自動車保険に加入するとき、車両保険を付けるべきか悩む方は少なくありません。
車両保険に加入していると、事故で車の修理や買い換えが必要になったときに、保険金で費用をカバーできますが、保険料は増えます。補償内容や保険金の支払われ方などを知ったうえで、ご自身にとって車両保険が必要かどうか考えることが大切です。
本記事では、車両保険の補償内容を解説したうえで、 必要か不要か判断する際のポイントをご紹介します。車両保険の加入で迷われている方は、ぜひご一読ください。
車両保険とは自分の車の修理費などを補償する保険
車両保険は、事故による車の損害を補償する保険です。車両保険に加入していると、以下のようなケースで保険金が支払われます。
車両保険から保険金が支払われるケースの例
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車同士の事故で運転していた車が大破した
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所有する車が落書きやいたずらの被害にあった
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所有する車が盗難された
- 台風や洪水などの自然災害で車が水没した など
車が修理不能な状態になったときは、買い換え費用を保険金で賄うことも可能です。
損害保険料算出機構の調査によると2021年3月末時点で車検が有効である車両のうち、車両保険に加入している割合は、以下の通りです。
自家用普通乗用車(3ナンバー車) | 62.8% |
---|---|
自家用小型乗用車(5ナンバー車、7ナンバー車) | 52.4% |
軽四輪乗用車 | 48.4% |
二輪車 | 1.8% |
合計 | 75.3% |
このように自家用普通乗用車の5〜6割が車両保険に加入しています。軽四輪乗用車の車両保険の加入率は、5割弱です。
一方で二輪車の加入率は、1.6%と自家用乗用車と比較して著しく低くなっています。

- ナビナビ保険監修
- 関西学院大学教授
- 前田 祐治
車両保険はいらない?必要かどうか判断する基準
「交通事故が起こったときは、事故相手から賠償してもらえるから車両保険はいらない」と考えている方もいるのではないでしょうか。
たしかに相手がいる交通事故では、相手方から支払われる保険金で修理費や買い換え費用をカバーできる可能性はあります。
しかし、相手方から支払われた賠償金で修理費の全額がまかなえるわけではありません。賠償額は、過失割合に応じて相殺されるためです。
過失割合とは、自分と相手の交通事故における落ち度を、割合にしてあらわしたものです。例えば、過失割合が自分:相手=30:70であった場合、車の修理費用の3割は自己負担しなければなりません。
また相手がいない事故では、修理費は全額自己負担となります。車両保険に加入していれば、修理費の自己負担分を保険金でカバーできます。
とはいえ、車両保険が必須であるとも限りません。ご自身にとって車両保険が必要かどうかは、以下を基準に判断すると良いでしょう。
車両保険が必要か判断する基準
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車の時価額
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資産状況
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自動車ローンの残高
- 車の使用頻度
車の時価額
車両保険は、車の時価相当額を上限に保険金が支払われます。時価相当額とは、簡単に言えば市場で販売されている価格のことです。
時価相当額が高い新車や高級車などに乗っている人は、車両保険の加入を検討すると良いでしょう。
例えば、新車に乗っている人は、車両保険に加入するとき十分な保険金額を設定できるため、支払われた保険金で交通事故を起こしたときの修理費用や買い換え費用をカバーしやすいです。
また高級車に乗っている場合、事故による損傷が軽微だったとしても、修理費が高額になる可能性があるため、車両保険に加入すると安心です。
一方で、初度登録から年数が経過した古い車ほど、時価相当額は低くなります。とくに初度登録から10年以上経っている中古車の場合、車両保険に加入しても「修理費用は60万円だが、保険金の支払額は30万円」といった事態となる可能性があります。
初動登録から10年以上経過した中古車に乗っている人にとって、車両保険の必要性は低いといえるでしょう。
資産状況
車が損傷したときに、修理費用や買い換え費用を貯蓄で賄えないのであれば、車両保険に加入しておくと良いでしょう。車両保険に加入していれば、車が損傷したときに、貯蓄がなくても保険金で修理費用や買い換え費用をカバーできます。
また、子どもの進学費用やマイホーム購入の頭金など、何らかの目的があって貯蓄をしている人も、車両保険の加入を検討するのがおすすめです。
例えば、マイホームの購入に向けて頭金を貯めていたとしましょう。交通事故で車が大破して買い換えが必要になり、頭金を支払うための貯蓄を使ってしまうと、マイホームの購入が先延ばしになるかもしれません。
車両保険に加入していれば、事故が発生して車が損害を負ったとき、保険金で買い換え費用を賄うことで貯蓄を減らさずに済む可能性があります。
自動車ローンの残高
自動車ローンを組んで車を購入しており、多額の残債がある人は車両保険に加入しておいたほうが良いです。車両保険に加入していなければ、事故によって車が大破したとき、多額の返済義務だけが残る恐れがあるためです。
とくに日常生活において車が必要不可欠である場合、車両保険に加入していないと、事故で大破した車のローンに加えて新しい車の購入費用を支払わなければなりません。
またローンの残債があると、新たな車のローンを組めない可能性もあります。ローンを返済中である方にとって、車両保険の必要性は高いといえるでしょう。
車の使用頻度
日常的に車を利用している人にとっても、車両保険の必要性は高いです。事故によって車が大破したり、駐車中に盗難に遭ったりすると、車を買い直さなければ不便な生活を強いられることになるかもしれません。
例えば、子どもを保育園に送迎するために毎日車を運転していたとしましょう。事故によって車が大破して利用できなくなると、自転車やタクシーなどで送り迎えすることになる可能性があります。
交通事故で車が使えなくなると、生活が著しく不便になると想定されるのであれば車両保険に加入すると良いでしょう。
車両保険から支払われる保険金
車両保険の加入を検討するときは、保険金の支払上限額や事故時の支払額の決まり方を理解することが大切です。一つずつみていきましょう。
加入時に設定する保険金額
車両保険から支払われる保険金は、契約するときに決めた「保険金額」が上限です。保険金額は、契約時の車の時価相当額となります。
時価相当額は、年式や型式などが同じである車の市場販売額に相当する価格です。保険会社が、用途・車種・車名ごとに設定しています。
年式が古い車は、新しい車と比較して時価が下がるため、設定できる保険金額は低くなります。プレミア価格が付いているような人気の中古車であっても、保険金額が時価で判断される点は変わりません。
また、新車購入時に車両保険に加入した場合、保険を更新する度に保険金額は下がっていきます。
なお以下に該当する車は、車両保険をつけられない場合があります。
車両保険を付けられない車の例
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一部のスポーツカー
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市場販売価格相当額が1,000万円を超える車
- 市場販売価格相当額が10万円未満の車 など
事故時に支払われる保険金
事故が発生したときに支払われる保険金の額は、車の損害状況によって計算方法が異なります。
具体的には、車の修理費用が時価相当額を上回ったときや、車が盗難にあったときは「全損」となり、修理費用が時価相当額を下回ったときは「分損」となります。
保険金の支払額の決まり方は、それぞれ以下の通りです。
車両保険の保険金支払額の決まり方
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全損:支払われる保険金=保険金額
- 分損:支払われる保険金=損害額−免責金額
※保険金額が上限
免責金額は、保険金額のうち契約者が自己負担する金額のことです。
例えば、車両保険金額が200万円、車の修理費用が50万円、免責金額が5万円であるとしましょう。このケースでは、修理費用が保険金額の範囲内であるため分損となり、修理費用の50万円から5万円を引いた45万円が保険金として支払われます。

- ナビナビ保険監修
- 関西学院大学教授
- 前田 祐治
免責金額の決め方
免責金額は、車両保険の加入時に設定します。「1回目5万円、2回目以降10万円」のように、初回の事故と2回目以降の事故それぞれの免責金額を指定するのが一般的です。
免責金額が高いほど、事故が発生したときの自己負担額が増える代わりに、 車両保険料は安くなります。例えば、免責金額を「1回目0万円、2回目以降0万円」と設定するよりも「1回目10万円、2回目以降10万円」としたほうが、保険料は安いです。
車両保険の保険料を抑えたいのであれば、事故が発生したときに支払える範囲内で免責金額を高くするのも方法です。

- ナビナビ保険監修
- 関西学院大学教授
- 前田 祐治
車両保険の種類と選び方
車両保険には、「一般タイプ」と「エコノミータイプ(車対車+A)」があり、補償範囲や保険料が異なります。車両保険に加入するときは、それぞれの違いを理解したうえで、ご自身に合ったものを選ぶことが大切です。
一般タイプとエコノミータイプ(車対車+A)
一般タイプの車両保険は、相手がいない自損事故や当て逃げなども幅広く補償します。一方でエコノミータイプ(車対車+A)は、車同士の事故や自然災害、盗難などを中心に補償するタイプの車両保険です。それぞれの補償範囲は、以下の通りです。
一般タイプ | エコノミータイプ | |
---|---|---|
他車との衝突・接触 | 〇 | 〇 |
盗難 | 〇 | 〇 |
落書きなどのいたずら | 〇 | 〇 |
台風や洪水などの自然災害 | 〇 | 〇 |
火災・爆発 | 〇 | 〇 |
自損事故 | 〇 | × |
当て逃げ | 〇 | × |
例えば、運転を誤って電柱に激突して車が大破したときは、一般タイプの車両保険に加入していなければ保険金は支払われません。
一般タイプのほうが、補償範囲が広いぶん、保険料はエコノミータイプよりも高くなります。
一般タイプとエコノミータイプのどちらを選んでも、台風や洪水などの自然災害は補償の対象です。ただし、どちらを選んでも地震や噴火、津波は特約を付けない限り補償されません。
車両保険の選び方
一般タイプとエコノミータイプそれぞれに向いている人の例は、以下の通りです。
一般タイプを選ぶと良い方
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車が損害を負うリスクに幅広く備えたい
-
運転に自信がなく自損事故が怖い
- 当て逃げをされたときの修理費用もカバーして欲しい
エコノミータイプを選ぶと良い方
-
少しでも保険料を抑えたい方
-
運転に自信があり自損事故をする可能性は低いと考えている
- 当て逃げの修理費は自己負担すると許容できる人
車両保険のタイプは、備えたい範囲や保険料、保険金額、免責金額などさまざまなバランスを考慮して選ぶことが大切です。
車両保険は使うと等級が下がる
車両保険の保険金を請求すると、対象となる事故によって自動車保険のノンフリート等級が3等級または1等級ダウンします。
ノンフリート等級とは、自動車保険に加入する人の事故実績に応じて、保険料に割引や割増を適用する制度です。事故を起こして保険金を請求すると、翌年のノンフリート等級が下がって保険料が上がります。
事故の例 | |
---|---|
3等級ダウン事故 | ・車同士の接触事故(当て逃げを含む) ・単独で起こした事故 |
1等級ダウン事故 | ・車両が盗難・落書きにあった ・車両が台風の被害にあって故障した ・飛び石などの飛来物で車両が損傷した |
等級がダウンすると車両保険だけでなく、対人賠償責任保険や対物賠償責任保険などの保険料も上昇します。修理費を自己負担できるのであれば、車両保険の保険金を請求しないのも方法です。
なお、車両保険に「無過失事故に関する特約」が付いていると、保険金を請求しても等級がダウンしないことがあります。
無過失事故に関する特約の対象となるのは、自動車との接触事故や追突事故など、自分自身に過失がなく相手がいる事故です。当て逃げのように相手がわからない事故では無過失事故に関する特約を利用できません。
まとめ
車両保険に加入していると、車同士の事故だけでなく台風や洪水による自然災害、盗難、落書きなどで生じた車の損害も補償されます。
車の修理費用・買い換え費用を貯蓄でカバーできない方や自動車ローンの残債がある人などは、車両保険の加入を検討すると良いでしょう。
ただし、車両保険から支払われる保険金は、車の時価相当額が上限です。そのため中古車に乗っている場合、車両保険に加入したとしても、修理費をカバーできるだけの保険金が支払われない可能性があります。
車両保険には、自損事故も含めて幅広く補償される「一般タイプ」と、補償範囲が限定された「エコノミータイプ」の2種類があります。備えたい損害の範囲や保険料、保険金額などをもとに、ご自身に合ったほうを選ぶことが大切です。