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更新 更新:2023.10.11

がんはなぜ増えている?がんの現状について専門家に詳しく聞いてみた!

がんはなぜ増えている?がんの現状について専門家に詳しく聞いてみた!
所有資格
博士(経済学)、日本アクチュアリー会正会員
専門分野・得意分野
保険数理、リスクマネジメント、公共経済、労働経済、統計数学

近年、がんに罹患する確率が上昇していることをご存じでしょうか。

日本人が一生のうちにがんと診断される確率は、男性65.5%、女性51.2%となっており、日本人の約2人に1人は診断されるほど、身近なものとなっています。

なぜここまで増えているのでしょうか?

今回は、保険数理やリスクマネジメントを専門に研究されており、日本アクチュアリー会で理事も務められている、早稲田大学 大塚忠義教授に「がんの現状」についてインタビューいたしました。

監修者からひとこと
大塚 忠義
  • 大塚 忠義
  • 早稲田大学教授
1981年早稲田大学理工学部卒業後、生命保険会社および再保険会社でプライシング、リスク管理を担当し、外資系生命保険会社で商品開発担当の執行役員を務めたのち退職。 2013年武蔵大学大学院博士(経済学)取得。2014年早稲田大学大学院商学研究科助教を経て2018年より現在の早稲田大学 商学学術院 大学院会計研究科 教授。

【所有資格】
博士(経済学)、日本アクチュアリー会正会員

【専門分野・得意分野】
保険数理、リスクマネジメント、公共経済、労働経済、統計数学

【著書】
『生協共済の未来へのチャレンジ』(東信堂、2021年 生協総合研究所編・共編著 ) 
『保険販売の新たな地平』(保険毎日新聞社、2016年 早稲田大学保険規制問題研究所・分担執筆)
『経済価値ベースのERM』(中央経済社、2015年 分担執筆)
『生命保険業の健全経営戦略 財務指標とリスク測定手法による早期警戒機能』(日本評論社、2014年 単著)

大塚教授のご経歴について

まず、がんの現状のお話の前に大塚教授のご経歴について伺いました。

編集部 鎌田
編集部 鎌田
大塚先生は保険数学やリスクマネジメントについて研究されているとのことですが、もともと大学教授になられる前は保険会社に勤められていたのですね。どういった背景で大学教授になられたのでしょうか。

大塚 忠義
2008年に起きたリーマンショックをきっかけに保険会社で務めていた業務、保険数理などに疑問を抱くようになり、より深く学ぶために保険会社を退職し、博士課程へと進学しました。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
リーマンショックですか……よくニュースなどで全国的に報道されていたことを覚えています。

大塚 忠義
リーマンショックが起きるまでは、変額年金などがすごく売れていましたが、リーマンショック後、大きく市場がクラッシュし、作成していた保険商品は市場の影響からリスクの大きい保険商品となり、売れなくなってしまうという事態になりました。
大塚 忠義

大塚教授インタビューの様子

編集部 鎌田
編集部 鎌田
働いている方々にも影響はあったのでしょうか?

大塚 忠義
そうですね、銀行チャネルでの保険販売を主に行っていた部門に職員が50~60人ほどいたのですが、その部門が契約を管理する2人~3人ぐらいまであっという間に減らしてしまうというようなことがありましたね。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
それほどの影響力があったのですね…

がんの罹患率や死亡率の上昇について

編集部 鎌田
編集部 鎌田
まずは今回のテーマである「がんの現状」についてお伺いできればと思います。日本人の2人に1人はがんに罹患するというデータがありますが、近年、がんの罹患率はなぜ上昇しているのでしょうか?

大塚 忠義
そうですね、がんの罹患率に触れる前に、がんの死亡率についてご説明します。がんの死亡率ですが、罹患率と同じようにずっと増加していますよね。
大塚 忠義

がんの罹患数と死亡数の年次推移を調べたところ以下の通りです。

がん罹患数と死亡数の年次推移参照:全国推計値:がん罹患データ(1975年~2015年)|国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん罹患モニタリング集計(MCIJ))
全国がん罹患データ(2016年~2019年)|国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録)
全国がん死亡データ(1958年~2021年)|国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(厚生労働省人口動態統計)

大塚 忠義
がん(悪性新生物)での死亡率が増加している理由としては、他の病気で亡くなる方が減っているためです。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
具体的にどういった病気で亡くなる方が減少しているのでしょうか?

大塚 忠義
日本では、脳血管疾患、つまり脳卒中で亡くなる方が劇的に減少しています。また、アメリカやヨーロッパでは心疾患で亡くなる方が減少傾向にあります。
大塚 忠義

脳血管疾患や脳卒中の死亡率減少について

編集部 鎌田
編集部 鎌田
脳血管疾患や脳卒中などの病気で亡くなる方が減少している理由として、医療の発展が大きいのでしょうか?

大塚 忠義
医療の進展と食事などの生活習慣が大きいと考えています。特に日本人は、食事で塩をあまり取らなくなり高血圧になる方が減ったことが一番の要因ではないでしょうか。
大塚 忠義

大塚 忠義
ただ、いまだに脳卒中で亡くなられる方が多いのは東北地方です。理由は想像がつくかもしれませんが、この地域の料理は塩辛く、高血圧になる方が多いためです。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
なるほど。食生活も死亡率と大きく関わっていたのですね。

大塚 忠義
でも、結局人間は何かが原因で亡くなりますよね。そうなったときに残ったのが「がん」ということになります。これが、がんの死亡率が高まっている実態ですね。
大塚 忠義

大塚教授インタビューの様子

簡易的ながんの検査方法が生まれ30~50代の死亡率が低下

編集部 鎌田
編集部 鎌田
がん以外の病気で亡くなる方が減り、がんの死亡率が高まって見えていたことがわかりましたが、年代別でみても、がんの死亡率は上昇しているのでしょうか?

大塚 忠義
80歳以上の方はがんで亡くなられていることが多いですが、30~50代の方は、がんで亡くなられているケースはものすごく減っています。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
そうなんですね。なぜ減少しているのでしょうか?

大塚 忠義
減少している理由の一つとして、簡易的な検査方法が生まれていることが挙げられます。
腫瘍マーカー検査や線虫がん検査などを聞いたことはありませんか?
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
初めて聞きました、具体的にどういった検査方法なのでしょうか。

大塚 忠義
腫瘍マーカー検査とは、主に血液や尿などの体液の成分を測定することによって行う検査のことです。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
とても簡単に検査ができますね。

大塚 忠義
そうなんです。また、線虫がん検査は嗅覚に優れた線虫が、尿に含まれる「がん特有の匂い」を検知して行う検査のことです。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
あまり痛みを伴わない検査方法がどんどん生まれているのですね。

大塚 忠義
こういった検査もあって、早期発見ができ、がんの死亡率はものすごく下がってきています。
大塚 忠義

がんの罹患率とがん保険の現状

編集部 鎌田
編集部 鎌田
がんの死亡率が下がっていることは分かりましたが、では、がんの罹患率が上昇しているのはなぜでしょうか?

大塚 忠義
先ほどの検査もあったように、早期発見ができるようになっていることが主な理由です。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
なるほど……がんの罹患率が上昇するということは、治療される方も増えているのでしょうか?

大塚 忠義
はい。治療される方が増えたため、最近は、がんの治療をするための通院給付金がすごく増えています。ただ、入院をして治療を行うという方は減っており、がん保険の入院給付金や死亡保険金の支払いは減っているというのが現状です。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
支払い内容が変化しているということは、がん保険も昔と比べ、内容も変わってきているのでしょうか?

大塚 忠義
そうです。これまでは、単純に1万人の方が加入したら、亡くなる方が1人か2人で、入院する方が10人ぐらいでした。ですが、現在はがんに罹患する方が多くなり、がんで亡くなる方は減少しました。
大塚 忠義

大塚 忠義
また、治療も入院ではなく通院される方が増えています。そのため加入者全体のバランスが崩れ、がん保険の構成も大きく変わっています。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
ずっと同じがん保険に加入されている方は、見直しも必要そうですね…

大塚教授インタビューの様子

公的制度のみで、がんに備えることは可能?

簡易的な検査方法などの開発により、がんが発見しやすくなり、近年がんの罹患率が上昇していることが分かりました。

万が一、がんに罹患し、治療をすることになった際に、日本の公的制度のみで備えることは可能なのか伺いました。

編集部 鎌田
編集部 鎌田
実際のところ、がんに対して公的制度のみで備えることはできるのでしょうか?

大塚 忠義
国は、公的制度のみで備えられるように設計をしています。ただ、十分に備えられるようには設計されていません。十分にとなると、社会保険料を上げる必要があるからです。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
確かに、保険料が上がるとなると負担が大きくなりますね…

公的制度はどのような観点で設計されているのか

編集部 鎌田
編集部 鎌田
公的制度は、万が一に備えることはできても十分ではないというのは、具体的にどういうことでしょうか?

大塚 忠義
日本国憲法の「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」を実現するために、どのくらい社会保障・社会福祉をすればよいかという観点で、公的制度は考えられています。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
憲法に基づいて設計されていたのですね。

大塚 忠義
ただ、最低限では足りないという方が世の中にはたくさんいるわけですよね。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
そうですね、がんになる前と変わらない生活を送りたいとなると、最低限では足りない気がします。

大塚 忠義
国の社会保険料や税金はすでに決まっていますが、そこからどれだけ上乗せするかは自分の判断になっていくわけです。その上乗せ先が民間保険ですね。
大塚 忠義

「最低限度」の定義とは

編集部 鎌田
編集部 鎌田
日本国憲法をもとに公的制度は考えられているとのことでしたが、憲法の「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」の「最低限度」の定義は定められているのでしょうか。

大塚 忠義
各項目ごとに定められています。また、その定義は常に変わらないというわけではなく変化していくものもあります。分かりやすい例が年金です。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
どのように変化しているのでしょうか?

大塚 忠義
厚生年金は、加入者が働いていた頃の報酬の約7割を年金額となるように設計されて作られました。
大塚 忠義

大塚 忠義
対して自営業の方などが当てはまる国民年金は、制度設計上、65歳を超えても仕事を続けているという前提のもと5割で作られています。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
単純に金額だけをみると、国民年金は少ないと考えていましたが、そのような前提のもと設計されていたのですね。

大塚 忠義
ただ、厚生年金は報酬の約7割とお伝えしましたが、これは制度設計時の話で、現在は変化してきています。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
割合が減少しているのでしょうか?

大塚 忠義
そうです。厚生年金の7割というのを確保するのが難しくなってきており、今は5割を標榜しています。
大塚 忠義

大塚 忠義
なぜ割合が減少しているかというと、平均寿命が昔と比べ伸びているからです。設計当時の平均寿命は60歳で、定年が50歳でしたが、今は65歳が定年で、平均寿命は80歳にまで伸びています。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
平均寿命が伸びればその分必要となる年金も増えますね。

大塚 忠義
また、今は金利がかなり低く、昔は5%ほどだったのが、現在は0%に近くになっています。こういった点も割合が減少している理由の一つです。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
なるほど……現状に合わせて定められている水準も変化しているのですね。

大塚 忠義
そうなんです。これは年金の例でしたが、その他にも社会保障の水準はすべて文章化がなされており、これだけは確保しましょうというのが文書で明確にされています。
大塚 忠義

編集部 鎌田
編集部 鎌田
そのように一つ一つ水準が定められているとは知りませんでした。本日は貴重なお話をお聞かせいただき、誠にありがとうございました。

大塚 忠義
こちらこそありがとうございました。
大塚 忠義

大塚教授インタビューの様子

まとめ

今回は、大塚教授に「がんの現状」について伺いました。

今回のインタビューで学んだこと

  • がんの死亡率が高まっている理由は、そのほかの死因が下がってきているため。
  • 最新の検査方法や、定期的な健康診断などにより、がんの発見率が高まり、それに伴って罹患率も高まっている。
  • 入院で治療する方や、がんで亡くなる方は減り、治療費として支払う給付金が増えている。
  • 社会保障や社会福祉は、日本国憲法の「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」に基づいて、設計されている。

インタビュー実施まで、単純に「がん」の罹患率が上昇しているだけと考えておりましたが、医療の発達や、健康意識・生活習慣の変化、がん以外の死亡率の変化など、様々な要因が絡み、今の数値になっているということを知ることができました。

今後は、数値をそのまま受け取るだけでなく、なぜそうなったのかの背景まで考えていきたいと思います。

また、昔と比べ、がんで亡くなる方は減少し、治療も入院ではなく通院で行われることが多くなり、それに伴ってがん保険の構成も変化しています。

昔から同じがん保険に加入されている方は、一度見直してみてはいかがでしょうか。

大塚 忠義
大塚 忠義
早稲田大学教授
1981年早稲田大学理工学部卒業後、生命保険会社および再保険会社でプライシング、リスク管理を担当し、外資系生命保険会社で商品開発担当の執行役員を務めたのち退職。 2013年武蔵大学大学院博士(経済学)取得。2014年早稲田大学大学院商学研究科助教を経て2018年より現在の早稲田大学 商学学術院 大学院会計研究科 教授。
所有資格
博士(経済学)、日本アクチュアリー会正会員
専門分野・得意分野
保険数理、リスクマネジメント、公共経済、労働経済、統計数学
ナビナビ保険編集部
ナビナビ保険編集部
ナビナビ保険編集部は「どこよりも分かりやすい保険情報を届けること」をコンセプトにコンテンツの配信を行っています。
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