再転相続とは?
再転相続とは、ある相続における3ヵ月の熟慮期間中に、相続人が承認または放棄をする前に死亡した場合に発生する相続のことです。
最初の相続(一次相続)が発生し、それに対する承認・放棄をするよりも前に相続人が死亡して二次相続が発生した場合、二次相続の相続人が一次相続の相続人にもなります。
たとえば、Aが死亡して相続が発生した場合、Aの子Bが相続人となるため、Aの相続が発生してから3ヵ月の熟慮期間中に遺産の承認(相続)または放棄のどちらかを決めなければなりません。
この熟慮期間中の承認・放棄をするよりも前に子Bが死亡した場合、Bの子C(Aから見たときの孫)が子Bの相続人となります。
この場合に再転相続となり、子Cは子Bの相続人になるのと同時にAの遺産における相続人にもなるのです。
再転相続を簡単に説明すると、祖父が寿命を迎えて亡くなった後に続けて親が病気などで死亡し、立て続けに相続が発生した場合などが再転相続に該当します。
再転相続の熟慮期間は認知から3ヵ月以内
再転相続人になると、一次相続と二次相続の2回分において承認(相続)または放棄のどちらの手続きを行うかを選ばなければなりません。
再転相続が発生した場合、一次相続の熟慮期間は二次相続の熟慮期間が終わるまでに延長されます。
相続財産には不動産や株式といったプラスの財産もあれば、借金や負債といったマイナスの財産も含まれるため、人によってはマイナスの財産を相続したくないという理由から「相続放棄」を選ぶ場合もあるでしょう。
しかし、相続放棄をするためには「相続が開始されたことを知った日」から起算して3ヵ月の熟慮期間内に相続放棄の申し立てを行わなければなりません。
つまり、一次相続の熟慮期間が延長されないと相続放棄の申立ができなくなり、有無を言わさず強制的に相続しなければならなくなってしまうのです。
そうした事態を防ぐため、民法第916条によって二次相続の開始があったことを知ったときから熟慮期間を起算すると定められています。
相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
第九百十五条 から引用
相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第一項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。
第九百十六条 から引用
再転相続の熟慮期間の起算日について
再転相続の熟慮期間の起算日については、以下の2パターンが挙げられます。
再転相続の熟慮期間の起算日について
- 相続が開始されたことを知ったとき
- 再転相続が開始されたことを知ったとき
これらは非常に似た内容に見えますが、厳密には大きな差があります。
たとえば、父Bが死亡して子Cが相続人となった場合、父Bの相続における熟慮期間を過ぎたあとで、実は祖父Aの相続における熟慮期間中に父Bが亡くなっていたことを知ったというケースが挙げられます。
このとき、熟慮期間の起算日が「相続が開始されたことを知ったとき=父の死亡を知ったとき」の場合、熟慮期間を過ぎたあとで祖父Aの再転相続を知っても相続放棄の申立ができないことになってしまいます。
これまでは上記のような考え方が一般的でしたが、2019年8月9日の最高裁判所による判決では「再転相続が開始されたことを知ったとき」から起算するべきとされています。
上記はあくまでひとつの判決結果なので、他の事例においても必ず同様の判決が出ることを保証するものではありません。
ですが、こうした判決が出たことで、万が一熟慮期間を過ぎたあとで再転相続に該当することを知っても、相続放棄の申立ができる可能性があるといえます。

- ナビナビ保険監修
- 税理士・公認会計士
- 滝 文謙


再転相続と代襲相続の違い
再転相続と似た内容の言葉として「代襲相続」があります。
代襲相続とは、祖父Aよりも先に父Bが死亡している場合に孫Cが祖父Aの遺産を父Bの代わりに相続する制度のことをいいます。
代襲相続は被相続人よりも先に相続人が死亡した場合の相続を指しますが、再転相続は被相続人の後に相続人が死亡した場合の相続を指すという点が異なります。
また、再転相続の場合は一次相続と二次相続2つ分の相続手続きを行う必要がありますが、代襲相続の場合は直近の相続における手続きだけを行います。
代襲相続人になれるのは相続人の子などで配偶者は含まれませんが、再転相続の場合は配偶者が再転相続人となるケースもあります。
再転相続と数次相続の違い
数次相続(すうじそうぞく)は、ある相続における承認を行ったものの、遺産分割協議や相続登記などの手続きが終わる前に相続人が死亡してしまった場合の相続のことです。
再転相続は「相続の承認をする前」に相続人が死亡した場合を指し、数次相続は「相続の承認後、手続きが終わる前」に相続人が死亡した場合の相続という違いがあります。
同時死亡の場合の扱い
被相続人と相続人が同時に死亡した場合、同時死亡した人同士での相続は発生しないものとされています。
再転相続は承認・放棄のどちらを選択するにしても相続自体は一度発生した後での手続きです。
そのため、相続そのものが発生しない同時死亡と扱われた場合には再転相続も発生しないことになります。
なお、被相続人と相続人が同時に事故に遭い、一方が即死、もう一方は一命を取り留めたものの搬送先の病気で死亡した、という場合には同時死亡とはならないため、再転相続が発生する可能性があります。
あくまで同時に死亡したものと扱われた場合に限り、再転相続は発生しないということなので覚えておきましょう。


再転相続と相続放棄の関係
再転相続が発生すると、二次相続の相続人が一次相続における承認または放棄のどちらを選択するかを決められます。
当然ながら二次相続における承認または放棄を選択することもできるので、実質的に二度の選択をすることになります。
ただし、二次相続を放棄した場合は一次相続における承認または放棄を選択することはできません。
たとえば、祖父A・父B・子Cの3人において再転相続が発生した場合を仮定すると、相続の承認または放棄の選択肢は以下の4パターンに分けられます。
祖父Aの財産 | 承認 | 承認 | 放棄 | 放棄 |
---|---|---|---|---|
父Bの財産 | 承認 | 放棄 | 承認 | 放棄 |
子Cの選択可否 | 選択可能 | 選択不可 | 選択可能 | 選択可能 |
上記のとおり、子Cは「祖父A・父Bの相続を承認」「祖父Aの相続を放棄、父Bの相続は承認」「祖父A・父Bの相続を放棄」の3つの選択肢から1つを選ぶことになります。
このとき、なぜ祖父Aの財産を承認して父Bの相続を放棄できないのかというと、祖父Aの財産を相続する権利はあくまで父Bの財産に含まれているためです。
相続放棄とは、一切の相続手続きに関与しないことを宣言するもので、父Bの相続を放棄することはすなわち「祖父Aの財産を相続する権利を含む父Bの財産を放棄すること」となります。
そのため、上記のケースでいえば父Bの相続放棄をすると祖父Aの相続においてはそもそも選択権がないということになるのです。
なお、相続放棄をするためには家庭裁判所に申し立てを行う必要がありますが、祖父A・父B双方の相続放棄を行う場合は祖父Aの相続放棄の手続きは不要で、父Bの相続放棄の手続きをするだけで問題ありません。


遺産分割協議中の再転相続
遺産相続が発生する際、遺言書などが用意されておらず相続人が複数いる場合は「遺産分割協議」を行わなければなりません。
遺産分割協議には相続人全員が参加して合意を得た上で、全員分の「遺産分割協議書」を作成する必要があります。
仮に遺産分割協議を行っている間に再転相続が発生した場合、一次相続と二次相続の相続人が全く同じ場合に限り、遺産分割協議を1つにまとめることが可能です。
たとえば、父A・母B・子C・子Dの4人家族で、父Aが死亡すると相続人は母B・子C・子Dの3人となります。
このとき、父Aの相続における熟慮期間中に母Bが死亡した場合、残された子供2人が相続人となり、父Aと母Bの両方の相続において相続人が全く同じ状況が生まれます。
本来であれば相続が発生するたびに遺産分割協議を行うことになりますが、上記のようなケースの場合は一度の遺産分割協議で両方の相続割合を決めて良いということになります。
ただし、相続人が1人でも違う場合には遺産分割協議をひとまとめにすることはできず、遺産分割協議書も人数分を作成しなければなりません。
不幸が重なり連続して相続が発生するような場合は、相続人が誰であるかを正確に把握しておく必要があるといえるでしょう。
登記の考え方
再転相続する財産の中に不動産が含まれている場合、2つの相続における相続人が全く同じ場合は一度の登記で相続手続きを終わらせることができます。
ただし、相続人が異なる場合には一次相続における登記を行った後、二次相続における登記を行うというように二度の登記手続きをすることになります。
なお、一次相続での不動産取得者が1人だけの場合、二次相続で対象の不動産を相続するのが2人以上だとしても初めの相続登記を省略できるという例外があります。
たとえば、祖父Aの所有する不動産を相続するのが父Bのみで、母がすでに他界していて相続人となる人が子Cと子Dの2人だけの場合、父Bへの登記手続きを省いて祖父Aの登記から直接CとDへの持分移転の相続登記ができるということです。
とはいえ、不動産を相続する場合にはさまざまな問題がつきものなので、基本的にはプロの専門家に相談した上で手続きを進めるのが望ましいといえます。


特別受益の考え方
特別受益とは、一部の相続人が被相続人の生前のうちに受けた特別な利益のことです。
特別受益があることを考慮せずに遺産分配を行うと、他の相続人から不公平に思われ、後々の相続トラブルへと発展する可能性が考えられます。
再転相続が発生すると、一次相続では本来の相続人ではなかった人が突然相続人として現れることになります。
このとき、再転相続人(または被再転相続人)が被相続人から特別な利益を受けていた場合、特別受益に該当するのでは?と考える人も多いかと思います。
たとえば、祖父Aが孫Cに対して留学費用の援助をしていた場合に再転相続が発生し、本来は相続人とならない孫Cが祖父Aの再転相続人となった場合などが該当します。
この場合、過去の判決を見る限りは「再転相続人が直接被相続人から利益を受けたかどうか」で判断されるケースが多いようです。
上記の「祖父Aが孫Cに留学費用の援助」をしていたケースを過去の判例に当てはめてみると、特別受益に該当するかどうかは以下のように分けられます。
被相続人から特別な利益を受けた人 ※祖父Aが生前贈与をした相手 |
再転相続人(孫C) ※孫Cがすでに自立していて自分でお金の管理をしている場合など |
被再転相続人(父B) ※孫Cが未成年などの理由で学業に関わるお金の管理を父Bがしている場合など |
---|---|---|
特別受益に該当するか否か | 特別受益に該当しない | 特別受益に該当する |
過去の判例 | 平成15年3月11日大阪高裁にて | 平成17年10月11日最高裁にて |
ただし、再転相続と特別受益に関しては、各相続でどのような目的を持った生前贈与が行われたかによって特別受益に該当するか否かが変わってきます。
上記はあくまでひとつの目安として、実際に再転相続と特別受益の問題に直面した場合には弁護士に相談するなど助力を仰ぐことをおすすめします。

- ナビナビ保険監修
- 税理士・公認会計士
- 滝 文謙


まとめ
再転相続とは、ある相続における3ヵ月の熟慮期間中に、相続人が承認または放棄をする前に死亡した場合に発生する相続のことです。
簡単に説明すると、被相続人の相続から立て続けに相続が発生した場合などのことを指し、再転相続に該当した場合は一次相続と二次相続のそれぞれにおいて、承認または放棄のどちらかを選ぶことになります。
再転相続が発生すると、基本的に2回分の相続についての判断をすることになるので、熟慮期間を過ぎてしまわないように気をつけましょう。