医療保険は大きく分けると、国が運営する「公的医療保険」と民間企業が運営する「民間医療保険」の2つに分類されます。
基本的には誰もが公的医療保険に加入しているため、保険証を提示すれば誰もが1〜3割の医療費を負担するだけで高度な医療が受けられます。
一方、公的医療保険でカバーできない医療費も存在するため、その分を保障するために民間医療保険が活用されています。
この記事では、公的医療保険と民間医療保険の違いに触れた上で、それぞれの医療保険の種類について解説します。
この記事でわかること
公的医療保険と民間医療保険の違い
ここでは、加入が義務である公的医療保険と、任意加入の民間医療保険の違いを簡単に解説します。
公的医療保険と民間医療保険は、どちらも加入者が保険料を負担し、保障が必要なタイミングで給付を行うという点は共通しています。
一方、公的医療保険は病気やケガで医療機関を受診する際の医療費を保障するのに対し、民間医療保険は入院や手術など、支払事由に該当した場合に保障が受けられる点で異なります。
また、公的医療保険は国民の病気やケガ全般を保障対象としていますが、民間医療保険では特定の保障範囲に特化した様々な保険商品が販売されています。
たとえば、がんに特化した「がん保険」、日本人の罹患率が高いがん・心筋梗塞・脳血管疾患を保障する「三大疾病保険」、女性特有の疾病を保障する「女性保険」などが挙げられます。
公的医療保険
公的医療保険は、国が運営する医療保険制度で、国民全員に加入を義務付けていることから「国民皆保険」とも呼ばれています。
国民全員で少額の保険料を負担し合い、保障が必要な方を支え合う「相互扶助」の精神で成立していることが特徴です。
そのため、医療機関を受診する際に保険証を提示することで公的医療保険が適用され、日本国内の場所を問わず、医療費の1〜3割を負担するだけで高度な医療を受けられます。
自己負担額は年齢や収入状況に応じて変動し、原則として6歳未満と70〜74歳の方は2割負担、75歳以上の方は1割負担、それ以外の全国民は3割負担と決められています。
また、ひと月の医療費負担が限度額を超過した場合の「高額療養費制度」、子どもを出産した世帯への「出産育児一時金」、75歳以上を対象とした「後期高齢者医療制度」など、様々な給付も行っています。
民間医療保険
民間医療保険は、公的医療保険ではカバーできない医療費を保障することを目的とした保険商品です。
たとえば、公的医療保険でカバーできない費用として、次のような費用が挙げられます。
公的医療保険でカバーできない費用の一例
- 自由診療
- 先進医療
- 差額ベッド代
- 入院時の食費
- 入院時の収入減少
- 通院費用 など
上記に加え、公的医療保険が適用される医療費については1〜3割の負担で済みますが、病気やケガの治療が長期化すると医療費も積み重なり、自己負担が大きくなってしまいます。
また、自由診療や先進医療などは公的医療保険が適用されないため、高額な手術費用の全額を自己負担で賄わなければなりません。
民間医療保険では保険金の支払事由に該当した場合に給付金が受け取れるので、高額な医療費が発生した場合でも安心して治療に専念できることが特徴です。


公的医療保険の種類
国が運営する公的医療保険は、次の4種類に分類されます。
いずれの公的医療保険も基本的な保障内容は同じですが、それぞれで加入対象者が異なります。
手当金の有無といった違いもあるので、それぞれの保険制度の特徴について解説していきます。
国民健康保険
国民健康保険は、自営業者やフリーランス、農業従事者など、企業に属していない方が加入する公的医療保険の名称です。
健康保険加入者に扶養されている専業主婦や学生、無職の方など、健康保険や共済組合、船員保険などに加入していない全ての方が加入しています。
国民健康保険料はお住いの都道府県や市区町村で異なる保険料率を用いて、前年度の所得金額や世帯人数などをもとに計算されます。
保険料は医療分・介護分・後期高齢者支援金分の合計額で、その計算内容は非常に複雑です。
毎年6月頃に送付される納付書、またはお住いの地域を管轄する市区町村役場の窓口で確認できるので、気になる方はそちらでご確認ください。
なお、基本的な保障内容は他の保険制度と同様ですが、健康保険で支給される「出産手当金」や「傷病手当金」などの給付金が用意されていません。
自営業者やフリーランスの方は会社員の方に比べて公的保障が手薄な状態にあるので、民間医療保険に加入して万が一の事態に備えておく必要性は高いといえます。
健康保険
健康保険は、会社員や公務員などの企業に属する方が加入する公的医療保険の名称です。
また、会社員や公務員など、健康保険の加入者に扶養されている方(家族、両親など)も同じ健康保険に加入できます。
健康保険の保険料は「標準報酬月額×都道府県ごとの保険料率」で計算され、毎月の給与から天引きされる形で納めます。
健康保険の保険料
- 毎月の保険料額:標準報酬月額×都道府県ごとの保険料率
- 賞与からの保険料額:賞与報酬額×都道府県ごとの保険料率
扶養家族として健康保険に加入する場合、扶養家族分の保険料については納付義務がないため、扶養される方が何人いても健康保険の加入者が納める保険料は変わりません。
基本的な保障内容は国民健康保険と同様ですが、健康保険だけの特徴として加入者の出産時に支給される「出産手当金」や、病気やケガで働けない場合の収入減少を保障する「傷病手当金」の存在が挙げられます。
それ以外にも、被保険者や被扶養者の健康づくりをサポートするため、各種検診の実施や検診結果等の提供などが行われています。
これらの理由で、自営業者やフリーランスの方よりも、サラリーマンや公務員のほうが公的保障の内容は手厚くなっていることが特徴です。
なお、健康保険の加入者が退職する場合、健康保険の任意継続制度(最長2年間)を利用するか、国民健康保険への切り替えを行う必要があります。
特に、会社を退職して直ぐに転職をする方は、離職期間(=公的医療保険の空白期間)が1日でも発生する場合、国民健康保険へ切り替える必要があるので気をつけましょう。
共済組合
共済組合は、公務員や教職員などを対象とした社会保険組合の名称です。
共済組合では、組合員とその家族の生活の安定と福祉向上の達成を目的として、次の3種類の事業を行っています。
共済組合の事業内容
- 短期給付事業:病気・ケガ・死亡または災害などに対しての給付
- 長期給付事業:年金の給付
- 福祉事業:保健事業(人間ドック、各種検診など)、貯金事業、貸付事業、財形事業など
基本的な保障内容は健康保険と同様で、出産時の「出産手当金」や、病気やケガで働けない期間に支給される「傷病手当金」なども受け取れることが特徴です。
船員保険
船員保険は、船員法第1条に規定される「船員」として船舶所有者に使用される方を対象とした公的医療保険制度の名称です。
基本的な保障内容は健康保険と同様ですが、海上という特殊な職場で勤務するため、「行方不明手当金」や「下船後3月の療養補償」といった特別な給付も行っています。
民間医療保険の種類
民間医療保険には様々な保険商品が登場していますが、大きく分けると「定期型」と「終身型」の2種類があります。
定期型保険は、毎月の保険料負担が割安ながら大きな保障を備えられる医療保険のことを指します。
一定期間で保障がなくなってしまいますが、そのタイミングで保障内容の見直しがしやすかったり、契約を更新することで同一の保障内容を継続したりすることも可能です。
一方の終身型の医療保険は、契約時の保険料のまま一生涯の保障を備えられることが最大の特徴です。
また、解約時にはそれまでに払い込んだ保険料が解約返戻金として返還されるタイプも多いため、貯蓄性のある保険として人気を博しています。
定期型医療保険と終身型医療保険には一長一短の特徴があるため、これらの違いを理解した上で自分に合った医療保険を選ぶことが大切です。
ここでは、民間医療保険の中でも代表的な保険種類の特徴を解説します。
代表的な医療保険の種類
女性保険
女性保険は、女性特有の疾病に特化した民間医療保険のことです。
女性特有の疾病の一例
- 乳がん
- 子宮頸がん
- 卵巣がん
- 子宮筋腫
- 卵巣のう腫
- 子宮内膜症 など
通常の医療保険でもこれらの疾病に対して療養の給付は行われますが、女性保険に加入していれば、入院や手術となった際に上乗せで給付金が受け取れます。
公的医療保険では保障されない医療費(差額ベッド代や入院中の食費など)もカバーできるため、金銭面の不安を払拭した上で治療に専念できることが特徴です。
通常の医療保険に「女性疾病特約」として付帯できる場合もあるので、すでに加入中の医療保険がある場合は保険会社の窓口や担当者まで確認してみましょう。
引受基準緩和型・無選択型保険
引受基準緩和型保険は、通常の医療保険に比べて加入時の引受基準が緩和されている医療保険のことです。
一方の無選択型保険は、健康状態の告知や医師の診査などが不要の医療保険で、引受基準緩和型保険よりも加入しやすくなっています。
一般的な民間医療保険では、加入者全員の保険料負担の公平性を保つため、加入する際に健康状態の告知義務が課せられます。
そのため、持病や既往症の有無によって保険料が値上げされてしまったり、場合によっては保険加入を断られてしまったりするケースがあります。
ですが、引受基準緩和型保険や無選択型保険であれば、たとえ持病がある方でも万が一のときの医療保障を備えられます。
ただし、一般的な医療保険に比べて保険料負担が大きい点には注意が必要です。
貯蓄性のある医療保険
貯蓄性のある医療保険は、払い込んだ保険料が保険会社に積み立てられていくタイプの医療保険の総称です。
通常の医療保障に加えて、解約時に受け取れる「解約返戻金」や満期を迎えた際の「満期保険金」など、将来を見据えた資産形成にも同時に取り組めることが特徴です。
保険会社に貯金していくイメージで保険料が無駄になりづらいことがメリットですが、一方で掛け捨て型の医療保険に比べて毎月の保険料負担が大きいことがデメリットといえます。
また、短期解約で元本割れの可能性も高くなってしまうので、長期加入を前提とした保険商品であることを理解した上で加入を検討するようにしてください。
まとめ
医療保険には、国が運営する「公的医療保険」と、民間企業が運営する「民間医療保険」の2種類があります。
日本では国民皆保険制度が導入されているため、誰もが保険証を提示することで、場所を問わず医療費の1〜3割を負担するだけで高度な医療を受けられます。
ただし、差額ベッド代や入院中の食費、入院時の収入減少に加え、先進医療や自由診療の医療費については公的医療保険が適用されません。
公的医療保険でカバーされない医療費を保障することを目的としているのが民間医療保険で、保険会社によって特定の保障範囲に特化して様々な保険商品が販売されています。
医療保険への加入を検討する際は、まずは公的医療保険の仕組みを理解し、国民健康保険や健康保険が適用されない医療費を保障してくれる民間医療保険を選ぶことを心がけましょう。

- 諏澤 吉彦
- 京都産業大学教授

