定年退職を迎えると、勤務先で加入していた健康保険は脱退となります。
退職後にどの健康保険制度に切り替えようか、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
健康保険制度の保険料や給付の内容、加入資格は、加入先によって異なります。
ですので、ご自身にとって好条件なものを選ぶ必要があります。
退職後に加入する健康保険の選択肢や特徴、注意点などを幅広く解説していきます。
この記事の目次
定年退職後の健康保険の加入先
日本は国民皆保険制度を採用しているため、年齢にかかわらず健康保険に加入しなければなりません。
会社員の方は「協会けんぽ」や「健康保険組合」といった健康保険に加入しています。
しかし、会社員の方が定年退職を迎えると、それまで勤務先で加入していた健康保険は終了します。
75歳を迎えて後期高齢者医療制度が始まるまでは、何かしらの方法で健康保険に加入し直す必要があるのです。
健康保険に加入しないと、病院や診療所などで医療行為を受けた際の医療費が全額自己負担となります。
また、ひと月(毎月1日〜月末)に自己負担した医療費が、個人ごとに決められた上限を超えた場合に、超過分を払い戻してもらえる「高額療養費制度」も利用できません。
定年退職後は、以下いずれかの中からひとつを選択して健康保険を継続する必要があります。
定年退職後の健康保険制度
上記のうち1〜3では定年前と同じ、あるいは似たような制度の健康保険に加入するため、「人間ドックの無料受診」のようなサービスを受けることができます。
また、健康保険組合によっては独自の「付加給付制度」を実施しており、ひと月の自己負担上限額がさらに低くなる場合があります。
高額療養費制度を適用した際の医療費の自己負担上限額は、月収(標準報酬月額)が28〜50万円の方の場合、ひと月あたり約9万円です。
付加給付が受けられると、ひと月あたりの自己負担上限額が2万円程度になるため、医療費の自己負担分が高額療養費制度を利用したときよりも緩和されます。
ただし、1〜3の方法で健康保険を継続しても、病気やケガで働けなくなった場合の所得保障制度である「傷病手当金」や、女性が出産の前後で利用できる所得保障制度「出産手当金」は、原則として受けられません。
1. 家族の健康保険の被扶養者になる
定年退職後に加入する健康保険として、最初に検討したいのが配偶者や子供の扶養に入ることです。
家族の健康保険の被扶養者になる場合のメリット
- 保険料を負担する必要がない
- 現役時代と同等の給付やサービスを受けられる
家族の健康保険の被扶養者になる場合のデメリット
- 収入制限があり扶養に入れないケースも多い
健康保険では、所定の条件を満たして被保険者(健康保険の給付を受けられる人)の被扶養者になると、保険料負担無しで健康保険に加入できます。
会社員が加入している健康保険の保険料は、平均月収(標準報酬月額)に一定の割合を掛けて計算されます。したがって、標準報酬月額が同じなら、独身者も既婚者も健康保険料は同じです。
被扶養者となれるのは、75歳未満の方で被保険者に生計が維持されている3親等以内の親族です。
離れて暮らしている人であっても、仕送りをされている方のように被保険者から生計を維持されている方であれば、被扶養者になれます。
被扶養者になれる条件は、加入先の健康保険によって異なります。
配偶者や子供が「協会けんぽ」に加入している場合、被扶養者となるには以下の条件を満たさなければなりません。
60歳以上の方が協会けんぽの被扶養者となれる条件
-
被保険者と同一世帯に属している場合:年収180万円未満かつ被保険者の収入の2分の1未満
※上記の条件を満たさなくても年収180万円未満で被保険者の収入を上回らない場合は被扶養者と認められる場合があります - 被保険者と同一世帯に属していない場合:年収180万円未満かつ収入が被保険者から援助(仕送り)される金額よりも少ない
なお、被扶養者の条件にある年収には、年金収入も含まれます。
そのため、年金収入が180万円を超えていると、配偶者や子供の扶養には入れません。
また、年収が180万円未満であっても、被保険者の収入や援助の金額の影響も受けるなど条件が厳しいため、被扶養者となれないケースは多いです。
一方で、配偶者や子供の扶養に入れると、ご自身分の保険料負担が必要なくなるだけでなく、会社員時代と変わらない健康保険の給付を受けられます。
ですので、まずは配偶者や子どもの扶養に入れないないか検討してみましょう。
2. 特例退職被保険者制度を活用する
特例退職被保険者制度は、主に大企業の健保組合の退職者向けに運営されている健康保険制度です。
特例退職被保険者制度に加入できると、75歳以上になり後期高齢者医療制度に加入するまで、会社員時代と同じ健康保険を継続できます。
特例退職被保険者制度を活用する場合のメリット
- 家族を扶養に入れられる
- 75歳まで継続できる
- 現役時代とほぼ同じ給付やサービスを受けられる
特例退職被保険者制度を活用する場合のデメリット
- 特例退職被保険者制度を利用できる健康保険組合は非常に少ない
特例退職被保険者制度に加入できる条件は、健康保険組合によって異なりますが、以下のように加入年数による条件を設けられている場合が多いです。
特例退職被保険者制度に加入できる条件の例
- 健康保険組合に20年以上加入している
- 老齢厚生年金の受給資格がある
特例退職被保険者制度の保険料は、加入先の健康保険組合によって異なりますが、全従業員の平均月収(標準報酬月額)に、所定の税率をかけて計算されるのが一般的です。
3. 健康保険任意継続制度を活用する
健康保険の任意継続制度とは、退職した後も健康保険に引き続き加入できる制度です。
任意継続によって健康保険に加入できる期間は、最長で退職してから2年間となります。
健康保険の任意継続制度を活用する場合のメリット
- 家族を扶養に入れられる
- 現役時代とほぼ同じ給付やサービスを受けられる
- 75歳まで継続できる
健康保険の任意継続制度を活用する場合のデメリット
- 退職から最長2年しか加入できない
- 特例退職被保険者制度よりも保険料が高額になる場合がある
任意継続制度を利用するには、勤続期間が退職日までの2ヶ月以上であることが条件です。
また、任意継続を希望する場合は、退職から20日以内に手続きをしなければなりません。
任意継続した場合の保険料は、退職前の2倍程度に増えます。
健康保険料は被保険者と事業主で折半して支払うため、会社員時代に支払っていた保険料は本来の2分の1です。
任意継続をすると、事業主が折半してくれていた分も全て自分で払う必要があるため、保険料は退職前の約2倍に増えるのです。
ただし、任意継続制度の保険料には上限が設けられているのが一般的です。協会けんぽの場合「退職時の平均月収(標準報酬月額)」と「30万円」のいずれか低い方の金額に料率をかけた金額が保険料の上限となります。
任意継続制度と特例退職被保険者制度の主な違いは、保険料の計算方法と加入できる期間です。
任意継続制度の保険料は、ご自身だけの平均収入で決まります。定年退職者への収入が高額だった場合、全被保険者の平均収入で保険料が決まる特例退職被保険者制度よりも、保険料が高額になる場合があるのです。
また、任意継続制度はどこで健康保険に加入しても最長で2年しか継続できません。一方で、特例退職被保険者制度は、再就職などの理由で脱退しない限り最長で75歳まで継続できます。
4. 国民健康保険に加入する
国民健康保険とは、自営業者やフリーランスなどが加入する健康保険で、市町村と自治体が共同で運営しています。
家族の扶養に入れない方や、特例退職被保険者制度または任意継続制度を利用できない方は、国民健康保険に加入することになります。
国民健康保険のメリット
- 加入に制限がない
- 独身かつ収入が年金のみの場合、保険料負担が低くなる場合がある
国民健康保険のデメリット
- 家族がいると保険料が高額になりやすい
- 人間ドックの無償受診や付加給付は利用できない
定年退職によって加入資格を喪失してから、14日以内に手続きをしなければなりません。
また、国民健康保険の保険料は以下から構成されています。
国民健康保険の保険料
- 所得割:前年の所得に応じて負担する保険料
- 均等割:世帯内の加入者の人数によって保険料が加算される保険料
- 平等割:世帯単位で徴収される保険料
-
資産割:固定資産税などに応じて徴収される保険料
※所得割と均等割以外は、自治体によって有無が異なります
所得割の料率や均等割の金額は自治体によって大きく異なり、財政が不安定な自治体は保険料が割高となる傾向にあります。
また、国民健康保険には扶養の仕組みがないため、収入が一定以下の家族がいたとしても、世帯の人数分だけ保険料を負担しなければなりません。
反対に、独身で前年の収入が年金のみであった場合、他の健康保険よりも保険料が安く済む場合があります。
退職後の健康保険に関する注意点
退職後の健康保険の手続きについては、以下の3点に注意する必要があります。
退職後の健康保険の注意点
変更手続きは自分で行う必要がある
健康保険は退職後に自動で切り替わるわけではないため、ご自身で手続をしなければなりません。
手続きを放置していると、健康保険に未加入となってしまい、病院で治療を受けた際の医療費が全額自己負担となります。
国民健康保険に加入する場合は、退職して資格を喪失してから14日以内に、近くの市区町村役場の担当窓口で所定の手続きが必要です。
特例退職被保険者制度や任意継続制度も、退職から20日以内に手続きをしなければ加入できません。
また、任意継続制度の加入期間が2年経過した場合も、他の健康保険への切り替え手続きが必要です。
健康保険の切り替え期間は短いため、退職と同時に手続きができるように退職前に切り替え先の健康保険を決めておきましょう。
保険料が高額になる場合がある
国民健康保険に移行した場合、保険料は前年の所得から計算されます。
退職後の初年度の保険料は、現役時代の所得をもとに計算されるため高額になりやすいです。
特例退職被保険者制度は、被保険者全員の標準報酬月額で保険料が決まるため、収入が年金だけの場合、国民健康保険の方が保険料負担が低くなることがあります。
このように、健康保険制度によって保険料の決まり方が違うため、選択肢が複数ある場合、給付の内容も踏まえてご自身にとってもっとも有利なところに加入することが大切です。
保険料負担が増えても、付加給付制度や人間ドックの無料受診などを受ける価値があるのか、慎重に検討しましょう。
70歳以上の医療費の自己負担は収入によって異なる
医療費の自己負担が、70歳になると2割、75歳になると1割であると認識されている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、70歳以上の方でも現役並みの所得(年収が約370万円〜)がある場合は、医療費の自己負担が3割になります。
また、現役並みの所得がある人は、高額療養費制度の上限も以下のように変わるため、医療費の自己負担がご自身の想定よりも高額になる場合がある点に注意が必要です。
まとめ
最後に、定年退職後の健康保険について、要点の振り返りを行いましょう。
定年退職後に加入できる健康保険
- 配偶者や子供などの家族が被保険者である健康保険の被扶養者になると、保険料負担なしで健康保険に加入できるが、条件が厳しく該当しないケースも多い
- 特例退職被保険者制度に加入すると、定年退職する前とほぼ変わらない給付やサービスを利用できるが、制度を実施している健康保険組合は少ない
- 健康保険任意継続制度を選択すると、定年退職前とほぼ同じ給付やサービスを受けられるが、保険料が現役時代の約2倍になるだけでなく2年間しか加入できない
- 国民健康保険には誰でも加入できるが、扶養の仕組みがないため家族の人数が多いと保険料が高額になる
退職後の健康保険に関する注意点
- 健康保険は自動では切り替わらないため、期間内にご自身で手続きを済ませる必要がある
- 保険料の計算方法は健康保険によって異なり、高額になる場合がある
- 医療費は70〜74歳は2割負担、75歳以上は1割負担であるが、現役並みの所得(年収約370万円〜)がある場合は3割負担のままとなる
- 70歳以上で現役並みの所得がある人は、高額療養制度の自己負担上額も高くなる
もし、ご自身にとってどの健康保険制度への切り替えが有効なのか判断できない場合は、ファイナンシャルプランナーに相談するのも選択肢のひとつです。
ファイナンシャルプランナーに相談すると、ご自身にとって有利な選択肢を提案してくれるだけでなく、金融商品を活用した老後のプランニングも行ってくれます。安心した老後生活を送りたい方は、ぜひ無料相談をご活用ください。