先進医療特約とは、先進医療(厚生労働大臣が承認した先進性の高い医療技術)を受けた際に「先進医療にかかった技術料の相当額」を保障する特約です。
今回は先進医療特約の必要性や、特約を選ぶ際の注意点を解説します。
先進医療特約が「いらない」と言われる主な理由
先進医療の治療方法をさらに詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
先進医療特約が「いらない」と言われる理由
先進医療特約は、以下の理由から「いらない」と言われることがあります。
先進医療特約が「いらない」と言われる主な理由
先進医療を受ける確率は低い
先進医療を受ける可能性は決して高くないため、わざわざ特約をつける必要はないという意見があります。
例えば、がん治療に用いられる先進医療として有名な「重粒子線治療」の実施件数は年間462件、「陽子線治療」は年間824件となっています。
これは約100万人いるとされているがん患者の総数と比べると0.1%にも満たない数です。参照:厚生労働省「令和5年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について」参照:国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
給付金の支払い実績が少ないからこそ、先進医療特約は数百円程度の低い保険料で付加できるという側面もあるでしょう。
しかし、先進医療全体でみれば、以下のように実施件数は増加傾向にあります。
先進医療の実績報告対象期間 |
全患者数 |
---|---|
2018年7月1日〜2019年6月30日 |
39,178人 |
2019年7月1日〜2020年6月30日 |
5,459人 |
2020年7月1日〜2021年6月30日 |
5,843人 |
2021年7月1日〜2022年6月30日 |
26,556人 |
2022年7月1日〜2023年6月30日 |
144,282人 |
出典:令和5年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について|厚生労働省
先進医療として認可を受けている治療方法が変化している影響などがあるものの、このデータに基づくと先進医療を受ける確率が低いとはいえないでしょう。
先進医療を受けるためのハードルが高い
先進医療は、治療方法ごとに定められた一定の基準(症状や医師・施設の基準)を満たす医療機関でしか実施できません。
例えば重粒子線治療の場合は以下7箇所のいずれかの医療機関を受診する必要があります。
重粒子線治療を実施している医療機関
- 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 QST病院
- 兵庫県立粒子線医療センター
- 群馬大学医学部附属病院
- 九州国際重粒子線がん治療センター
- 神奈川県立がんセンター
- 大阪重粒子線センター
- 山形大学医学部附属病院
※2024年5月時点参照:先進医療を実施している医療機関の一覧|厚生労働省
遠方の病院で先進医療を受ける場合は、宿泊費や交通費の自己負担が必要になるため、先進医療は受けにくいと思うのも無理はないでしょう。
しかし近年では、先進医療を受ける際にかかる周辺費用をカバーできる「先進医療一時給付金」が支払われる商品も多くなっています。
この給付金によって金銭的な負担を軽減してくれます。
先進医療特約の必要性
先進医療特約は、以下のような理由で必要性が高い特約と言われています。
先進医療特約の必要性
1. 先進医療は公的医療保険制度の適用外
先進医療とは、厚生労働大臣が認めた高度な医療技術を用いた療養とその他の療養のうち、将来的に保険給付の対象とすべきか検討をする「評価療養」の1つです。
評価療養においては、診察や検査、入院基本料、投薬などの基礎的な部分に対して、公的医療保険が適用され1〜3割の自己負担で済みます。
一方で、先進医療にかかった技術料は全額自己負担になるため、高額な費用がかかるケースも珍しくありません。
例えば代表的な先進医療である陽子線治療や重粒子線治療では、1回の治療で約300万円もの費用がかかります。
先進医療の技術料に対しては高額療養費制度も適用できないため、家計への負担が大きくなることが考えられるでしょう。
技術名 |
適応症 |
1件あたりの費用 |
平均入院期間 |
年間実施件数 |
---|---|---|---|---|
陽子線治療 |
がん |
約3,326,252円 |
15.6日 |
824件 |
重粒子線治療 |
がん |
約3,290,385円 |
4.2日 |
462件 |
参照:令和5年6月30日時点で実施されていた先進医療の実績報告について|中央社会保険医療協議会
先進医療特約を付加しておくことで、全額自己負担となる技術料の部分に対して実際に支払った金額が保障されるため、経済的な不安を抱えることなく、治療に専念できるでしょう。
生命保険は基本的に「発生頻度は低いものの、万が一発生した場合の損失が大きいリスク」に備えるものです。
十分な貯蓄がある場合を除いて、先進医療特約をつけることをおすすめします。
2. 治療の選択肢が広がる
先進医療は公的医療保険制度の対象外となるため、治療費が高額になりがちです。
治療を受けてみたいと思っても、お金の問題で治療を諦めてしまう方もいるでしょう。
先進医療特約を付加しておけば経済的な面を気にせず、万が一の場合に治療方法の選択肢が広がります。
先進医療特約はほとんどの場合、毎月数百円程度の負担で加入できるので「絶対に先進医療を受けない」と考えている場合を除き、加入しておいたほうがよいでしょう。
先進医療特約を選ぶ際の3つの注意点
先進医療特約を選ぶ際は、以下のポイントを理解しておきましょう。
先進医療特約を選ぶ際の3つの注意点
1. 医療保険とがん保険で先進医療特約の保障範囲が異なる
医療保険に先進医療特約を付加すると、先進医療として指定されている治療を受けた場合にかかった技術料の相当額の給付金を受け取れます。
一方がん保険に先進医療特約を付加した場合は、基本的にがんに関する先進医療を受けた場合のみ給付金を受け取れないため、注意しましょう。
なお医療保険とがん保険どちらの場合も、基本的に「療養を受けた日時点で」厚生労働大臣が先進医療として定めている治療が保障対象になります。
例えば白内障手術に置いて利用実績の多かった「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」は、2020年3月27日に先進医療の対象から外されたため、それ以降は保険会社で先進医療特約の支払い対象外となりました。
このように、先進医療として指定されている治療に変更があれば給付対象も変更される点には注意が必要です。
2. 更新型と終身型がある
先進医療特約の保険期間には、加入してから一定期間(10年程度であることが多い)を保障する「更新型」と、一生涯保障が続く「終身型」があります。
更新型は、更新のたびに保険料や保障内容が見直されます。
一方、終身型は加入時のまま保険料が上がりません。
定期的に保障を見直したい方は更新型、保険料が途中で値上がりするのを避けたい方は終身型を選ぶとよいでしょう。
ただし、主契約の医療保険やがん保険が終身型であっても、先進医療特約は更新型になっているケースもあるため、加入時に保険期間を忘れずにチェックしましょう。
3. 上限金額がある
先進医療特約には、基本的に1,000万円や2,000万円といった通算支払限度額が設けられています。
先進医療を複数回受けた場合など、限度額を超えると特約は消滅して給付金も支払われません。
先進医療特約が自分に必要かどうか判断することが難しい方は、保険のプロであるFP(ファイナンシャルプランナー)へ無料相談してみましょう。
家計の状況や健康上のリスクなどを踏まえた上で、先進医療特約の必要性について的確なアドバイスをもらえます。


まとめ
先進医療特約は、公的医療保険制度の対象外となる「先進医療の技術料」を保障する特約です。
先進医療の受診機会が少なければ必要性は低いと考えられますが、実施件数は増加傾向にあります。
先進医療特約は、高額な技術料の負担をカバーし、治療の選択肢を広げるために有用です。
数百円程度で付加できる場合が多いので、迷った場合はつけておいた方が無難でしょう。
もし決めきれない場合は、保険のプロであるファイナンシャルプランナーに相談することをおすすめします。



- 鬼塚 眞子
- 保険ジャーナリスト/一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
先進医療の技術料は全額自己負担で、代表的な重粒子線治療は約300万円で、受診を希望するにも経済的な問題がありました。先進医療特約が発売されたことで、一般的に通算500万円~2,000万円の技術料相当額の給付金が受け取れることになりました。中には、通算の保険金内で交通費や宿泊費が支払われるものもあります。
給付金以外に一時金を受け取れる商品も発売されています。今後、先進医療はどうなるかについてですが、医学の取材も続けている筆者の私見ながら、今後、色んな先進医療も出てくると思います。先進医療を受診した複数人にメリットを聞くと、身体の負担が軽く、リカバリーが早いという声がありました。特約料もおおむね100円前後なので、検討されるのはいかがでしょうか。