みなさん保険関連のトラブルに巻き込まれたことはありますか?
使わないことが一番の保険ですが、ほとんどの人は何かしらの保険には加入しているかと思います。
保険はいざ使えそうな場面がきてもかなり複雑で、契約書や約款を読んでもよく分からず結局、保険金が支払われなかったという声はよく聞きます。
分からないことがあれば、専門家に聞くのが一番ということで、保険法の専門家である中京大学の土岐孝宏 教授によくあるトラブル事例や知っておいたら損をしない保険に関することを聞いてきました。
監修者からひとこと 立命館大学大学院・法学研究科博士課程を修了し、博士(法学)を取得。中京大学 法学部講師・准教授を経て、現在同学部教授。Max-Planck外国私法・国際私法研究所(ドイツ・ハンブルク)客員研究員。日本保険学会評議員。
【所有資格】
博士(法学)
【著書・論文】
『新保険法コンメンタール(損害保険・傷害疾病定額保険)』(損害保険事業総合研究所 2021年 共著)
『スタンダード商法Ⅲ 保険法』(法律文化社 2019年 共著)
『論点体系 保険法 1巻・2巻(第一法規 2014年 共著)
「請求権代位における対応の原則」(中京法学56巻1号 2021年 単著)
「生命保険契約・自殺免責にかかる法制と解釈―ドイツ法制、フランス法制からの示唆―」(保険学雑誌642号 2018年 単著)
保険関連で一番多いトラブルは「生命保険金の支払いをめぐるトラブル」
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
普段から色々な保険関連の事例に触れることが多いと思うのですが、生命保険において、特に多いトラブルとはどのようなことが挙げられるのでしょうか?
土岐 孝宏
保険金の支払いをめぐるトラブルがやはり多く挙げられますね。
以下は、ある大手生命保険会社において公開されている「保険金・給付金の支払い状況」に関する2020年度のデータです。
生命保険金の支払い状況
| 支払件数 |
9万2,529件 |
| 不払い件数(免責事由該当) |
273件 |
| 不払い件数(告知義務違反該当) |
29件 |
| 契約解除(重大事由該当) |
1件 |
災害保険金・高度障害保険金の支払い状況
| 災害保険金の支払件数 |
586件 |
| 不払い件数(支払事由非該当) |
36件 |
| 高度障害保険金の支払件数 |
1,799件 |
| 不払い件数(支払事由非該当) |
590件 |
入院給付金の支払い状況
| 災害保険金の支払件数 |
58万4,600件 |
| 不払い件数(支払事由非該当) |
2,680件 |
| 不払い件数(免責事由非該当) |
237件 |
| 不払い件数(告知義務違反該当) |
229件 |
| 契約解除(重大事由該当) |
1件 |
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
意外と保険金が支払われなかった割合は1%にも満たないのですね。
もっと多いのかと思っていました。
土岐 孝宏
そうですね。全体のボリュームからすれば不払い件数の割合はそれほど大きなものではありませんが、保険契約者側は万一のために保険に加入しているので、そのような時に支払われないというのは契約者からすると大変なトラブルということになります。
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
確かにそうですね……
土岐 孝宏
内容を補足しますと「死亡保険金の免責事由に該当したケース」というのは、保険約款の中で保険会社は保険金を支払わなくてもよいと書かれている事故のことを指します。特に自殺が多くを占めていると考えられます。
土岐 孝宏
「支払事由に非該当とされたもの」の多くは、災害保険金・高度障害保険金・入院保険金に共通して、「契約前発病不担保」によって支払事由に該当しないとされたケースだと考えられます。
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
具体的に「契約前発病不担保」に該当するのはどういったケースなのですか?
土岐 孝宏
例えば、中学生くらいのときに発症して、20年30年という長い病状の進行を経て、完全失明に至るという「網膜色素変性症」は契約前発病不担保に該当します。(東京高判平成26年9月3日生命保険判例集25巻844頁)
また、糖尿病性の網膜症による失明ケースでの不担保もありますね。(東京地判平成25年7月23日生命保険判例集25巻310頁)
入院保険関連では、契約前にあった大腸ポリープやがん腫瘍の存在により不担保が主張され、トラブルになることが多いです。
土岐 孝宏
また、災害保険金は「急激かつ偶発的な外来の事故」という3つの要件が揃わなければ保険金は支払われないので、紛争の事案としては自殺か高所からの転落事故かが判然としない事案や、自殺か交通事故か判然としない事案はトラブルになりやすいです。
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しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
こちらも具体的にトラブルの事案はありますでしょうか?
土岐 孝宏
最近ですと凍死の事案があります。(福岡高裁令和元年・10月・24日)
ある被保険者が酩酊して自宅で全裸となり凍死したのですが、急激性はないとして災害死亡割増特約の保険金は棄却されました。
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
確かに外来・偶発は当てはまるけど、急激性はないようにも思いますね。
先ほどのデータの告知義務違反該当の件についてはどのような事案がありますか?
土岐 孝宏
最近ですとこのような興味深い裁判の事案がありました。(東京地判平成27・1・29事例研レポート336号14頁)
ある被保険者が健康診断で前立腺がんの可能性を調べる検査をした結果、要精密検査の判定を受けました。後日、病院で再検査を受けてMRI検査まで行われたのですが、医師から「明らかな異常は認められない、以後は検診フォロー」との指示を受けました。
土岐 孝宏
その後、がん保険に加入する際「過去2年以内に健康診断・人間ドックを受けて、検査の結果について異常(要経過観察、要再検査、要精密検査、要治療を含む)を指摘されたか」という質問を受けていましたが、MRI検査で異常が認められなかったので、それ以前に要精密検査と判定を受けていた事実を告知しませんでした。
結局、この被保険者は前立腺がんと診断されて保険金請求をしましたが、告知義務違反として保険金は支払われませんでした。
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
確かにこのケースだと「MRI検査で異常がなかったから大丈夫だろう」って僕だと思ってしまいますね。
土岐 孝宏
この事案から、「検査結果は全て伝えなければならない」ということを読者の方には学んでいただければと思います。
保険金支払い状況の表を見ても分かるように、ほとんどの人に保険金は支払われます。
しかし、もちろん支払われないことがあるというのも事実なので、自分が知らず知らずのうちに「支払事由非該当」になってしまわないように、しっかりと契約書や約款に目を通すことは大事だなと教授の話を聞いて思いました。
続いては、同じトピックで損害保険について聞いてみました。
損害保険は「急激かつ偶然な外来の事故」であることが支払要件
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
損害保険においては、特に多いトラブルとはどのようなことが挙げられるのでしょうか?
土岐 孝宏
やはり保険金の支払いをめぐるトラブル、特に損害保険の場合は自動車保険の支払いに関するトラブルが散見されますね。
以下は警視庁が発表している2021年の交通事故に関するデータです。
2021年 交通事故発生状況
| 交通事故発生数 |
30万5,196件 |
| 負傷者数 |
36万2,131人 |
| 死者数 |
2,636人 |
参照:道路の交通に関する統計 | 警視庁
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
思ったより年間でかなりの交通事故が起きているのですね……
土岐 孝宏
基本的に相手方の被害の補償に回る「賠償責任保険」は保険会社としても、支払い責任を争うことは控える傾向にあります。
しかし、自分自身にかける「人身傷害保険」や「車両保険」は、社会的に許容できない運転をしている場合に生じる事故等について、保険金の支払い義務を争うことがあります。
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
「社会的に許容できない運転」とは、具体的にどういったことがありますか?
土岐 孝宏
一例として挙げられるのは、酒気帯び運転についての免責主張です。
道路交通法上では、「呼気1リットル中のアルコール濃度0.15ミリグラム未満」であれば罰則はないのですが、保険では0.15ミリグラム未満のアルコール保有でも免責とするという厳しい裁判例が続いています。
土岐 孝宏
また、傷害保険においても「急激かつ偶然な外来の事故」による傷害を被ることが保険金支払いの要件になるので、保険金支払いトラブルに陥りやすくなります。
ここで重要なことは、「故意によらない事故である」ということを保険契約者が証明する必要があるという点です。
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しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
例えば、どのような事案が挙げられますか?
土岐 孝宏
例えば、目撃者が誰もいないところでダムに落ちてしまった事案において、「故意にダムに落ちていないことの立証ができていない」として請求が退けられた事案があります。
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
そんな証明を素人がするのはほぼ不可能に近いですよね……
土岐 孝宏
ですので、そのようなトラブルをなくすためにも証拠を残す意味で例えば、ドライブレコーダーの搭載を含めた、契約者側の自衛措置が不利にならないためにも大切になってきます。
年間の交通事故発生数が約30万件というデータを見て、いつ自分が事故に巻き込まれるか分からないなと強く感じました。
巻き込まれないことが一番ですが、もし巻き込まれたとしても自分が不利にならないように教授が仰っていた通り、「自衛措置」を普段からしておこうと思います。
続いては先ほどとはトピックを変えて、「知っておいたら普段の生活で役に立つ、保険に関する法律」を聞いてみました。
自分が加入している保険の保障内容を把握しておく
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
自分も含め、ナビナビ保険の読者が知っておいたら普段の生活で役に立つ、保険に関する法律はございますでしょうか?
土岐 孝宏
法律というのは知っていることで何か積極的に役に立つというよりは、「知っていることで思わぬ不利益を避けられる」存在だと思っています。
土岐 孝宏
そういった点で言うと、例えば「健康状態については素人判断をせずに、保険加入時に保険会社から質問されたことは正確にありのままを解答しておく」とか、「飲み会の翌日にわずかでもアルコールが残っているような状況で運転をしない」とか当たり前のことかもしれませんが、改めて保険法のルールを把握しておくことは有益であると思います。
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
当たり前だとはわかっていても、意識しておかないとついつい怠ってしまいますよね。
土岐 孝宏
この質問に関連しそうなお話として、既に自分が購入している保険の保障内容を把握しておくことも大切です。なぜなら、万が一の時の無駄な心配をしたり、あるいは無駄な保険を買わずに済むので、費用が節約できる可能性があるからです。
また、保障内容を正確に把握していなければ、本当はもらえたはずの保険金をもらい損ねてしまうという問題も起きてしまいます。
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
確かにせっかく保険に加入しているのに、万が一の時に保障内容を知らずに保険金をもらえないのはかなりもったいないですね。
土岐 孝宏
なお、保険会社や補償内容にもよりますが、自動車保険の人身傷害保険というのは契約した自動車に乗っている時だけ補償があるわけではないことがあります。
土岐 孝宏
例えば、友人の車に乗っていて事故にあったとき、タクシーやバスに乗車中や歩いていて車にはねられた時にも使えることがあります。
友人の車を運転するときも、自分の車で自動車保険の「他車運転危険担保特約」に加入していると補償を受けられますので、わざわざ1日保険に加入しなくてもいいわけです。
![中京大学 土岐教授]()
保険料支払いの管理は徹底的に
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
私たちが普段の生活の中で、保険に関する法律で知らず知らずのうちに引っかかっていることなどはありますでしょうか?
土岐 孝宏
引っかかっているかはわかりませんが、あまり知られていないという意味では「地震保険は建物や家財の価値の半分までしか保険に加入できず、被害の全面回復はできない」といったことがあります。
土岐 孝宏
よって、被災してしまうと修繕費用が保険金だけでは足りないので、金銭的にひっ迫してしまう可能性が高いですよね。
しかし、最近では「地震危険上乗せ特約」などが登場しており、ある程度の備えをできるようになっています。
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
地震大国の日本では知っておいて絶対に損はない情報ですね。
土岐 孝宏
また、あまり知られていない事実として、「生命保険料を月払いにしている場合、2ヵ月分の不払いがあれば契約が失効する」といったこともあります。
土岐 孝宏
失効の際は「復活」という手続きがあるのですが、保険会社は復活請求を断ることができるという点には注意しておくべきです。
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
具体的にどういったことに注意をすれば良いのでしょうか?
土岐 孝宏
例えば、20代で終身の医療保険に入って、30年間保険料を不払いなく払い続けた人がいるとしましょう。
その人が最近がんになり、その時は入院保障を得られたのですが、その後うっかり2ヵ月間だけ保険料を払い忘れたとしてたら、復活の請求をしたとしても保険会社は「一度がんにかかっており、リスクが高いのでこの人の保険は引き受けない」との判断をします。
たった2ヵ月間の不払いで30年間払い続けてきた保険が使えなくなるのです。
しっかり保険、ちゃんと節約。編集部
たった2ヵ月うっかりしていただけで、30年間払い込んだ保険の効用が以後なくなるのは、ばかばかしいですね
土岐 孝宏
ですので、保険料支払いの管理は徹底的にすることをおすすめします。
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まとめ
過去に何人か保険関連の教授にインタビューをしてきましたが、保険法を専門としている教授にインタビューをしたのは初めてでした。
今までとは違った法律という視点でのお話や、例として過去に実際にあった事案を交えながらの説明は分かりやすく、尚且つ楽しく聞かせていただきました。
インタビューから学んだことを下記まとめました。
土岐教授のインタビューから学んだこと
-
生命保険に加入する際の告知審査は、全ての検査結果を正確に伝える
- もし告知漏れがあれば、故意でなくても「告知義務違反」として、保険金が支払われない可能性がある
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少しでもお酒が残っていたら車を運転しない
- 道路交通法では罰せられなくても、保険金に関しては支払われなくなる可能性がある
- 事故の際に不利にならないように、証拠を残すといった意味でドライブレコーダーを搭載しておく
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自分が購入している保険の保障内容は把握しておく
- 本当はもらえたはずの保険金をもらい損ねてしまい、不利益を被る可能性がある
-
保険料支払いの管理は徹底的に行う
- たった2ヵ月の不払いで保険が使えなくなってしまう可能性がある
普段から使える知識ばかりだと思いますので、みなさんも是非参考にしてみてください。
また、気軽に大学教授に話を聞くことは難しいかもしれませんが、同じく保険・お金のプロであるファイナンシャルプランナー(FP)には無料で話を聞くことができます。
保険のことに限らず、将来的なお金に関する様々なことに関して相談できますので、是非活用してみてください。