医療保険の受取人は、保障の対象となる人(被保険者)が病気やケガで入院・手術をした場合に給付金を請求できます。
医療保険に加入する際、契約者は受取人を指定します。しかし、医療保険に限らず保険の受取人は、契約者と一定の関係性が認められる人しか指定できません。
また、契約者や被保険者、受取人がそれぞれ誰なのかによって、医療保険から給付金やお祝い金を受け取った際に課税される税金の種類が異なります。
この記事では、医療保険の受取人に指定できる人や、給付金に課税される税金の種類についてわかりやすく解説します。
医療保険の加入を検討されている人で、受取人を誰にするべきか迷っている人はぜひご一読ください。
医療保険の受取人になれる人
医療保険の入院給付金や手術給付金の受取人は、2020年時点で販売されている医療保険のほとんどが被保険者としています。
医療保険の被保険者になれるのは、以下のように契約者本人、または契約者と血縁関係のある人です。
被保険者・受取人となれる人
- 契約者本人
- 契約者の配偶者
- 2親等以内の親族(子・親・兄弟・孫・祖父母)
つまり、医療保険の受取人も、契約者本人または契約者と血縁関係のある人しかなれません。
また、商品によっては、保険契約者と被保険者を必ず同じ人物にしなければならないと決められていることもあるため、加入したい医療保険がどのような仕組みになっているかは、各保険会社に確認するようにしましょう。
被保険者が死亡した場合に、死亡保険金が支払われる保障のある医療保険は、被保険者以外の人を死亡保険金の受取人に指定する必要があります。
指定代理人請求人とは
指定代理請求人とは、受取人の代わりに給付金(保険金)を請求できる権利がある人のことです。
医療保険の給付金は、受取人しか請求できません。しかし、被保険者と受取人が同一人物であることの多い医療保険においては、病気やケガの症状が重いなどで受取人が給付金を請求できないケースもあり得ます。
そこで、保険契約者は被保険者の同意を得たうえで、指定代理請求人を設定することで、指定代理請求人が受取人の代わりに給付金を請求できるようになります。
指定代理請求人は、以下のように被保険者と関係性が認められる人から選ばなければなりません。
指定代理請求人に指定できる人
- 被保険者と戸籍上の婚姻関係にある配偶者
- 被保険者の直系血族
- 被保険者からみて3親等以内の親族
- 被保険者と同居し、生計をともにしている人 など
指定代理請求人に指定できる人の範囲は保険会社によって異なりますが、事実婚状態の配偶者や同性のパートナーなど、最近では指定できる範囲を拡大している保険会社も増えてきています。
医療保険と税金の考え方
医療保険で給付金を受け取る場合、税金が課税される場合と、課税されない場合があります。
医療保険の給付金は基本的に非課税
医療保険は、受取人が以下に当てはまる場合は非課税となり、給付金を受けとっても税金を納める必要はありません。
給付金が非課税となる場合の受取人
- 被保険者本人
- 被保険者の配偶者
- 被保険者の直系血族
- 被保険者と生計をともにする親族
また、非課税となるのは、以下のような身体の障害に起因して支払われる給付金です。
非課税扱いとなる給付金
- 入院給付金
- 手術給付金
- 通院給付金
- 三大疾病給付金
- 先進医療給付金
- 高度障害給付金
- 抗がん剤治療給付金
- 介護年金・介護一時金 など
医療保険の給付金や死亡保険金が課税されるケース
医療保険は、受取人が入院給付金や手術給付金を受け取る権利があったにもかかわらず、受け取らずに亡くなった場合、遺族に相続されて相続税の課税対象となります。
また、医療保険の契約者がお祝い金や解約返戻金を受け取った場合は、所得税や住民税の課税対象です。
加えて、医療保険の死亡保険金については、契約者や被保険者、受取人がそれぞれ誰であったかによって課税される税金の種類が異なります。
受取人によって税金の種類が変わる
医療保険の死亡保険金で課税される税金の種類と、契約者・被保険者・死亡保険金受取人の組み合わせは、それぞれ以下の通りです。
契約者=被保険者≠受取人の場合は相続税の課税対象
契約者と被保険者が同一人物で、死亡保険金受取人だけが別人の医療保険契約においては、受け取った死亡給付金が相続税の課税対象となります。
契約者 | 被保険者 | 死亡保険金受取人 |
---|---|---|
本人 | 本人 | 配偶者または子供 |
相続税の課税対象となる死亡保険金は、以下のように受け取った死亡保険金から非課税枠を差し引いた金額です。
相続税の課税対象となる死亡保険金
- 受け取った死亡保険金 - (法定相続人 × 500万円)
例えば、法定相続人が配偶者と子供2人の合計3人であった場合、1,500万円までの死亡保険金が非課税です。
そして、死亡保険金から非課税枠を差し引いた残りの金額が、他の相続財産と合計されて相続税が計算されます。
入院給付金や手術給付金が相続税の課税対象となる場合は、死亡保険金のような非課税枠はなく、相続した給付金の全てが相続財産として相続税の課税対象となります。
契約者=受取人の場合は所得税および住民税の課税対象
医療保険の契約者と受取人が同一人物の場合、受け取った死亡保険金は一時所得とみなされて、所得税および住民税の課税対象となります。
契約者 | 被保険者 | 死亡保険金受取人 |
---|---|---|
本人 | 配偶者または子供 | 本人 |
一時所得で課税の対象となるのは、下記の計算式で求めた金額の2分の1です。
一時所得の金額
- 受け取った死亡保険金の合計額 - 支払った保険料総額 - 特別控除(最大50万円)
つまり、受け取った給付金・お祝い金などの合計額と、支払った保険料総額の差が50万円以上なければ、死亡保険金が所得税や住民税の課税対象となることはありません。
また、医療保険のお祝い金や解約返戻金などは、契約者がお金を受け取るため、同様に一時所得を計算して課税対象となる部分があると、所得税や住民税が課せられます。
契約者≠被保険者≠受取人の場合は贈与税の課税対象
契約者・被保険者・受取人が全て別人である場合は、受け取った死亡保険金は贈与税の対象となります。
契約者 | 被保険者 | 死亡保険金受取人 |
---|---|---|
本人 | 配偶者 | 子供 |
本人 | 子供 | 配偶者 |
贈与税の対象となる死亡保険金は、以下の方法で計算します。
贈与税の課税対象額
- 年間で贈与された財産の合計額 - 110万円
ポイントは、死亡保険金だけでなく年間で贈与された全ての財産が110万円を超えると贈与税の課税対象となる点です。
また、贈与税の課税対象額は一時所得の課税対象額を計算するときのように、保険金を受け取るまでに支払った保険料が考慮されません。
以上の点から、受け取る死亡保険金が同じ金額である場合の税負担は、贈与税が最も重くなることが多いです。
医療保険の受取人についてよくある質問
Q. 受取人の変更は可能?
A.医療保険の受取人や指定代理請求人は、被保険者の同意を得られれば契約途中で変更が可能です。
変更する場合は、保険会社ごとに指定された方法で変更の手続きをしましょう。
ただし、入院給付金や手術給付金などの受取人が被保険者と指定されている場合、受取人は変更できません。医療保険の被保険者は契約途中で変更できないからです。
Q. 血のつながりが無い人や法的な家族でない人も受取人にできる?
A. 医療保険の死亡保険金受取人や指定代理請求人は、以下のような、契約者と密接な関係がある人を指定できる場合があります。
- 事実婚状態の配偶者
- 婚約者
- 認知していない子供
- 同性のパートナー
ただし、上記の人物を受取人に指定するには、契約者と一定の関係性を示す書類を保険会社に提出しなければなりません。
例えば、同性のパートナーを受取人に指定する場合は、パートナーシップ証明書などの提出を求められる場合があります。
Q. 給付金を受け取ったときは確定申告が必要?
A.医療保険で給付金を受け取った場合、基本的には確定申告をする必要はありません。
しかし、医療費控除を受ける場合は確定申告が必要となります。
医療費控除とは、年間で自己負担した医療費が一定額を超えた場合に、課税の対象となる所得から一定金額を差し引いてくれる制度です。
医療費控除の対象となるのは、1月1日から12月31日までの間に自分自身や生計を共にする配偶者やその他の親族が支払った以下のような医療費です。
医療費控除の対象となる医療費の例
- 医師または歯科医師による診療・治療の対価
- 治療または療養に必要な医薬品の購入の対価
- 治療を目的としたあん摩マッサージ指圧師やはり師、柔道整復師による施術の対価
-
助産師による分べんの介助の対価 など
※国税庁「医療費控除の対象となる医療費」をもとに作成
ただし、医療費控除で所得から控除される金額は、以下のように医療保険の給付金で補填された金額を差し引いて計算されます。
医療費控除の金額
-
(実際に支払った医療費の合計額 - 保険金などで補填された金額) - 10万円
※医療費支払った年の総所得金額等が200万円未満の人は、総所得金額等の5%の金額
保険金などで補填された金額には、公的医療保険の高額療養費制度で払い戻された金額なども含まれます。
例えば、年間で自己負担した医療費が15万円で、医療保険から受け取った給付金が2万円の場合、3万円が医療費控除として課税対象の所得から差し引かれます。
医療費控除を受けるには、医療費を支払ったときに受け取った領収証をもとに医療費控除の明細書を作成し、他の必要書類と合わせて確定申告する必要があります。
まとめ
おすすめ・メリットのポイント
- 医療保険の入院給付金や手術給付金の受取人となれるのは、基本的に配偶者や本人からみて2親等以内の親族のみ
- 指定代理請求人とは、受取人の代わりに給付金(保険金)を請求できる権利がある人
- 被保険者本人や被保険者の配偶者などが受け取った医療保険の入院給付金や手術給付金などは非課税
- 医療保険の給付金が相続財産として遺族に相続される場合は、相続税の課税対象
- 医療保険の死亡保険金は、相続税や所得税・住民税、贈与税などの課税対象
- 生存給付金やお祝い金、解約返戻金なども所得税や住民税の課税対象
- 医療保険の受取人は、保険契約に定める範囲内であれば加入後に変更できる
- 事実婚状態の配偶者や認知していない子供、同性のパートナーなども医療保険の受取人と認められる場合がある
- 医療保険の保険金を受け取っても確定申告は不要だが、医療費控除を受ける場合は確定申告が必要
2020年現在、医療保険の入院給付金や手術給付金の受取人は、ほとんどの商品で被保険者と定められています。そのため、医療保険の受取人で悩むケースは少ないです。
一方で、被保険者が給付金を受け取れない状況に備えて、指定代理請求人を設定しておくと安心です。
また、医療保険の死亡保険金受取人については、よほどのこだわりがない限り、贈与税が課税されないように契約者と被保険者、あるいは契約者と受取人は同じ人物した方が無難です。