学費や生活費のために働きながら学校に通う学生の方は、所定の条件を満たすと「勤労学生控除」を適用し、税金の負担を軽減できる場合があります。
勤労学生控除は、所定の手続きをしなければ受けられません。
また、勤労学生控除の仕組みや注意点を理解せずに適用すると、世帯全体で考えたときの税負担が増える恐れがあります。
当コンテンツでは、2020年1月に実施された税制改正の内容をもとに勤労学生控除の仕組みやメリット・デメリットを分かりやすく解説します。
この記事の目次
勤労学生控除とは?
勤労学生控除とは、働きながら学校に通う学生の税負担を軽減してくれる制度です。
働いている学生が暦年(1月1日〜12月31日)までの1年間で一定額以下の給与収入があったときに、所定の金額が所得から控除されます。
収入を得た場合、所得税や住民税といった税金を納めなければなりません。
しかし、収入のすべてに課税されるわけではなく、状況に応じた一定金額は税金の計算から控除してくれます。
所得税や住民税は、収入から基礎控除や給与所得控除などを差し引いた金額(課税所得)に所定の税率をかけて計算します。
勤労学生控除を適用することで課税所得金額がさらに低くなるため、所得税や住民税の負担が軽減されるのです。
勤労学生控除の金額は、所得税と住民税それぞれの計算時で以下のように異なります。
勤労学生控除の金額
- 所得税の計算時:27万円
- 住民税の計算時:26万円
勤労学生控除が適用される要件
勤労学生控除を受けられるのは、労働によって収入を得た年の12月31日時点で以下の条件を満たす学生です。
勤労学生控除が適用される条件
- 特定の学校の学生、生徒であること
-
合計所得金額が75万円
※ 以下、かつ納税者本人の勤労による所得以外の所得が10万円以下※ 令和元年以前の場合は、65万円以下 -
勤労所得が学生である納税者本人の勤労による所得であること
※国税庁「No.1175 勤労学生控除」をもとに作成
勤労学生控除の対象となるのは、アルバイトやパートなどで受け取った給与収入をはじめとする、労働によって得た収入です。
株の配当収入や不動産投資の家賃収入などは、勤労による所得とはみなされません。
合計所得金額とは、収入のうち給与所得控除を差し引いた金額です。2020年1月以降は年収が162.5万円以下の場合、給与所得控除額は一律55万円となります。
よって、勤労学生控除は年収が勤労学生控除の所得要件75万円に給与所得控除の55万円を足した130万円以下でなければ適用できません。
また、特定の学校とは以下のいずれかです。
勤労学生控除の対象となる特定の学校
- 学校教育法に規定する小学校・中学校・高等学校・大学・高等専門学校など
- 国・地方公共団体・私立学校法の第3条に規定する学校法人など
- 職業能力開発促進法の規定による認定職業訓練を行う職業訓練法人で、一定の課程を履修させるもの
そのため、高校生や大学生だけでなく、大学院生や専門学校生も対象です。
ただし、専門学校の中には勤労学生控除の条件である特定の学校に当てはまらないところもあるため、通学先の学校に確認しましょう。
勤労学生控除のメリット・デメリット
勤労学生控除のメリットとデメリットは、それぞれ以下の通りです。
勤労学生控除のデメリット
メリット1. 所得税の非課税枠が103万円 → 130万円(住民税は126万円)になる
所得控除と給与所得控除に勤労学生控除が加わることで、所得税や住民税が非課税となる収入の金額が増えて、税負担が発生しにくくなります。
所得税の場合、年収が基礎控除の48万円と給与所得控除の55万円の合計金額である103万円を超えると課税されます。
しかし、勤労学生控除の27万円が加わると、年収が130万円を超えない限り所得税は課せられなくなるのです。
住民税は、前年の所得が45万円以下であると非課税です。
よって、年収が非課税枠45万円 + 給与所得控除額55万円 = 100万円以下であれば、そもそも住民税は課税されません。
そこに勤労学生控除の26万円が加わると、年収が126万円を超えない限り住民税の負担は発生しなくなります。
メリット2. 税負担を軽減し、手取り額を増やせる
勤労学生控除を受けると前述のとおり課税対象となる所得の金額が低くなるため、所得税や住民税の税額が減って手取りの金額を増やせます。
親からの仕送りが少ない人や、まったく仕送りがない人は、勤労学生控除を受けることでアルバイトで収入を得たときの手取り額が増え、家計が楽になります。
デメリット1. 住民税・所得税で控除額が異なる
住民税を計算する際の勤労学生控除の控除額は、所得税の計算時よりも1万円少なくなります。
また、税額を計算する際に、全員一律で差し引かれる「基礎控除」の金額も、所得税と住民税の計算時で以下のように異なります。
基礎控除の金額
- 所得税の計算時:48万円
- 住民税の計算時:43万円
上記のように、所得税の計算時と住民税の計算時で控除額が異なるため、所得税が非課税であっても、住民税が課税される場合がある点に注意が必要です。
デメリット2. 親の税負担が増える場合がある
勤労学生控除を受けると、通学する子供の税負担は減らせても、親の税負担が増える可能性がある点に注意が必要です。
16歳以上の子供を扶養している場合、親は扶養控除38万円を受けて所得税の負担を軽減できます。(住民税計算時の控除額は33万円)
しかし、扶養控除は扶養する子供の年収が103万円を超えると受けられません。
そのため、子供の年収が103万円を超えて130万円以下となった場合、子供に勤労学生控除が適用される一方で、親は扶養控除受けられなくなり税負担が増える恐れがあります。
また、子供の年収が130万円を超えているにもかかわらず親が扶養控除を受けたままにしていると、追徴課税を請求される場合があります。
勤労学生控除の計算方法
勤労学生控除を受けた場合の所得税や住民税の計算方法や、税負担の軽減効果について解説します。
勤労学生控除を受ける場合の課税所得の計算方法は、以下の通りです。
- 課税所得 = 勤労収入 - ( 基礎控除 + 給与所得控除 + 勤労学生控除 )
基礎控除と勤労学生控除の控除額を、まとめると以下の通りです。
所得税 | 住民税 | |
---|---|---|
基礎控除 | 48万円 | 43万円 |
勤労学生控除 | 27万円 | 26万円 |
次に、年収が128万円(合計所得金額73万円)の学生の所得税と住民税の金額を計算してみましょう。
なお、年収が162.5万円以下ですので、給与所得控除の金額は55万円となります。
勤労学生控除を考慮した場合の所得税の計算方法
年収が128万円の場合、以下のように所得税の課税所得が0万円となるため、所得税は課税されません。
-
所得税の課税所得 = 勤労収入 - ( 基礎控除48万円 + 給与所得控除55万円 + 勤労学生控除27万円 )
= 128万円 - 130万円
= 0円
仮に、勤労学生控除を考慮しなかった場合、課税対象となる所得の金額は25万円となります。
課税所得の金額が195万円未満の場合、税率は5%ですので、所得税額は25万円×5% = 12,500円です。
よって、勤労学生控除を受けることで所得税の負担を12,500円軽減できました。
勤労学生控除を考慮した場合の住民税の計算方法
住民税の計算式は、以下の通りです。
- 住民税額 = 所得割 +均等割 - 税額控除
所得割と均等割の計算方法は、それぞれ以下の通りです。
住民税の所得割と勤労割の計算方法
- 所得割:課税所得金額 × 税率( 10% )
-
均等割:5,000円( 道府県民税 1,500円 + 市区町村民税 3,500円)
※均等割の金額は自治体によって異なります
住民税の均等割は、同一生計配偶者や扶養親族がいない人の場合、前年の所得金額が45万円以下であると課税されません。
また、未成年者は前年の合計所得金額が135万円以下(給与所得者は、年収204万4,000円未満)の場合、所得割と均等割の両方が非課税です。
税額控除とは、算出された税額から差し引ける控除のことです。今回のシミュレーションでは、調整控除のみを考慮することとします。
調整控除とは、所得税と住民税の人的控除額(基礎控除額や勤労学生控除額など)の差を調整するための税額控除です。
所得金額が200万円以下の場合は、以下のいずれか低い金額に5%をかけた金額が調整控除額となります。
調整控除額は以下のどちらか低い金額
- 人的控除額の差の合計額
- 個人住民税の合計課税所得金額
まず、住民税の所得割から計算しましょう。
住民税の計算(所得割)
-
所得割の課税所得 = 勤労収入 - ( 基礎控除43万円 + 給与所得控除55万円 + 勤労学生控除26万円 )
= 128万円 - 124万円
= 4万円
よって住民税の所得割の金額は、4万円×10% = 4,000円となります。
また均等割は、5,000円とします。
調整控除は基礎控除と勤労学生控除が対象ですので、人的控除額の差は以下の通りです。
人的控除額の差
-
人的控除額の差 = 基礎控除額の差 + 勤労学生控除の差
= ( 48万円 - 43万円 ) + ( 27万円 -26万円 )
= 6万円
合計所得金額73万円よりも、人的控除額の差である6万円の方が低いため、調整控除額は以下の通りです。
調整控除額
-
調整控除額 = 6万円 × 5%
= 3,000円
よって住民税額は 4,000円 + 5,000円 - 3,000円 = 6,000円です。
もし、勤労学生控除を適用しなかった場合、課税所得は30万円、調整控除額は2,500円であるため住民税額は32,500円となります。
勤労学生控除を受けたことで、26,500円の税負担を軽減できました。
そのため、勤労学生控除を受けたことによって軽減できた所得税と住民税の税額は、合計で12,500円 +26,500円 = 39,000円です。
勤労学生控除の利用は親と相談して決める
上記のモデルケースのように、年収が128万円であれば扶養控除を適用できる年収の103万円を超えてしまうため、親の税負担が増えてしまいます。
所得税の税率は、個人の所得によって変わります。親の所得が高いと、勤労学生控除を受けても世帯全体で考えると収支がマイナスとなる可能性もあるのです。
場合によっては、子供がアルバイトの収入を増やすよりも、親からの仕送りを増額してもらった方が良い場合もあります。
そのため、勤労学生控除の利用を検討する際は、親と子供で話し合いをし、税理士やファイナンシャルプランナーのような専門家に相談して慎重に判断することをおすすめします。
勤労学生控除の手続きの流れ
勤労学生控除を受けるためには、給与所得のある学生自身が申請をしなければなりません。
申請方法は、勤務先の年末調整と確定申告の2種類があり、状況に応じてどちらかの方法で申告します。
年末調整で申請する場合
年末調整とは、勤務先が従業員の給与から天引きしている所得税と復興特別所得税を正しい金額に計算し、年末の給与で精算する手続きです。
アルバイトをしている学生に支払われる給与からは、所得税と復興特別所得税が天引きされています。
この際、天引きされているのは年始時点での見込み金額です。正しい税額を計算するために、勤務先は年末調整を実施して従業員から状況を報告してもらい、精算をする必要があるのです。
年末調整で勤労学生控除を申請する場合は「扶養控除等申告書」に必要事項を記入し、期日内に担当部署へ提出する必要があります。
勤務先によって申請方法が異なる場合があるため、事前に確認しておきましょう。
なお、もし年末調整で手続きをし忘れても、確定申告をすることで勤労学生控除が適用され、払いすぎた税金を還付してもらえます。
確定申告で申請する場合
確定申告とは、1年間の収入と所得税および復興特別所得税の金額を計算して、国に納める手続きのことです。
確定申告は、主に自営業やフリーランスをはじめとする、勤務先からの年末調整が受けられない方が行う手続きです。
そのため、アルバイトをしている学生は年末調整で勤労学生控除を受けられる場合、確定申告は必要ありません。
以下に該当する場合は、確定申告で勤労学生控除を申請する必要があります。
確定申告で勤労学生控除の申請が必要な学生の例
- 勤務先で年末調整をしてもらえない人
- 2ヶ所以上の勤務先から給与を受け取っている人
- 年末調整で勤労学生控除を申請し忘れた人
確定申告の期間は、給与を受け取った年の翌年2月16日 〜 3月15日頃です。
ただし、勤労学生控除を申請するだけであれば修正申告(還付申告)でも手続きできます。
修正申告の期限は、収入を得た翌年の1月1日から5年以内です。
確定申告や修正申告で申請する場合は、確定申告書に勤労学生控除に関する事項を記載し、本人確認書類や必要書類を添付して、税務署に持参または郵送で提出します。
確定申告書は国税庁のサイトから印刷できるほか「確定申告書作成コーナー」で所定の項目を入力すると、必要項目が記載された状態で印刷されます。
また、e-Taxを利用するとインターネット経由で電子申告も可能です。税務署に確定申告書を持参したり、郵送したりする必要はありません。
勤労学生控除に関するよくある質問Q&A
最後に、勤労学生控除について多くの方が疑問に思われる点を解説します。
Q. アルバイトを掛け持ちしている場合はどうなりますか?
A. アルバイトの収入を合計した金額が130万円以下であると、勤労学生控除を受けられます。
ただし、勤労学生控除は収入の合計金額から差し引きます。アルバイト先ごとの収入からそれぞれ差し引けるわけではありません。
また、複数のアルバイトを掛け持ちしている方が勤労学生控除を受ける場合、確定申告が必要となるため、忘れずに手続きをしましょう。
まとめ
最後に要点を振り返ります。
- 勤労学生控除とは、働きながら学業に励む学生が所定の条件を満たす場合に、所得税や住民税の負担を軽減できる制度
- 勤労学生控除の控除額は、所得税の計算時は27万円、住民税の計算時は26万円
- 勤労学生控除を受けることで、所得税や住民税が非課税となる収入の金額が増える
- ただし、子どもの収入によっては親が扶養控除を適用できなくなって税負担が増える場合がある
- 勤労学生控除を受けるには、年末調整または確定申告(修正申告)で所定の手続きが必要
- 複数のアルバイトを掛け持ちしている場合は、合計の収入から勤労学生控除を差し引く
勤労学生控除は、働きながら学校に通う学生の税負担を軽減してくれる頼もしい制度です。しかし、親の所得次第では、勤労学生控除を受けると逆に税負担が増える可能性があるため、慎重な検討が必要です。
制度を利用するべきかご自身で判断できない場合は、お金のプロであるFPへの相談も合わせて検討していきましょう。