的に調べます。事実と異なることを告知して加入しても、あとで必ず発覚します。
また、告知書は一部の保険契約を除いて、契約者または被保険者本人が記入する必要があります。質問の内容に対してありのままを告知書に記載しましょう。
ただし、告知書に問われていないことまで記載をする必要はありません。
例えば「5年以内に病気やケガで7日以上入院したことがありますか」と問われたとしましょう。もし7年前に、病気で7日以上の入院をした経験があった場合、5年以内の入院ではないため告知は不要です。
曖昧な表現を利用しない
記憶が定かではなく、告知書の質問に対して回答が難しかったとしても、曖昧な表現で記載したり空欄にしたりするのではなく、できる限り詳しく記載しましょう。
過去の病歴について曖昧に記入してしまうと、保険会社の診査において不利になる恐れがあるためです。
例えば、告知書に「薬を服用した」とだけ記載をすると、診査をする保険会社は申し込んだ人がどのような薬を服用していたのかが分かりません。
告知書に曖昧に記載してしまうと、保険会社は最悪の事態を想定し、告知された疾病から考えられるもっとも重い薬を服用していたと仮定して診査が進められる恐れがあります。
そのため、過去に薬が処方されていた場合は、薬の名前や処方された期間、服用した頻度などを詳しく告知することが大切です。
できれば、保険を申し込むときは病院の診察券やお薬手帳、健康診断の結果など、告知に必要な情報が分かるものを手元に用意するのが望ましいです。
保険契約を結ぶときに、どのような項目を告知する必要があるのか事前に担当者に確認しておきましょう。
既往歴がある場合は、現在の状態も合わせて正確に記入する
既往歴がある場合は、過去にかかった病気や治療を受けた病院名、処方された薬の種類だけでなく、現在の状況も詳細に記入しましょう。
告知書には、現在の状況について記載する欄があります。すでに病気が完治している場合は、担当医から完治と言われた日を記入します。
もし、完治しておらず「治療中」や「経過観察中」なのであれば、通院している頻度や服用中の薬の名前など、現在の状況を詳細に記載しましょう。
現在の状況が記載されていない場合、過去に受けた治療が現在も続いていると保険会社に判断されてしまうかもしれません。
健康状態に不安のある人は告知項目の少ない保険や告知の不要な保険を検討する
持病があったり、過去に大病患っていたりなど、ご自身の健康状態に不安がある場合は、告知項目が少ない保険や告知が不要な保険を検討すると良いでしょう。
具体的には、以下の2点です。
健康状態に不安がある人でも申し込みやすい保険
引受基準緩和型(限定告知型)保険
引受基準緩和型(限定告知型)保険とは、通常の保険よりも告知項目が少ない保険です。
独立行政法人国民生活センターによる、代表的な告知例は以下の3点です。
代表的な告知項目例
- 最近3カ月以内に医師から入院・手術・検査・先進医療を勧められたことがありますか。
- 過去2年以内に入院をしたことがありますか。
- 過去5年以内にがん・肝硬変・慢性肝炎で医師の診察・検査・治療・投薬を受けたことがありますか。
参考:独立行政法人国民生活センター|引受基準緩和型の医療保険
近年は、引受基準緩和型保険を取り扱う保険会社も増えてきました。
引受基準緩和型保険は、告知項目に回答しなければ、健康状態に不安がある人でも申し込めます。ただし、告知項目を少なくしている分保険料が割高だったり、保障内容が制限されていたりするのが一般的です。
特に、引受基準緩和型保険に加入してから一定期間は、保険金額や給付金額が削減されるものもありますので、契約時に必ず確認しましょう。
無選択型保険
無選択型保険とは、加入時の告知が不要である保険です。契約者または被保険者の健康状態にかかわらず加入できます。
ただし、無選択型保険は引受基準緩和型保険よりも、さらに保険料が割高で保障の制限も厳しいです。
持病を持っていたり、過去に大病患っていたりしても、通常の保険や引受基準緩和型の保険に加入できる可能性はゼロではありません。
また、2020年11月現在、無選択型保険に加入できる保険会社は少ないです。通常の保険や引受基準緩和型保険への加入が難しいことを確認してから、無選択型保険への加入を検討しましょう。
まとめ
最後に、告知義務についての要点をまとめます。
生命保険加入時の告知と必要性
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生命保険や医療保険、がん保険などに加入する時は契約者または被保険者の状態をありのまま告知しなければならない
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告知すべき項目は、契約者または被保険者の健康状態だけでなく、身長・体重・職業・他社の保険加入状況なども含まれる
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告知が必要な項目は、保険会社や保険商品によって大きく異なる
- 保険の加入時に告知が必要な理由は、加入者間での公平性を保つため
告知義務違反をした場合のリスク
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故意、または重大な過失により重要な事実を告知しなかったり、事実と違うことを告知したりした場合は、告知義務違反に該当する場合がある
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告知義務違反に該当すると、保険会社から保険契約を解除または取り消しされる恐れがある
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保険契約を解除されたり取り消されたりすると、たとえ保険金や給付金の請求期間中であっても支払われない
- 「時効」「過失」「告知妨害」「不告知示唆」に該当する場合は、重要な事項告知しなかったり事実とは違うことを告知したりしても、告知義務違反には該当しない可能性がある
告知義務違反を防ぐ対処法と健康状態に不安のある人が検討すべき保険
- 告知書はありのままの事実を正確に記入する
- 告知書は曖昧に記入しない
- 過去の病歴や服薬歴だけでなく、現在の状況も正しく記入する
- 健康状態に不安がある人は「引受基準緩和型(限定告知型)保険」や「無選択型保険」も検討する
生命保険の診査に通過できるか不安だからといって、事実と異なることを告知してはいけません。
仮に、事実と異なることを告知しても、保険金や給付金の支払い時に必ず発覚します。
ご自身の健康状態で加入できる可能性のある保険を知りたい方は、ファイナンシャルプランナーなど、保険のプロに相談することをおすすめします。
保険の診査基準は、保険会社によって大きく異なります。また、保険会社や保険商品によっては、特別条件付きで加入できるかもしれません。
各保険会社の診査基準に詳しい保険のプロに相談することで、過去の経験から診査に通過できる可能性のある保険会社や保険商品を提案してくれます。
保険会社の診査基準は、一般に公開されているわけではありません。
保険に詳しくない人が、加入できる可能性のある保険を自力で探し出すのは困難であるため、専門家の力を借りるようにしましょう。