結論からお伝えすると、がん保険の複数加入は可能です。
手厚い保障を備えられるので、がん治療の金銭面での負担を軽減する効果が期待できます。
一方、がん保険に複数加入することによるデメリットも存在します。
本記事では、がん保険の複数加入によるメリットやデメリット、注意点についてわかりやすく解説します。
この記事でわかること
がん保険の複数加入は可能
ひとりの契約者が複数のがん保険に加入することは可能です。
日本対がん協会のまとめでは、2022年のがん死亡者数は約38.6万人(男性約22.3万人、女性約16.3万人)で、1981年から連続してがんの死亡者数は全死因数の中でトップとなっています。
さらに、国立がん研究センターの統計によると、日本人が生涯でがんと診断される確率は男女ともに半数を超えており、男性の場合は4人に1人、女性の場合は6人に1人はがんで死亡する可能性があるとされています。
出典:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)
複数のがん保険に加入していれば、各保険会社から給付金を受け取れる可能性があるため、死亡率が高いがんに対して手厚い保障を備えられるようになります。
それぞれ加入している保険会社から給付金を受け取ることができる
がん保険は、保険会社や商品によってがんに対する保障内容や保障範囲は大きく異なります。
たとえば、一般的ながん保険の保障内容は次の通りです。
※1 公的保険制度の給付対象のみが適応となるタイプと、自由診療治療のものでも適応されるタイプなど商品により異なります※商品により、付帯できる特約や、内容が異なる場合がございます
がん保険に複数加入していれば、加入中の保険会社それぞれから給付金を受け取れます。
ただし、給付金を受け取るには保険会社の定める保障範囲の事案に該当していなければならず、必ずしも複数のがん保険から保険金が支払われるとは限りません。
たとえば、多くのがん保険で保障内容に含まれている「がん入院給付金」は、がん治療で入院をする際に支払われる給付金です。
厚生労働省の「患者調査の概況」によれば、近年では通院治療が主流になってきています。
※人口10万対参照:平成17~令和2年 患者調査|厚生労働省
がん保険に複数加入していても、通院治療となった場合には入院給付金が保障の中心であるがん保険からは十分な給付金が支払われないかもしれません。
がん保険の複数加入によるメリット
がん保険の複数加入によるメリットは、次の2つが挙げられます。
がん保険の複数加入によるメリット
1. 充実した保障が受けられる
がん保険に複数加入すれば、充実した保障が受けられるようになります。
たとえば、入院保障が充実しているAと通院保障が充実しているBのがん保険に加入していれば、がん治療で入院と通院のどちらかが長引いても安心して治療に専念できます。
また、診断給付金による保障がメインのがん保険では、放射線治療や抗がん剤治療、手術費用への備えとして不十分である可能性も考えられます。
そこで治療保障が充実したがん保険に合わせて加入しておけば、診断給付金を受け取りながら、治療費が不足しそうな場合には別のがん保険の給付金を充てられます。
がん保険の複数加入で、保険商品ごとに不足している保障を補い合える点は大きなメリットと言えるでしょう。
2. 既に加入している保険を活かせる
2つ目のメリットは、既に加入している保険を活かしながら最新の保障を持つことができる点です。
過去に加入したがん保険は最新の治療方法に対応していない場合がありますが、中には診断給付金や入院給付金など今でも活用できる保障があります。
現在、過去に加入したがん保険を活かせるように、足りない部分を補う商品が発売されています。
一般的に加入時の年齢が上がると保険料も高くなるため、過去に加入した保険のほうが保険料が低いことが多いです。
そのため、これまでの保険を活用しがん保険に複数加入することで、保険料を抑えながら最新の保障を持つことができます。
がん保険の複数加入によるデメリット
一方、がん保険の複数加入によるデメリットとしては、次の2点が挙げられます。
がん保険の複数加入によるデメリット
1. 保険料負担が大きくなる
がん保険に複数加入することによるデメリットは、保険料の負担が大きくなる点です。
一般的に、生命保険は保障内容を充実させると、保険料も高くなります。
複数のがん保険に加入する場合は、お互いに不足している保障を補い合う形で必要な保障に絞り、保障内容の重複を避けることを意識すれば合理的な保険料に抑えられます。
2. 給付金請求の手間が増える
支払事由に該当した場合に複数の保険会社や商品から給付金を受取れます。
ただし、受け取るには契約者自身が保険会社に対して請求手続きを行わなければなりません。
複数の保険会社と契約している場合、それぞれの保険会社に対して請求手続きを行うことになるため、給付金を受け取るための手間が増える点に注意が必要です。
がん保険への複数加入を検討する場合は、保障内容や保険期間などと合わせて、給付金の請求手続きや必要書類についても確認しておくようにしましょう。
がん保険に複数加入する際の注意点
がん保険に複数加入する際は、次の3つの注意点があります。
がん保険に複数加入する際の注意点
1. 保障内容が重複しないようにする
がん保険に複数加入する際は、保障内容が重複していないか組み合わせをよく確認することが大切です。
がん保険は、保障内容に応じて次の3種類に分けられます。
説明 |
用途例 |
|
---|---|---|
診断給付金 |
がんの診断時に給付金が支払われる |
治療中の生活費 治療以外にかかる費用 |
治療給付金 |
手術・放射線・抗がん剤など、がん治療への給付金が支払われる |
治療に関わる費用 |
入院給付金 |
がん治療で入院をした際に給付金が支払われる |
入院時にかかる個室代や食事に関わる費用 |
たとえば、保険会社Aと保険会社Bがどちらも「入院給付金型」を中心とした保障内容の場合、通院治療時には給付金を受け取れず、がんの治療費が家計を圧迫する要因になりかねません。
各商品の特性や内容を理解し、リスクを相互に補えるように商品を組み合わせてください。
また、がん保険以外の保険と保障内容が重複する場合があります。
一般的な医療保険は入院給付金と手術給付金の2種類が基本保障(主契約)で、がん治療の際にも通常の医療保険からこれらの給付金が支払われる場合があります。
そのため、すでに医療保険に加入している方は、医療保険とがん保険の保障内容が重複していないか確認しましょう。
2. 免責期間を確認する
がん保険に複数加入する際は、免責期間についても確認しておくと安心です。
- 「免責期間」とは?
- 給付金が支給されない期間のこと。免責期間中にがんと診断された場合や治療を受けた場合でも、一切の給付金が支払われない。
手術給付金や治療給付金が基本保障のがん保険は、保険会社によって免責期間が設けられていないタイプも存在します。
複数のがん保険に加入する場合は、免責期間がないタイプと組み合わせることで、保障が受けられない空白期間を短縮できるのでおすすめです。
ただし、免責期間が終了した後で給付金の請求手続きを行ったとしても、実際に給付金を受け取るまでには多少の時間がかかる点はあらかじめ理解しておきましょう。
3. 先進医療(自由診療)特約など給付金を二重で受け取ることができない場合もある
保険会社は「契約内容登録制度・契約内容照会制度」を共同利用しており、被保険者から保険金や給付金の請求があった際に登録情報を確認します。
- 「契約内容登録制度・契約内容照会制度」とは?
- 保険契約等の引受けの判断や保険金・給付金等の支払い判断の参考とすることを目的とし、生命保険会社が保険契約に関する登録事項を共同して利用する制度。
そのため、複数加入した場合の保険金や給付金についてどのように支払われるのかを事前に各保険会社へ確認することが大切です。


まとめ
がん保険の複数加入にはメリットがある一方で、デメリットも存在します。
メリット |
デメリット |
---|---|
|
|
がんは治療が長期化しやすく、医療費も高額になりやすいですが、がん保険に複数加入することでより手厚い保障を備えることができます。
ただし、毎月の保険料負担が大きくなる上、各保険会社に対して契約者自身が請求手続きを行う手間が増えることを理解しておきましょう。
また、がん保険には保険会社や商品ごとで様々な保障範囲が定められており、複数加入の際には保障内容が重複しないことを意識しつつ、お互いの不足している保障をカバーし合える保険に加入することが大切です。

- 石田 成則
- 関西大学教授
がん保険への加入を検討する際に大切なことは、がん保険の役割を「上乗せ」か「横出し」にするかです。公的医療保険でも対象となっている治療方法の3割の自己負担部分を補うものか(上乗せ)、対象とならない部分の治療方法や関連サービスを提供するものか(横出し)、両者の違いを考えましょう。
一般的ながん治療費、手術代、通院費などは上乗せ部分になります。これに対して、がんと診断された時点の諸費用、差額ベッド代、入院時の食事代などの経費は横出し部分に当たります。
前者に力点を置いたがん保険と後者が中心のがん保険の両方に加入することには意味があります。
ただし、高額にのぼる高度先進医療を受ける際は「上乗せ」部分の複数加入にも意味はがあります。公的医療保険でも保険外併用療養費制度によって、重粒子線治療などの高度先進医療も順次、対応が進んでいます。それでも、こうした治療では3割の自己負担部分は高額になります。万が一に備える意味で、通常のがん保険に加えて、高度先進医療に特化した保険商品に追加加入することにはメリットがあるでしょう。