ソルベンシー・マージン比率とは?
ソルベンシー・マージン比率とは、保険会社の「支払余力」を示す指標のことで、通常では予測できないようなリスクに対して、どれくらいの備えがあるかを表すものです。
生命保険会社や損害保険会社は、被保険者が払い込むことになる毎月の保険料を「d大数の法則」と「収支相等の原則」に基づき、予定死亡率と予定利率、予定事業費率を用いて計算しています。
- 大数の法則とは?
- 単体で見れば偶発的で低確率な出来事であっても、母数が大きくなるほどその出来事の発生確率は一定の値に近付くという数学の定理のひとつ
- 収支相等の原則とは?
- 「保険期間中の保険料の総額・運用益の合計」と「保険金の支払総額・保険会社の経費」が同額になるように妥当な保険料水準に調整すること
大数の法則と収支相当の原則の計算で導き出された保険料額と保険者数によって得られる資金の一部は、「想定範囲内の保険事故に対して支払う保険金(責任準備金)」として積み立てています。
しかし、稀に通常では考えられないようなリスクが発生するケース(自然現象による大災害、株式の大暴落など)が起こる場合があります。
こういった万が一の不測の事態が発生した場合に、その保険会社がどれくらいの「支払余力」を有しているかを判断するための指標のひとつが「ソルベンシー・マージン比率」です。
ソルベンシー・マージン比率が200%を下回った時の是正措置
ソルベンシー・マージン比率は、各保険会社のホームページなどに記載されています。
この比率が「200%」を下回った場合、金融庁から是正措置が行われることになっています。
なお、一般的にはソルベンシー・マージン比率が200%以上の保険会社が安心とされていますが、過去には200%以上でも経営破綻した保険会社があるので、あくまでひとつの参考値として確認するようにしてください。
ソルベンシー・マージン比率に対する是正措置の内容については以下をご参照ください。
保険金等の支払い能力の充実の状況に係る区分 | ソルベンシー・マージン比率 | 措置の内容 |
---|---|---|
非対称区分 | 200%以上 | - |
第一区分 | 100%以上200%未満 | 経営の健全性を確保するための合理的と認められる改善計画の提出の求め及びその実行の命令 |
第二区分 | 0%以上100%未満 | 次の各号に掲げる保険金等の支払い能力の充実に資する措置に係る命令
|
第三区分 | 0%未満(マイナス) | 期限を付した業務の全部または一部の停止の命令 |
保険会社の格付けとの関係
保険会社は、第三者の格付け機関によってその保険会社の信用力を表す「格付け」が為されています。
格付けを行う際の調査内容には様々な統計情報が用いられており、格付け機関によって符号や定義は異なりますが、一般的にはアルファベットを用いて表記され、上位の符号寄りの場合には「+」、下位の符号に近い場合は「-」の記号が付く場合もあります。
格付け機関で使用される符号は以下のとおりです。
S&P | ムーディーズ | 日本格付研究所 | 格付投資情報センター |
---|---|---|---|
AAA | Aaa | AAA | AAA |
AA | Aa | AA | AA |
A | A | A | A |
BBB | Baa | BBB | BBB |
BB | Ba | BB | BB |
B | B | B | B |
CCC | Caa | CCC | CCC |
CC | Ca | CC | CC |
SD、D | C | C | D |
LD、D |
格付けの定義は格付け機関によって異なりますが、AAA(Aaa)を最高ランクとして、上位であればあるほど保険金の支払い能力が高いといえます。
一例として格付投資情報センターにおける格付けごとの定義については以下をご参照ください。
保険金支払能力に対する信用格付
- AAA:保険金支払い能力は最も高く、多くの優れた要素がある
- AA:保険金支払い能力は極めて高く、優れた要素がある
- A:保険金支払い能力は高く、部分的に優れた要素がある
- BBB:保険金支払い能力は十分であるが、将来環境が大きく変化する場合、注意すべき要素がある
- BB:保険金支払い能力は当面問題ないが、将来環境が変化する場合、十分注意すべき要素がある
- B:保険金支払い能力に問題があり、絶えず注意すべき要素がある
- CCC:保険金支払不能に陥っているか、またはその懸念が強い。支払不能に陥った保険金は回収が十分には見込めない可能性がある
- CC:保険金支払不能に陥っているか、またはその懸念が極めて強い。支払不能に陥った保険金は回収がある程度しか見込めない
-
C:保険金支払不能に陥っており、保険金の回収もほとんど見込めない
※:AA格からCCC格については、上位格に近いものにプラス、下位格に近いものにマイナスの表示をすることがあります
なお、保険を選ぶ際には上記の格付けが「BBB」以上のものを選ぶのが良いとされているので、ぜひ覚えておきましょう。
ソルベンシー・マージン比率の計算式
ソルベンシー・マージン比率の計算式は以下のとおりです。
ソルベンシー・マージン比率の計算式
- ソルベンシー・マージン総額÷(通常の予測を超えるリスクに対する額×0.5)×100
計算式としては非常にシンプルですが、計算に用いる数字は様々な情報が用いられるため、計算内容は非常に複雑化しています。
そのため、保険会社の公式ホームページに記載されているソルベンシー・マージン比率を確認した方が確実な値を調べることができます。
ソルベンシー・マージン総額
ソルベンシー・マージン総額とは、保険会社の自己資本の額のことです。
基本的な内容として、以下の価額が含まれています。
ソルベンシー・マージン総額に含まれるもの
- 資本金(基金)
- 価格変動準備金
- 危険準備金
- 一般貸倒引当金
- 有価証券の評価差額×90%(含み損の場合は100%)
- 土地の含み損益×85%(含み損の場合は100%)
- 解約返戻金相当額超過部分
- 負債性資本調達手段等
通常の予測を超えるリスクに対応する額
「通常の予測を超えるリスクに対応する額」は、以下の5つのリスクを数値化して算出されます。
リスク | 内容 |
---|---|
保険リスク | 将来的に起こり得る保険事故の発生率が、通常の予測を超える場合に発生するリスクのこと 死亡保険では予測よりも死亡率が高かった場合、個人年金保険では通常よりも契約者が長生きした場合などが本リスクに該当する |
予定利率リスク | 責任準備金の算出の基礎となる「予定利率」が確保できなくなるリスクのこと 保険会社が保有する資産の収益率低下による「逆ざや」となる金額の期待値を計測して算出 |
資産運用リスク | 価格変動で保険会社が保有する有価証券やその他の資産に対して発生しうるリスクのこと 取引先への債務不履行や子会社等への投資、先物取引・オプション取引などが原因で発生するリスクも含まれる |
最低保証リスク | 特別勘定を行う資産に対して、通常の予測を超える価額の変動があった場合に発生しうるリスクのこと |
経営管理リスク | 保険会社としての経営判断の誤り等が原因によるリスク 事務面、電算システムにおける事故などの事業経営上のリスクなど |
ソルベンシー・マージン比率に関するよくある質問Q&A
ソルベンシー・マージン比率に関する「よくある質問」にお答えします。
Q. ソルベンシー・マージン比率が200%以上あれば、絶対に安全ですか?
A. ソルベンシー・マージン比率が200%以上の場合であっても絶対に安全とは言い切れません。
過去にはソルベンシー・マージン比率が200%を超えていても経営破綻した保険会社もあります。
また、比較的新しい保険会社は、そもそもの被保険者数が少ないことから想定されうるリスクも少なく、ソルベンシー・マージン比率が高くなる傾向にあります。
そのため、ソルベンシー・マージン比率が高いからといって必ずしも安全という訳ではないので、目安のひとつとして確認するのが良いと言えます。
Q. もし保険会社が破綻をすれば契約はどうなりますか?
A. 保険会社が経営破綻してしまっても「保険契約者保護機構」によって契約は保全されているため、契約そのものが無くなってしまうことはありません。
日本国内の保険会社は保険契約者保護機構への加入が義務付けられているため、保険会社の契約者はもれなく保険契約者保護機構による保護の対象と言い換えることができます。
ただし、保険契約者保護機構によって保証されるのは、保険会社が破綻したときにおける責任準備金(※)の90%までとされているため、保険契約の全額が保証される訳ではないのでご注意ください。
- 「責任準備金」とは?
- 保険会社が将来の保険金・年金・給付金等の支払いに備え、保険料や運用収益などを財源として積み立てている準備金のこと
預貯金と異なり、一部は保険金等の支払いや保険契約の維持管理費用に充てられ、その残額が責任準備金として積み立てられるので、払い込まれた保険料の合計額よりも少ない金額となる
まとめ
ソルベンシー・マージン比率は、通常では考えられないようなリスクに対する保険会社の「支払余力」のことをいいます。
一般的にはソルベンシー・マージン比率が200%を超える保険会社なら安心とされていますが、過去には200%以上の保険会社でも破綻した例があることから必ずしも安全とは言い切れません。
そのため、保険会社を選ぶときはソルベンシー・マージン比率を鵜呑みにせず、様々な観点から比較して選ぶことを心がけるようにしてください。