相続税額の計算は財産内容・家族構成によって異なり、複数のステップを経て算出されるため非常に複雑な内容です。
遺産分割協議の内容によっては納める税額も変化するので、遺族の税負担を軽減するという観点では、相続税の計算方法の全体像を知っておく事は非常に有意義なことです。
この記事では相続税の計算方法を説明するとともに、過剰な相続税を払わないために税負担軽減のポイントをわかりやすく解説します。
なお、相続税の申告と納付の期限は相続を知った日(一般的には故人の死亡日)から10ヵ月となっています。
十分な時間があると思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、意外とすぐに時間が過ぎてしまうというのが相続手続きを経験された方々が口をそろえて仰る感想です。
計算のポイントをおさえて無理なく申告できるようにしましょう。
この記事の目次
相続税の計算方法
相続税の計算の大まかな流れは次の通りです。
1から順番に詳しく説明していきます。
1. 課税対象となる遺産の価格を求める
課税対象となる資産の価格は以下の「プラスするもの」から「マイナスするもの」を引いた金額となります。
プラスするもの
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本来の相続財産・・・・・例えば個人の預金や土地
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みなし相続財産・・・・・例えば死亡保険金、死亡退職金
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3年内の生前贈与財産
- 相続時精算課税制度を使った生前贈与財産
マイナスするもの
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非課税枠・・・・・例えば生命保険の非課税限度額
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非課税財産・・・・例えば仏壇など
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債務・・・・・・・例えば住宅ローン
- 葬式費用
「本来の相続財産」とは、相続人で分割協議をするような故人が所有している一般的な財産のことです。
例えば、現金や預金、土地、建物、株式、貸付金、山林、宝石、貴金属、書画骨董など様々です。
少し分かりにくいものとして借地権や著作権などの権利や、故人が持っていた入金される権利があるもの(未収入金や配当期待権などの債権)、子供や孫の名義で作ったが実質は故人のものといえる預金などがありますが、基本的には財産として価値のあるものを指します。
「みなし相続財産」とは、本当は相続財産ではないのですが似た性質のものであるため、相続税の計算上含める財産のことをいいます。
例えば、故人が保険料を払っていた生命保険の死亡保険金は保険受取人が元々受け取ることができるものですが、死亡をきっかけに受け取るものなので「みなし相続財産」となります。
また、これに類似する代表的な例として死亡退職金があります。
「3年内の生前贈与財産」とは、死亡から3年前までの間に故人から生前贈与された財産です。
贈与税がかかっていたかどうかにかかわらず、相続税の対象となる人が生前贈与を受けていた場合は、この財産となります。
ただし、贈与税の配偶者控除の特例や住宅取得等資金などの非課税の特例を受けたものに関しては、この非課税額相当分は含まれません。
「相続時精算課税制度を使った生前贈与財産」とは、贈与財産が累計2,500万円まで非課税になる制度です。
この申告をされた方は、贈与税がかからない非課税枠がある代わりに、それ以降、贈与したすべての財産を相続税の対象となります。
「非課税枠」とは、遺族の生活を守るために死亡保険金や死亡退職金に対して一定の金額まで引くことができる枠のことをいいます。法定相続人の人数に応じて非課税額が計算されます。
「非課税財産」はお墓や仏壇などの宗教的なものや公益的なものです。
「債務」は故人が負っていた借金のことを言い、例えば、住宅ローンや死亡時点で納めていなかった税金やクレジットカードの未引き落とし残高、入院していた病院の未払分などがあります。
「葬式費用」はその言葉の通り、故人の葬儀を行った際の費用です。ただし、香典返しや墓地の購入費用、初七日法要の費用等、葬式費用に入れることができないものがあります。
以上で、プラスするものとマイナスするものが分かったと思いますが、ところで土地はいくらで集計すべきでしょうか。
財産 | 評価方法 |
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預貯金 | 死亡日の残高と解約するとしたら受け取れる利息相当分 |
土地 | 路線価又は固定資産税評価額をもとに、利用状況や法律上の規制などを加味して計算(場合によっては専門家への依頼が必要) |
建物 | 固定資産税評価額に、建物の利用状況に応じて評価 |
上場株式 | 死亡日時点の株価のほか一定の期間の平均株価から最も低いものを選択して計算 |
非上場株式 | 会社の財務状況・類似業種の株価・株主構成などから計算(専門家への依頼をお勧めします。) |
現金は簡単に金額が出ますが、土地のように簡単に金額が出ない財産もあります。
そういったものは国税庁の財産評価基準通達というものに基づいて財産を評価する事が必要になります。
財産の評価にも特例(小規模宅地等の特例)があります。
相続税のために生活している家を売ったり、事業用の土地を売ったりするという事が起きないようにするためのものであり、減額される割合は50%~80%です。
この特例も適用するには非常に複雑な要件がありますが、該当する土地は「被相続人又は被相続人と生計を一にしていた親族の事業の用、又は居住の用に供されていた宅地等で一定のもの」です。
故人や故人と生計が同じ親族が利用していた建物の敷地で、生活用や事業用の建物の下の土地のイメージです。
この特例は一定の面積まで使えるので、適用できる土地が複数ある場合は、減額される額が大きくなるように適用可能です。
ただし、特例を受ける土地について遺産分割が確定しており、また要件を満たしている必要があるので注意が必要です。(未分割の状態でも、3年内の分割見込書を相続税の申告書に添付し、実際に3年内に分割された時は、特例の対象となります。)
2.課税される遺産の総額を求める
課税対象となる遺産の価格は出ましたが、そのまま税率をかけて税金を算出するという流れにはなりません。基礎控除を引くことができます。
計算式は以下の通りです。
課税遺産総額=課税価格の合計額 − 基礎控除額
- 基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人人数
なお被相続人に養子がいる場合、法定相続人の数に含める養子の数は、実子がいるときは1人(実子がいないときは2人)までとなります。
また法定相続人の人数は相続放棄がなかったものとした場合の人数です。
3. 納付税額の総額を計算する
次に納付税額の総額の計算です。
式で表すと次の通りですが、非常に複雑ですので具体例を交えて解説します。
納付税額の計算方法
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納付税額の総額 = 相続税の総額の元となる税額の合計額
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相続税の総額の元となる税額 = 法定相続分に応ずる取得金額 × 税率 − 控除額
- 法定相続分に応ずる所得金額 = 課税遺産総額 × 法定相続分
具体例
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配偶者1人子供2人の場合
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配偶者の法定相続分は1/2
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子供一人当たりの法定相続分は1/4
- 課税遺産総額4,000万円
配偶者の分
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相続税の総額の元となる税額(250万円)= 法定相続分に応ずる取得金額(2,000万円)× 15% − 50万円
- 法定相続分に応ずる取得金額(2,000万円)= 課税遺産総額(4,000万円)× 法定相続分(1/ 2)
子供A(子供B)の分
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相続税の総額の元となる税額(100万円)= 法定相続分にも応ずる取得金額(1,000万円)× 10%
- 法定相続分にも応ずる取得金額(1,000万円)= 課税遺産総額(4,000万円)× 法定相続分(1/4)
納付税額の総額
- 納付税額の総額(450万円)= 配偶者の分(250万円)+ 子供Aの分(100万円)+ 子供Bの分(100万円)
4. 相続人ごとの納付税額を計算する
最後に相続人ごとの納付税額を計算します。式は以下の通りですが、こちらも少し難しいので具体例を交えて解説いたします。
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相続人ごとの納付税額=その者の相続税額(注)− 税額控除
- その者の相続税額=納付税額の総額×その者の課税価格/課税価格の合計額
注意点としては、相続、遺贈、相続時精算課税で財産を取得した人が、亡くなられた方の一親等の血族(代襲相続人となった孫を含む)や配偶者以外の人である場合(例えば亡くなられた方の兄弟姉妹や代襲相続人でない孫など)、この式の「その者の相続税額」は(「その者の相続税額」×1.2)となります。
また、仮に代襲相続人でない孫が養子となり、1親等の血族となっても、同じ様に2割増しとなりますので、注意が必要です。
具体例
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納付税額の総額:450万円
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配偶者が相続した財産:3,000万円
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配偶者が使える税額控除:225万円
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子供Aが相続した財産:700万円
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子供Aが使える税額控除:10万円
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子供Bが相続した財産:300万円
- 配偶者、子供A、子供Bの相続した財産の合計:4,000万円
配偶者の納税額
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配偶者の納付税額(112.5万円)=配偶者の相続税額(337.5万円)-税額控除(225万円)
- 配偶者の相続税額(337.5万円)=納付税額の総額(450万円)×その者の課税価格(3,000万円)/課税価格の合計額(4,000万円)
子供Aの納税額
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子供Aの納付税額(68.75万円)=子供Aの相続税額(78.75万円)-税額控除(10万円)
- 子供Aの相続税額(78.75万円)=納付税額の総額(450万円)×その者の課税価格(700万円)/課税価格の合計額(4,000万円)
子供Bの納税額
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子供Bの納付税額(33.75万円)=子供Bの相続税額(33.75万円)-税額控除(0円)
- 子供Bの相続税額(33.75万円)=納付税額の総額(450万円)×その者の課税価格(300万円)/課税価格の合計額(4,000万円)
相続税の税負担を軽減する方法
相続税の税負担を軽減する方法は以下の通りです。
税額控除を活用する
相続税には、相続する人の状況に応じて税額控除制度があります。
例えば、亡くなられた方の配偶者には多額の相続税で生活の負担とならないために、非常に大きな金額の税額控除である「配偶者の税額軽減」という税額控除が設けられています。
この控除は配偶者の法定相続分、または1億6千万円のどちらか多い金額までの相続財産で、配偶者が取得したものの税額分は控除されます。
注意点として、この控除は配偶者が遺産分割などで実際に取得した財産の相続税相当に限られるので、遺産分割が整わず未分割の場合や、配偶者が財産を取得しないような分割をするとこの控除は適用されません。
相続税の期限内申告の時点で未分割の状態でも、3年内の分割見込書を相続税の申告書に添付し、実際に3年内に分割された時は、税額軽減の対象となります。
その他にも、未成年者や障害者のための控除や、相続が10年内に連続した際の控除、外国の税額と二重課税にならないための控除など、いくつかの控除が存在しています。
生命保険の非課税枠を活用する
生命保険の死亡保険金を法定相続人が受け取ると非課税枠がありますので、その分税負担は軽減されます。
非課税枠の金額は500万円×法定相続人の人数です。
なお、この法定相続人の人数は基礎控除に使う法定相続人と同じです。
また、この非課税枠は死亡保険金を受け取った方が法定相続人である場合に限られます。
養子縁組を行い、法定相続人を増やす
基礎控除は法定相続人の人数が増えるほど増えます。
よって、子供の配偶者や孫が養子となると基礎控除の金額は増え、結果、税負担は減るという事が言えます。
ただし、相続税の計算上はたくさん養子がいても実子がいる場合は1人、いない場合は2人が上限となります。その一方で、次のような養子は実子としてカウントします。
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特別養子縁組による養子
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被相続人の配偶者の実子(いわゆる連れ子)でその被相続人の養子となった者
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被相続人とその被相続人の配偶者との婚姻前に、その被相続人の配偶者の特別養子となった者で、その婚姻後にその被相続人の養子となった者
- 実子、養子又はその直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失ったため、(代襲相続により)法定相続人となったその者の直系卑属
生前贈与により相続財産を減らす
相続税は相続により財産を取得した場合にかかる税金です。
ですので、生前贈与で相続する財産を減らしておくと相続税の税負担は減ります。
なお、死亡前3年内の贈与は相続税の対象となりますが、それより前の贈与は相続税の対象となりませんので長期間、少しずつ贈与すると生前贈与で相続財産を減らすことができます。
また、相続税の対象となる財産を取得しなかった人物(例えば、相続の時に遺産や生命保険等を受け取っていない孫)だと、3年内の贈与でも相続税の対象となりません。
注意点としては、贈与も年間110万円を超えると贈与税がかかってきます。
また、法律の改正によっては変わることも想定されますので、実際に行われる際はその点を注意された方が良いでしょう。
まとめ
相続税の計算は、まず、プラスとなる財産とマイナスとなる財産や債務を洗い出します。
そして、その差額である課税価格の合計から基礎控除をひき、課税遺産総額を出します。
次に、この課税遺産総額と法定相続人の人数を元に、相続税の税額の総額が決まります。
そこから、取得した遺産額をもとに各個人の相続税を算出します。
更にそこから税額控除を引く事で、各個人の納税額が計算されます。
税負担軽減のポイントは、相続税の非課税枠と税額控除や小規模宅地の特例などといった制度を漏らす事なく利用する事です。
これらの中には遺産分割の仕方に影響を受けるものがありますので、相続税額も意識した遺産分割ができると税負担はより減少する場合があります。