寡婦年金とは?
寡婦年金は、国民年金の第1号被保険者である夫が年金を受け取る前に亡くなってしまった場合に、その妻に対して「夫が受け取るはずだった年金額の一部」が支払われる給付制度のことです。
受給できる年金額は、夫の第1号被保険者期間だけで計算した老齢基礎年金額の4分の3相当で、受給期間は夫によって生計を維持されていた妻が60歳〜65歳になるまでの期間に限られます。
ただし、夫がすでに老齢基礎年金や障害基礎年金を受給している場合は支給されず、妻が繰り上げで老齢基礎年金を受給している場合も受け取ることはできません。
また、寡婦年金の受給対象となるためには所定の要件を満たしている必要があるので、誰もが必ず受け取れるわけではないという点は覚えておくようにしましょう。
なお、所得控除の中に「寡婦控除・寡夫控除(令和2年分から“ひとり親控除”)」がありますが、妻が亡くなった夫を対象にした「寡夫年金」という給付制度は存在しないのでご注意ください。
寡婦年金と死亡一時金の違い
老齢基礎年金を受け取る前に死亡した場合は遺族に対して支払われる「死亡一時金」があります。
死亡一時金は国民年金法に定められる給付のうちのひとつですが、寡婦年金と併用して受け取ることはできません。
両方の支給条件に該当する場合はどちらか一方を選択する必要があるので、これらの違いについても知っておきましょう。
名称 | 寡婦年金 | 死亡一時金 |
---|---|---|
要件 | 第1号被保険者として保険料を納めた期間が10年以上の夫が年金を受け取る前に亡くなったとき | 第1号被保険者として保険料を納めた期間が36か月以上ある人が年金を受け取る前に亡くなったとき |
受給者 | 10年以上の婚姻関係にあって夫に生計を維持されていた妻 | その人と生計を同じくしていた遺族で優先順位の高い人
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受給時期 | 妻が60歳〜65歳になるまでの間 | 死亡してから2年経過するまでの間に一度だけ |
受給金額 | 夫の第1号被保険者期間だけで計算した老齢基礎年金額の4分の3相当 |
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※2021年1月時点の情報を記載しています
寡婦年金は「保険料を納めた期間が10年以上の夫が死亡したとき」であるのに対し、死亡一時金は「保険料を納めた期間が36ヵ月以上の人が死亡したとき」という点が異なります。
また、寡婦年金が受け取れるのは夫に生計を維持されていた妻のみですが、死亡一時金の場合は優先順位があるものの他の遺族が受け取れる可能性もあります。
さらに、寡婦年金が受給できるのは妻が60歳から65歳になるまでの間ですが、死亡一時金は生計を維持していた人が亡くなってからすぐに請求手続きを行うことが可能です。
なお、基本的には寡婦年金のほうが受給金額は大きくなるので、どちらの要件も満たしている場合は寡婦年金を選択するのが良いでしょう。
ただし、後述する受給要件をすべて満たしていないと寡婦年金を受け取ることはできないので、受給要件を満たしていない場合には死亡一時金を選択するようにしてください。


寡婦年金が受給できないケース
以下に該当する場合、要件を満たしていたとしても寡婦年金を受給することができません。
寡婦年金が受給できないケース
- 死亡した夫の保険料納付期間が10年未満の場合
- 死亡した夫がすでに老齢基礎年金を受け取り始めていた場合
- 死亡した夫が障害基礎年金を受給している場合
- 死亡した夫により生計を維持されていたものとみなされない場合
- 要件を満たす妻が老齢基礎年金の繰り上げ受給をしている場合
- 寡婦年金ではなく死亡一時金を受け取った場合
- 死亡から5年以上経過した後で請求手続きを行った場合
上記に該当する人でも「遺族年金」を受け取ることができる場合があります。
遺族年金とは、国民年金や厚生年金に加入中の人がなくなった場合、その人が生計を維持していた遺族に対して支払われる年金のことです。
亡くなられた人が「自営業」か「会社員」のどちらに該当するかでもらえる年金の種類が異なるので、以下のページにて詳細を確認しておきましょう。
なお、妻が死亡した場合や他の人と再婚した場合は受給権が消滅するのでご注意ください。


寡婦年金の受給条件
寡婦年金の受給条件は以下のとおりです。
寡婦年金の受給条件
- 受給できるのは妻のみ(寡夫年金はない)
- 夫の国民年金納付期間が10年以上
- 夫が老齢年金・障害年金等を受給していない
- 夫婦の生計が夫によって維持されていた(事実婚含む)
- 夫の死亡時の年齢が65歳未満
- 夫の死亡後5年以内に請求している
寡婦年金を受給するためには、上記の条件をすべて満たしている必要があります。
寡婦年金が受給できるのは、要件を満たしている夫によって生計を維持されていた妻に限られますが、これには事実婚も含まれています。
請求手続きを行う際に事実婚であることが認められれば寡婦年金を受給できる可能性があるので、婚姻関係がない場合であっても忘れずに請求手続きを行うようにしましょう。
なお、寡婦年金が請求できるのは夫が死亡してから5年以内に限られるのでご注意ください。
ちなみに、妻が亡くなった場合の「寡夫年金」という制度は存在しないため、妻によって生計を維持されていた世帯においては「死亡一時金」を請求することになるので覚えておきましょう。


寡婦年金の失権事由
寡婦年金を受給している場合、以下に該当すると受給権を失うことになってしまいます。
寡婦年金の失権事由
- 受給者の年齢が65歳に達したとき
- 受給者が死亡したとき
- 受給者が婚姻(内縁を含む)をしたとき
- 受給者が直系血族・直系婚姻以外の者の養子になったとき
- 繰上げ支給の老齢基礎年金の受給権を取得したとき
受給者の年齢が65歳になると寡婦年金が支給されなくなります。
代わりに受給者本人の老齢基礎年金の受給がスタートすることになり、他の失権事由も含めると「寡婦年金は老齢基礎年金との同時受給ができない」ということになるので覚えておきましょう。
また、寡婦年金が受給できるのは要件を満たした夫の妻でなければならないので、受給者が再婚や他者の養子になる場合には寡婦年金の受給資格を失権することになります。
受給者が死亡した場合も失権事由に該当するため、遺産相続時における代襲相続などはできないのでご注意ください。


寡婦年金の受給手続き
寡婦年金の受給手続きを行うためには、以下の必要書類を揃える必要があります。
書類名称 | 補足説明 | |
---|---|---|
必ず提出が必要 | 年金請求書 | 住所地の市区町村役場、または年金事務所および街角の年金相談センターに備え付け または日本年金機構公式サイトからダウンロード(記入例あり) |
年金手帳 | 提出できない場合は理由書を提出する必要がある | |
戸籍謄本(記載事項証明書) | 死亡者との続柄および請求社の使命・生年月日の確認のために必要 受給権発生日以降で提出日から6か月以内に交付されたものに限られる |
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世帯全員の住民票の写し | 死亡者との瀬系維持関係確認のために必要 | |
死亡者の住民票の除票 | 世帯全員の住民票の写しに含まれている場合は不要 | |
請求者の収入が確認できる書類 | 生計維持認定のために必要 所得証明書、課税(非課税)証明書、源泉徴収票等が該当 |
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受取先金融機関の通帳等(本人名義) | カナ氏名、金融機関名、支店番号、口座番号が記載された部分を含む預金通帳またはキャッシュカード(コピーも可)等が該当 請求書に金融機関の証明を受けた場合は添付不要 |
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年金証書 | 公的年金から年金を受けている場合に必要 | |
死亡の原因が第三者行為の場合に必要 | 第三者行為事故状況届 | 所定の様式あり ※詳細は年金事務所まで要確認 |
交通事故証明または事故が確認できる書類 | 事故証明がとれない場合は事故内容がわかる新聞の写しなど | |
確認書 | 所定の様式あり ※詳細は年金事務所まで要確認 |
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被害者に被扶養者がいる場合、扶養していたことがわかる書類 | 源泉徴収票、健康保険証の写し、学生証の写し等が該当 ※健康保険証の場合は保険者番号および記号・番号等を判別、復元できないようにマスキング(黒塗り等)したもの |
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損害賠償金の算定書 | すでに決定済みの場合に必要。示談書等受領額がわかるもの | |
損害保険会社等への照会にかかる「同意書」 | 所定の様式あり ※詳細は年金事務所まで要確認 |
なお、平成23年11月からは請求者の負担を軽減するため、金融機関の証明書の代わりとして「預貯金通帳の写し」でも請求手続きができるようになりました。
振り込み口座番号等に関する金融機関の証明の省略について
- 年金事務所等の窓口へ直接預金通帳(貯金通帳)を持参される場合
- 預金通帳(貯金通帳)の写しその他の預金口座を明らかにすることのできる書類を添付される場合
参照:年金請求などをされる場合の添付書類について|日本年金機構
上記の2点のうち、どちらかに該当する場合は金融機関やゆうちょ銀行の証明は不要なので確認しておきましょう。
請求窓口
寡婦年金の請求窓口は以下の3通りが挙げられます。
寡婦年金の請求窓口
- 住所地の市区町村役場
- 年金事務所
- 街角の年金相談センター
最寄りの年金事務所や年金相談センターは、日本年金機構の公式サイトから調べることができます。
年金事務所と年金相談センターのどちらも、平日の朝8時30分から夕方17時15分までの受付時間となるので、これらの窓口で手続きを行う場合は時間帯にご注意ください。


まとめ
寡婦年金は、国民年金に加入している夫が死亡した場合に、その夫に生計を維持されていた妻が受給できる年金制度のことです。
ただし、誰もが受け取れるわけではなく、以下の受給要件を満たしている必要があります。
寡婦年金の受給条件
- 受給できるのは妻のみ(寡夫年金はない)
- 夫の国民年金納付期間が10年以上
- 夫が老齢年金・障害年金等を受給していない
- 夫婦の生計が夫によって維持されていた(事実婚含む)
- 夫の死亡時の年齢が65歳未満
- 夫の死亡後5年以内に請求している
また、年金制度加入者が亡くなった場合には「死亡一時金」が受け取れる場合もありますが、寡婦年金と死亡一時金の両方の受給要件を満たしている場合はどちらか一方を選択しなければなりません。
受給金額は寡婦年金のほうが大きくなるのが一般的なので、どちらを選択するか迷ったときは寡婦年金を選ぶようにしましょう。
お住まいの市区町村を管轄する役場、または年金事務所および年金相談センターの窓口で請求手続きを行うことになるので、わからないことがある場合はこれらの窓口までお問い合わせください。