相続の際は、法律によって決められた相続人同士で遺産をどのように分割するのか協議が必要です。
この際、もし相続人が亡くなってる場合は、相続人の子どもや孫が遺産を代襲相続しなければなりません。
しかし、相続人の子供や孫であっても代襲相続ができない場合があります。
また、代襲相続が発生すると、相続の際に必要となる書類が変わるだけでなく、遺産分割で揉めやすくなることもあるのです。
代襲相続の手続きをスムーズに進めるには、相続に対する理解が不可欠です。
当コンテンツで仕組みや遺産の分割方法、注意点を図解も用いて分かりやすく解説します。


代襲相続とは?
代襲相続とは、被相続人が亡くなった時点で遺産の相続人がすでに死亡している場合に、その子供や孫が代わりに遺産を相続することです。
例えば、以下の図のように被相続人の長男が相続の開始時点で死亡している場合は、長男の嫁ではなく子供(被相続人の孫)が遺産を代襲相続します。
死亡した相続人を「被代襲者」代わりに遺産を相続する人を「代襲相続人」と言います。
代襲相続人は、相続人となるはずだった人と同じ割合で遺産を相続できます。
代襲相続は、被相続人の子供と兄弟姉妹のみに認められた権利です。
被相続人の子供や兄弟姉妹が、死亡や相続欠格などによって相続権を失った場合に、その子供や孫などの相続人よりあとの直通する系統の親族(直系卑属)が代わりに遺産を相続できます。


代襲相続となる要因
代襲相続は、相続人となる予定の人が死亡したとき以外にも、相続欠格や相続排除によって遺産を相続する権利が剥奪された場合にも発生します。
代襲相続が発生する要因
- 相続人が被相続人より先に死亡した
- 相続人が相続欠格者である
- 相続人が相続排除されている
代襲相続は、相続人が被相続人よりも先に死亡した場合だけでなく、相続人と被相続人が同じ車に乗っていて交通事故に遭って死亡したときのように、先に死亡した人が分からない場合も発生します。
また、相続欠格によって相続人としての権利が奪われるのは、以下のように遺産を不正に手に入れようとした場合です。
相続欠格となる要因
- 被相続人や自分自身と同順位以上の相続人を、故意に死亡させた場合や死亡させようとした場合
- 被相続人が殺害されていたのを知っていたにもかかわらず、告訴をしなかった場合
- 被相続人の遺言の作成や取り消し、変更を詐欺または脅迫によって妨害した場合
- 被相続人に詐欺や脅迫をして遺言を作成させたり、変更させたりした場合
- 遺言書を偽造・破棄・隠蔽した場合
もし、相続人となる予定の人物が相続欠格の事由にあてはまらない場合でも「被相続人を虐待した」「被相続人に極度の屈辱を与えた」などの理由で財産を遺したくない場合は、相続排除が可能です。
相続人を排除するには、生前に被相続人が家庭裁判所で廃除請求を行い、調停の審判で承認される必要があります。
したがって、被相続人の個人的な都合で相続排除を行うことはできません。
また、遺言で特定の相続人を相続排除することも可能です。遺言による相続排除の場合は、被相続人の死亡後に遺言で定められた遺言執行者が家庭裁判所で廃除請求を行います。

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相続人の範囲と順位
誰が代襲相続人となるのかは、相続人になれる人の順位を知ると分かりやすくなります。
まず、亡くなった人の配偶者は、必ず相続人となります。ただし、相続人となれるのは法律上の婚姻関係がある配偶者のみで、内縁の妻や離婚した人は相続人になれません。
被相続人の配偶者以外の親族が相続人となる場合、相続順位は以下の通りです。
被相続人との関係 | 配偶者がいる場合の法定相続分 | |
---|---|---|
第1順位 | 子供 | 配偶者1/2、子供1/2 |
第2順位 | 父母や祖父母のような直系尊属 | 配偶者2/3、直系尊属1/3 |
第3順位 | 兄弟姉妹 | 配偶者3/4、兄弟姉妹1/4 |
相続人となれる子供は、婚姻している夫婦から生まれた子供(嫡出子)だけでなく、養子や元配偶者との間に生まれた子供や認知した非嫡出子も含まれます。
被相続人に第1順位の子供がいない場合は、第2順位の父母が相続人となります。
父母の両方が死亡しており、被相続人に兄弟姉妹がいない場合は、祖父母が相続人となります。しかし、父母のどちらかが生存している場合は、祖父母は相続人になれません。
被相続人に子供も父母もいない場合は、兄弟姉妹が相続人となり遺産を相続します。
また、同じ順位にある相続人のすべてが相続放棄をした場合、下の順位の相続人に権利が移ります。
例えば、被相続人に子供AさんとBさんの2人がいたとしましょう。Aさんが相続放棄をすると、Aさんの相続予定だった財産はBさんが相続します。
しかし、AさんとBさんの両方が相続放棄をした場合は、次の相続順位である被相続人の父母が遺産を相続します。


代襲相続にも遺留分は適用される
遺留分とは、相続財産のうち以下の最低割合を受け取れる権利です。
- 直系尊属だけが相続人の場合:相続財産の1/3
- 上記以外の場合:相続財産の1/2
直系尊属とは、父母や祖父母など被相続人より前の世代のことで、養父母は含まれますが、配偶者の父母や祖父母、叔父、叔母は含まれません。
また、被相続人の兄弟姉妹は、遺留分がない点にも注意が必要です。
仮に、相続人が配偶者と子供であり、遺言で「財産を配偶者に全て相続する」と指定されていたとしましょう。
子供は遺留分減殺請求権を行使すると、法定相続分である財産の2分の1のさらに2分の1(4分の1)を相続できます。
子供が亡くなっており、孫が代襲相続する場合も、遺留分を主張して法律で定められた最低割合の財産を請求可能です。
ただし、被相続人の兄弟姉妹は、遺留分を主張する権利がありません。そのため、被相続人の兄弟姉妹の子供が代襲相続をした場合も、同様に遺留分を主張できない点に注意しましょう。


代襲相続となる事例と相続分
代襲相続となる代表的な事例は、以下の4つです。
代襲相続が適用される事例
代襲相続をした場合の遺産分割方法を解説します。
子が死亡し、孫が相続する場合
被相続人の子供がすでに死亡していた場合、被相続人の孫が代襲相続をします。
例えば、以下の事例では、配偶者が遺産の2分の1を相続し、代襲相続人となる2人の孫が遺産の残り2分の1を2人で分けて、4分の1ずつ相続します。
仮に、相続財産が6,000万円であった場合、配偶者が3,000万円、孫が1,500万円ずつ相続する権利が与えられるのです。
一方で、子供の配偶者に遺産を相続する権利はありません。
兄弟姉妹が死亡して甥・姪が相続する場合
相続の開始時点で相続人となる兄弟が他界していた場合、その兄弟の子供が代襲相続できます。
以下の事例では、相続人となる兄弟の子供が代襲相続人となり、遺産の4分の1を甥と姪の2人で8分の1ずつ相続します。
仮に、相続財産が4,000万円であった場合、配偶者が4分の3である3,000万円、代襲相続人である甥と姪で8分の1の500万円ずつを相続します。
ただし、相続人となる予定であった兄弟の配偶者は、遺産を相続できません。


ひ孫が再代襲で相続人になる場合
被相続人の子供だけでなく、代襲相続をするはずの孫も亡くなっている場合は、ひ孫が代襲相続をします。
以下の事例では、孫が代襲相続するはずであった遺産の4分の1をひ孫が相続します。
もし、相続財産が6,000万円である場合、被相続人の配偶者が2分の1の3,000万円、代襲者の孫が4分の1の1,500万円、ひ孫が1,500万円を相続できます。
また、ひ孫も亡くなっていた場合は玄孫(やしゃご)に再代襲され、以降も子孫が続く限り再代襲されていきます。
ただし、亡くなった相続人が被相続人の兄弟姉妹であった場合、子供には代襲相続されますが、孫や玄孫(やしゃご)には代襲相続されません。
昭和55年までは、兄弟姉妹の再代襲も認められていました。
しかし、被相続人と血の繋がりが薄い人が遺産を相続することが問題視されたため、法律が改正されて兄妹姉妹の再代襲は認められなくなったのです。
相続人が養子で、死亡している場合
相続人が養子であり、被相続人がなくなった時点で既に他界していた場合も、その子供が代襲相続します。
ただし、孫が生まれたタイミングによっては代襲相続できない場合があります。
養子縁組した子供が死亡した場合の代襲相続
- 養子縁組の前に生まれた子:代襲相続できない
- 養子縁組の後に生まれた子:代襲相続できる
養子縁組をした後に生まれた養子の子供は遺産の2分の1を代襲相続できます。
しかし、養子縁組より前に生まれた子供(連れ子)は、代襲相続できません。
上記の事例において、相続財産が8,000万円であった場合、配偶者は2分の1である4,000万円を、養子縁組後に生まれた被代襲者の子供は2分の1である4,000万円を代襲相続します。
しかし、養子縁組前に生まれた被代襲者の連れ子は、1円も相続できません。
また、もし相続人となる予定だった養子に連れ子しかおらず、代襲相続人に該当する子供がいなかった場合は、配偶者が遺産を全て相続します。
だだし、養子の連れ子が被相続人と直接養子縁組をしていた場合は、法定相続人となる権利が与えられます。


代襲相続に必要な書類
代襲相続をする場合、相続人が亡くなっている事実や、代襲相続人が死亡した相続人の子供や孫であることを証明しなければなりません。
そのため、代襲相続が発生したときは、以下の書類が必要となります。
代襲相続の際に必要な書類
- 被代襲者の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍
- 代襲相続人の現在の戸籍謄本
- 「除籍謄本」とは?
- 結婚や離婚、死亡などによって、戸籍に記載されている人が誰もいなくなったことを証明する書類
- 「改正原戸籍」とは?
- 法律が改正されて戸籍が現在の様式に書き換えられる前の戸籍
古い戸籍から現在の戸籍に書き換えられる際に、離婚歴や子供の記載などがなくなります。
よって、戸籍謄本だけで代襲相続人と被代襲人や被相続人との関係が証明できない場合、改正原戸籍も取得しなければなりません。


代襲相続の注意点
代襲相続の発生時に注意すべきポイントは、以下の5点です。
代襲相続において注意すべき5つのポイント
1. 相続人が相続放棄した場合は、代襲相続できない
相続放棄をした人は、初めから相続人でなかった人として扱われます。そのため、相続放棄をした人の子供や孫は、代襲相続できません。
被相続人の意思によって相続人が相続欠格や相続廃除となった場合は、その相続人の子供や孫が代襲相続できます。
しかし、相続人自らの意思で相続放棄した場合は、子供や孫にも代襲相続されないのです。
もし、相続財産が借金の多い債務超過であった場合、相続人が相続放棄をしても子供や孫に債務超過である遺産が代襲相続される心配はありません。
また、法定相続人全員が相続放棄をした場合、遺産は誰にも代襲相続されることなく国庫に帰属します。
2. 広範囲の親族が相続に関わり、関係が複雑になる
代襲相続によって遺産分割協議に参加する法定相続人の人数が増えると、遺産の分け方がまとまりにくくなる場合があります。
法定相続分は、あくまで法律が定める遺産分割の目安に過ぎません。
実際に遺産を相続する際は、相続人同士で遺産の分割方法や割合について話し合い、結果をもとに遺産分割協議書を作成します。
代襲相続によって、被相続人やその配偶者と日頃からあまり関わりがなかった人と遺産分割競技をすると、うまく話がまとまらないかもしれません。
遺産分割の際にトラブルの発生が予想される場合は、予め遺言書を作成して遺産を相続する配分を指定しておくと良いでしょう。
もし、代襲相続人と疎遠である場合も、生存している親しい相続人に財産をすべて相続するように遺言書で指定するのが有効です。


3. 相続人の数が増える場合がある
代襲相続する人が複数人いる場合、法定相続人の人数が増えて、相続税の税額が変わることがあります。
なぜなら、相続税を計算するときの基礎控除額や生命保険の死亡保険金・死亡退職金の非課税枠は、以下のように法定相続人の人数によって変わるためです。
基礎控除額と死亡保険金の非課税枠
- 基礎控除:3,000万円 + 600万円 × 法定相続人
- 死亡保険金・死亡退職金の非課税枠:500万円 × 法定相続人
遺産を相続した場合は、相続税を納めなければなりません。
相続税は、相続財産のすべてに課せられるわけではなく、全体から基礎控除額を差し引いた部分が課税の対象です。
また、被相続人が契約者と被保険者(保険の対象となる人)、相続人が保険金受取人となる生命保険に加入していた場合、死亡保険金に対して一定金額までは非課税となります。
もし、相続財産が基礎控除の範囲内であれば相続税の申告は必要ありません。しかし、相続財産が基礎控除の金額を超えている場合は、相続を知った日から10ヶ月以内に相続税の申告が必要です。
例えば、以下の事例においては、法定相続人の数が増えることで相続税の基礎控除額と死亡保険金の非課税枠が異なります。
子供Bが生存 | 子供Bが死亡 (孫CとDに代襲相続) |
|
---|---|---|
法定相続人の人数 | 2人 (配偶者A、子供B) |
3人 (配偶者A、孫C、孫D) |
基礎控除額 (3,000万円 + 600万円 × 法定相続人) |
3,000万円 + 600万円 × 2人 = 4,200万円 |
3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円 |
死亡保険金・死亡退職金の非課税枠 (500万円 × 法定相続人) |
500万円 × 2人 = 1,000万円 |
500万円 × 3人 = 1,500万円 |
仮に相続財産が4,500万円であった場合、相続人である子供Bさんが生存していると基礎控除額を超えているため、相続税を納めなければなりません。
しかし、子供Bさんが死亡して孫CさんとDさんが代襲相続すると、基礎控除額が相続財産の価格を上回るため相続税は非課税となります。
また、死亡保険金額が1,500万円であった場合、子供Bさんが生存していると500万円が相続税の課税対象です。しかし、子供Bさんが死亡して代襲相続が発生した場合は、全額が非課税となります。
上記のように、代襲相続によって法定相続人の人数が増えることで、基礎控除額や死亡保険金の非課税枠が増えて相続税がかかりにくくなるのです。
また、相続税の申告が必要な場合は、代襲相続によって税額が変わる可能性があるため、注意しましょう。

- ナビナビ保険監修
- 滝 文謙


4. 相続手続きに必要な戸籍謄本が増える
代襲相続をする場合、被代襲者と代襲相続人の戸籍が必要です。
特に、被代襲者は被相続人と同じく出生から死亡までの連続した戸籍が必要となるため、収集に苦労する恐れがあります。
もし、被代襲者が結婚や転勤によって転居していた場合、過去に居住していた自治体に戸籍を請求しなければ、出生から死亡までの連続した戸籍が集まりません。
戸籍は郵送でも請求できますが返送までに数日かかるため、被代襲者が各地を転々としていると戸籍集めに時間がかかる場合があります。
また、金融機関での解約手続きや名義変更手続きにも、出生から死亡までの連続した戸籍謄本が必要であるため、揃っていない書類があれば手続きができません。
もし、戸籍集めに手間や時間がかかる恐れがある場合は、早めに弁護士に相談すると良いでしょう。
5. 数次相続と代襲相続の違いを把握する
数次相続とは、相続が重なってしまった状態です。
例えば、父親Aさんが亡くなり、相続の手続きをしている最中に、相続人となる子供Bさんが亡くなってしまい、連続して相続が発生するような事例が数次相続です。
この事例では、父親Aさんの相続を一次相続、子供Bさんの相続を二次相続と言います。
仮に、子供Bさんに配偶者Cさんと子供(父親Aさんから見た孫)Dさんがいるとしましょう。父親Aさんの相続手続きが終わっていない状態で子供Bさんが亡くなっているため、配偶者Cさんや孫Dさんは父親Aさんの財産を相続する権利が発生します。
よって、数次相続が発生した場合、子供の配偶者が義理の父親の財産分与について話し合う事になるのです。
一方で、子供Bさんが父親Aさんよりも先に亡くなった場合、父親Aさんの遺産は、孫Dさんに代襲相続されます。そのため、配偶者CさんはAさんの遺産を相続する権利がなくなるのです。
上記のように、相続が発生する順番によって、相続人が違ってくる点に注意が必要です。


まとめ
代襲相続についてまとめると、以下の通りです。
代襲相続とは
- 代襲相続とは、相続人が亡くなった場合や相続欠格、相続廃除となった場合にその子供や孫が代わりに相続をすること
- 亡くなった相続人を被代襲者、相続する子供や孫を代襲相続人という
代襲相続できる人の範囲
- 代襲相続人になる資格があるのは、被相続人の子供の子供(被相続人の孫)や兄弟姉妹の子供
- 被代襲者が被相続人の子供であり、代襲相続をするはずの相続人の子供(被相続人の孫)が亡くなっていると、相続人の孫(被相続人のひ孫)に再代襲され、子孫が続く限り再代襲が繰り返される
- 亡くなった相続人が被相続人の兄妹姉妹である場合、子供には代襲相続されるが、孫やひ孫への再代襲は認められていない
- 相続人となる予定であった子供が養子であった場合、被相続人と養子縁組をする後に生まれた子供にのみ代襲相続の権利がある
代襲相続の際の必要書類や注意点
- 相続人が相続放棄をした場合、子供や孫は代襲相続できない
- 代襲相続する場合、被代襲人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本と、代襲相続人全員の現在の戸籍謄本が必要
- 代襲相続すると、相続にかかわる親族の範囲が広がって遺産分割協議で揉めやすくなる場合や、法定相続人の人数が増えることで相続税額が変わる場合がある
- 相続人が亡くなる順番によって、数次相続となるか代襲相続となるかが変わり、相続にかかわる人が異なる場合がある
代襲相続によって、遺産分割の際にトラブルが発生する恐れがある場合は、必要に応じて遺言書を作成し、遺産分割を指定するなどの対策も必要です。
代襲相続が発生すると、相続の手続きが複雑になる可能性があるため、心配であれば早めに弁護士に相談するとよいでしょう。
また、遺産分割によるトラブルを避けたい場合はご家族間での十分な話し合いをすることが大切になります。また、ファイナンシャルプランナーに相談することで、相続の際にお役に立つ生命保険の活用方法などに関するヒントをくれます。
生前のうちに専門家からアドバイスを受けつつ備えておくのが、後の相続をスムーズに進める秘訣です。

