子供の教育資金を貯める方法として活用される、学資保険を決める際に「返戻率」は大切な指標です。
返戻率が高いほどより効率よく貯蓄することができるため、その仕組みを理解しておくことが大切です。
そこでこの記事では、学資保険の返戻率の仕組みについて解説し、返戻率を高める方法や計算式を紹介します。
学資保険の返戻率とは?
学資保険の返戻率とは、「払い込んだ保険料の総額に対して、受け取れる保険金がいくらになるか」を表した割合のことです。
返戻率は、次の計算式で算出されます。
学資保険の返戻率
返戻率(%)= 学資保険から受け取れる保険金 ÷ 払い込んだ保険料の総額 ×100
仮に返戻率が100%の学資保険に加入した場合、将来的に受け取れる満期保険金やお祝い金は、払い込んだ保険料と同額です。
返戻率が100%以上の学資保険を選べば、払い込んだ保険料以上の保険金を受け取ることができ、逆に100%を下回る場合は、元本割れを起こすことになります。
そのため、学資保険を比較検討する際は、返戻率が100%を上回る保険商品の中から選ぶのが基本です。
返戻率の具体的な計算方法
学資保険の返戻率を計算する際は、受け取ることができる保険金の種類を把握することが大切です。
「満期保険金」として一括で受け取る場合は問題ありませんが、子供が一定の年齢に達するたびに受け取る「お祝い金」の場合は、受け取る金額を合計してから計算を行います。
たとえば、次の条件を例にして、学資保険の返戻率を具体的に計算してみましょう。
例① :学資保険の返戻率の計算方法
- 保険料総額:毎月15,000円=年間18万円×15年間=270万円
- お祝い金:18歳からの4年間に渡って1年ごとに70万円=合計280万円
- 計算式:(お祝い金280万円÷保険料総額270万円)×100=103.7%
子供が18歳になってから4年間は毎年70万円が受け取れる学資保険がある場合、毎月15,000円の保険料を15年間に渡って支払い続けると、返戻率は約103.7%となります。
例② :学資保険の返戻率の計算方法
- 保険料総額:毎月16,000円=年間19.2万円×15年間=288万円
- お祝い金:18歳からの4年間に渡って1年ごとに70万円=合計280万円
- 計算式:(お祝い金280万円÷保険料総額288万円)×100=97.2%
上記の例②のように、例①と同条件のお祝い金が受け取れる学資保険で毎月の保険料が1,000円高くなると、返戻率は97.2%と払い込んだ保険料の総額を下回ることになります。
学資保険は保険会社や保障内容、保険料の払込期間、保険料の支払い方法など、さまざまな要因で返戻率は大きく変動します。
貯蓄効率を重視して学資保険を選ぶ場合は、各保険会社のホームページやパンフレットに記載されている返戻率を確認しましょう。


学資保険の返戻率を高める5つの方法
ひとつの保険会社でも、次の5つを意識することで学資保険の返戻率は変動します。
学資保険の返戻率を高める5つの方法
1. 早めに加入する
学資保険の返戻率を高めるためには、契約者や子供の年齢がなるべく低いうちに加入することが大切です。
学資保険には、契約者に万一のことがあった場合、以降の保険料負担が免除される「保険料払込免除特約(特則)」が付いています。
保険料が免除された後でも契約は続き、お祝い金や満期保険金を受け取ることができます。
一般的な保険料払込免除の条件は死亡・高度障害ですが、商品によっては三大疾病の治療も条件に入っている場合があります。
そういった商品は、年齢が高くなると保険料払込免除特約の保険料も高くなり、結果として返戻率が低くなります。
子供が生まれる140日前から契約できるタイプの学資保険もあるので、そういった商品を検討しても良いでしょう。
2. 保険料の払込期間を短くする
学資保険の保険料には、大きく分けると3つの支払い方法があります。
学資保険の支払い方法
- 全期払い:保険金が支払われるまでの期間、保険料を払い込む方法。
- 短期払い:10年や15年など短期間で保険料を支払う方法。
- 一時払い(一括払い):保険料の全額を一括でまとめて払い込む方法
保険料の払込期間を短くすることで、毎月の保険料負担は大きくなりますが、学資保険の返戻率を高めることができます。
逆に、毎月の保険料負担を減らすために全期払いなどで支払うと、学資保険の返戻率が下がる要因になります。
学資保険の保険料は可能な限りまとめて払い込んだほうが、将来的に払い戻される金額が大きくなるので、家計の状況と相談しながら支払い方法を検討してみてください。
3. 満期保険金や祝い金の受け取り時期を遅らせる
学資保険の返戻率は、満期保険金やお祝い金の受け取り時期を遅らせることでも高められます。
一般的な学資保険は、一定期間ごとに支払われるお祝い金タイプより、一括で支払われる満期保険金タイプのほうが返戻率は高めです。
たとえば、学資保険に加入する目的が「子供の大学費用に備えるため」とするなら、子供の年齢が17歳や18歳になるまでお祝い金をなしにしたほうが返戻率は高くなります。
しかし、遅くすることで大学入学時に受け取れないケースも発生してしまうため注意が必要です。
4. 不要な保障を付けない
学資保険は教育資金を積み立てるだけでなく、入院給付金がもらえる医療保障や、万が一の場合に教育年金を受け取れる特約などがあります。
保障を付けると保険料が高くなりますが、受け取れる満期保険金が多くなるわけではないので、その分返戻率が低くなります。
返戻率を重視するなら、自分にとって不要な保障を付けすぎないのがポイントです。
5. 返戻率の高い保険商品に加入する
学資保険の返戻率は、保険商品や保障内容によっても大きく異なります。
特に、返戻率を下げる要因として、学資保険に付帯可能な特約が挙げられます。
たとえば、契約者に万一のことがあった場合に保険料の払込が免除される「保険料払込免除特約」や、子供に万一のことがあった場合の「医療特約」などがあります。
なるべくシンプルな保障内容に絞って、返戻率の高い保険商品に加入することを意識しましょう。
学資保険の返戻率の推移
学資保険の返戻率は、特約を付帯しなければ100%を上回る商品も多いですが、近年では返戻率が低下傾向にあります。
その理由は、学資保険の返戻率は保険会社の「予定利率」と結びついているためです。
- 「予定利率」とは?
- 保険会社が顧客から受け取った保険料を運用する際に約束する「運用利回り」のこと。
たとえば、下記は、とある保険会社の責任準備金残高(契約年度別)を表した一覧表ですが、1995年度以前に比べて直近の予定利率は大きく下がっていることがわかります。
※1. 責任準備金残高は、個人保険及び個人年金保険の責任準備金(危機準備金を除く)を記載しています。なお、団体保険・団体年金保険の取り扱いはありません。
2. 予定利率については、各契約年度別の責任準備金に係る主な予定利率を記載しています。参照:統合報告書2023 データ編|アフラック
学資保険を販売する保険会社は、主に債権投資などの比較的リスクの少ない運用方法を選択しています。
しかし、昨今の日本の低金利の影響を受けて予定利率が下がっているため、結果として学資保険の返戻率が低下傾向にある要因となっているのです。
なお、保険会社は株式市場や不動産など他の投資先にも投資しているため、学資保険の返戻率が予定利率に100%連動するわけではないことも覚えておきましょう。
返戻率以外の学資保険の選び方2つのポイント
返戻率が高ければその分、教育資金に充てられます。
ただ、返戻率は確かに大切な要素ではありますが、それ以外の項目もチェックすることが大切です。
満期の時期
学資保険は加入時に満期を設定できます。
満期の時期を遅くすれば返戻率は高くなりますが、資金が必要になる時に合わせて設定することも大切です。
例えば、子供の教育で最もお金がかかると言われているのが、大学入学から卒業にかけての期間です。
子供が大学生になる前にお金を準備しておきたいのに、満期の時期を22歳にしていると資金を準備できません。
そのため、いつお金が必要かを考えて、満期の時期を設定しましょう。
満期保険金の金額
適切な満期保険金を設定していなければ、必要な費用を準備できないことになりかねません。
大学進学のために学資保険に加入するのであれば、そのために必要な満期保険金を設定すべきです。
例えば、私立大学入学の初年度に必要な費用は100万円以上です。
以下の表に大学別に必要な費用の詳細をまとめました。
私立大学 | 私立短期大学 | 私立高等専門学校 | |
---|---|---|---|
入学料 | 959,205円 | 729,069円 |
781,365円 |
授業料 | 240,806円 |
237,122円 |
245,176円 |
施設設備費 | 165,271円 |
163,836円 |
102,824円 |
実験実習費 | 28,864円 |
40,229円 |
20,329円 |
その他 | 83,194円 |
101,732円 |
130,871円 |
合計 | 1,477,339円 |
1,271,988円 |
1,280,565円 |
参照:私立大学等の令和5年度入学者に係る学生納付金等調査結果について|文部科学省
これに加え通学費や生活費などもかかるため、家庭の状況と合わせて満期保険金を設定することが大切です。
学資保険以外で子供の教育資金を準備する3つの方法
学資保険の返戻率が落ちていることを踏まえると、学資保険以外の方法で子供の教育資金を準備することも視野に入れておく必要があります。
ここでは、学資保険以外で子供の教育資金を準備する3つの方法を紹介します。
学資保険以外で子供の教育資金を準備する3つの方法
1. NISA
2024年以降から従来のつみたてNISAや一般NISA制度が見直され、まったく異なる「新NISA制度」が始まりました。
新NISAでは、従来の一般NISAとつみたてNISAの実質的な併用が可能となり、年間投資枠が最大360万円にまで増額されてます。
さらに、最大1,800万円までの新規投資が無期限で非課税となるため、これまで以上に効率よく資産運用ができるようになりました。
詳しくは以下の関連記事をご覧ください。
2. 低解約返戻金型終身保険
低解約返戻金型終身保険は、一生涯の死亡保障を備えられる終身保険の一種です。
終身保険を途中解約すると「解約返戻金」としてお金が払い戻される仕組みとなっています。
低解約返戻金型終身保険は、保険料の払込期間中は解約返戻金が低めに設定される代わりに、毎月の保険料負担が通常の終身保険よりも割安なことが特徴です。
また、保険料の払込期間が満了すると、それ以降は従来の終身保険と同水準の解約返戻金となります。
たとえば、子供の大学費用を補填するのが目的なら、子供が17歳や18歳に達する時期に合わせて払込期間の満了時期を設定することで、教育資金を準備できるでしょう。
ただし、長期保障を前提とする保険商品であるため、物価上昇などのインフレリスクがある点には注意が必要です。
3. 定期預金
定期預金とは、あらかじめ指定した期間中は継続して、お金を預け入れる銀行預金のことを指します。
原則として、定期預金は指定した期間を経過するまで預金を引き出すことができないため、子供用の貯金口座を作って毎月振り込むことで、半強制的にお金を貯められます。
また、定期預金には元本割れのリスクがないため、着実に子供の教育資金を貯金できる点がメリットです。
一方、金利が低めに設定されているため、運用効率自体は高いわけではありません。
効率の良い資産形成を考えているなら、定期預金を併用しながら上述の「つみたてNISA」を活用するのがおすすめです。
学資保険の返戻率に関するよくある質問 Q&A
学資保険の返戻率に関するよくある質問 Q&A
Q. 学資保険は途中で解約してもいいですか?
A. 基本的に途中解約はおすすめしません。
保険料支払期間中や途中で解約すると、支払った保険料よりも受け取る解約返戻金が少なくなる、元本割れのリスクがあるためです。
ただし、何らかの事情で解約せざるを得ない場合は、一度保険会社へ解約返戻金について問い合わせをしてみましょう。
Q. 返戻率105%とはどういう意味ですか?
A. 返戻率105%とは、支払った保険料に対して受け取れる保険金の額が5%増えることを指します。
例えば、保険料として100万円支払った場合、返戻率が105%だと「100万円 +(100万円 × 5% = 5万円)= 105万円」を受け取れます。
まとめ

- 諏澤 吉彦
- 京都産業大学教授
子供の教育資金準備について、他の選択肢も含めて比較するとどうでしょうか。大学進学はおおよその時期がわかるため、それに向けて計画的に貯蓄する積立定期預金でも対処可能であるのは記事のとおりです。ただ、現在のような物価上昇が続くのであれば、資金の必要時期はわかっても、その金額は不確実と言わざるを得ません。この点において、学資保険と積立定期預金は万全とは言えないでしょう。
一方で、つみたてNISA、新NISAでは、株式や債券など多様な資産を投資対象としており、特に株価は長期的には物価と連動する傾向があるため、分散投資型ファンドの場合は物価上昇の影響は緩和されます。ただ、教育資金必要時(解約時)の株式市況によっては、予定の金額を得られないおそれがあることには留意が必要です。以上のことから、将来の教育費にはいくつかの方法を組み合わせて備えることが理想です。
学資保険の返戻率とは、「払い込んだ保険料に対して、保険会社から支払われるお祝い金や満期保険金がいくらになるか」を表した割合のことです。
返戻率が100%以上の学資保険に加入すれば、払い込んだ保険料以上の保険金が受け取れますが、逆に返戻率が100%を下回る学資保険に加入すると、元本割れを起こすことになってしまいます。
学資保険の返戻率を高めるためには、次の4つを意識しておく必要があります。
学資保険の返戻率を高める4つの方法
子供の将来を考えて学資保険を検討中の方は、これらのポイントを踏まえたうえで学資保険を比較するようにしてみてください。

