相続税の計算は、単純に相続財産の金額に税率をかけるだけではありません。
相続税には基礎控除があり、この金額分は相続財産から引くことが可能です。
また、そもそも「自分が相続税の納税義務があるかどうか?」を判断するためにもこの基礎控除を利用することは非常に重要です。
この記事では相続税の基礎控除について自分で計算できるように具体例も交えて、わかりやすく解説していきます。


相続税の基礎控除とは?
相続税の基礎控除とは、相続財産がほとんど無いような人に相続税がかからないようにするための控除制度です。
相続税はもともと財産の格差、富の集中を是正するための性質も持っており、富裕層には多くの税金を課し、そうでない人には少額または税額が無しになるように設計されています。
相続財産が遺族の生活の保障となることもあるため、相続人の人数に応じた基礎控除が計算されるようになっています。
なお、仮に基礎控除の金額を超える相続財産があったとしても、基礎控除はすべての人が利用でき、特に何か適用するための要件はありません。
基礎控除額の計算方法
基礎控除の金額の計算式は以下の通りとなります。
- 3,000万円+(法定相続人の数 × 600万円)
また、以下は基礎控除額の早見表です。
法定相続人の数 | 基礎控除額 |
---|---|
1人 | 3,600万円 |
2人 | 4,200万円 |
3人 | 4,800万円 |
4人 | 5,400万円 |
5人 | 6,000万円 |
6人 | 6,600万円 |
7人 | 7,200万円 |
これだけだと、基礎控除の利用する場面が分かりにくいかと思いますので、相続税の計算の流れに合わせて基礎控除の計算例を見てみましょう。
以下、今回例として利用する家族構成や相続財産の要件です。
例)相続税を計算する際の要件
-
被相続人の遺産(預金5,000万円)(今回は課税価格も同じとする)
-
被相続人の配偶者なし
-
被相続人の子A 預金 3,000万円相続
-
被相続人の子B 預金 2,000万円相続
※子Aは未成年者控除を10万円使える
まず遺産総額から基礎控除額を差し引いて、課税遺産総額の計算をします。
1. 課税遺産総額の計算
- 基礎控除額(4,200万円)= 3,000万円 + 法定相続人の数(2人)× 600万円
- 課税遺産総額(800万円)= 預金(5,000万円)- 基礎控除額(4,200万円)
次に法定相続分の割合と相続税率をかけて、子Aと子Bの相続税の総額を計算します。
2. 相続税の総額の計算
-
子Aの法定相続分の取得金額(400万円)=課税遺産総額(800万円)× Aの法定相続分(1/2)
-
子Aの法定相続分の税額(40万円)=子Aの法定相続分の取得金額(400万円)× 税率(10%)
-
相続税の総額(80万円)=子Aの法定相続分の税額(40万円)+ 子Bの法定相続分の税額(40万円)※子Bの法定相続分の税額(40万円) = 子Aと計算過程は同じ。
最後に未成年控除などを考慮して、各人の納付すべき相続税額の計算をします。
3. 各人の納付すべき相続税額の計算
- 子Aの納付する相続税(48万円)= 相続税の総額(80万円)× 子Aが相続した課税価格(3,000万円)/ 課税価格の合計(5,000万円)
- 子Bの納付する相続税(22万円)= 相続税の総額(80万円)× 子Bが相続した課税価格(2,000万円)/ 課税価格の合計(5,000万円) - 未成年者控除(10万円)


【ケース別】相続税の基礎控除に関する注意点
相続税の基礎控除の計算式自体は、複雑ではありませんが、法定相続人の数え方についていくつか注意点があります。
なお、ここでの法定相続人というのは、実際に相続した人数ではありません。もともと法律が定めている相続人の事を指します。
以下ケース別に相続税の基礎控除に関する注意点を解説していきます。
相続税の基礎控除に関する注意点
相続放棄をした人がいる場合
例えば相続放棄をした人がいる場合、普通はこの人は相続人には数えません。
しかし、相続税の基礎控除の計算をする際はこの計算に使う法定相続人の数は相続放棄をした人が「放棄していなかった」とした場合の人数となります。
以下、具体例を交えて説明していきます。
相続財産(今回は課税価格も同じとする) | 4,500万円 |
---|---|
亡くなった人の親族 |
|
子供Aが相続放棄をしたため、子供Aは相続することなく、相続財産を配偶者2,250万円、子供B1,125万円、子供C1,125万円の3名で相続した。 |
このような要件の時の相続税の計算は以下の通りになります。
相続放棄をした人がいる場合の計算例
- 基礎控除額の計算上の法定相続人の数 = 4人{配偶者、子供A、B、C}
- 基礎控除額(5,400万円)= 3,000万円 +(法定相続人の数)4人 × 600万円(相続財産(4,500万円)- 基礎控除額(5,400万円)<0円 のため)相続税の課税の対象となる金額(0円)
この計算例を見ると相続放棄をしているにも関わらず、子供Aも法定相続人に含まれていることが分かります。
また、この場合は相続税の申告は不要になります。


養子がいる場合
無制限に養子の人数を相続税の基礎控除の計算で認めてしまうと、税金の負担を軽減するためだけに不当に養子を増やして相続税を減らそうとする人もいるかもしれません。
そこで相続税法は養子にできる人数を制限する規定になっています。
養子の人数制限は次の2通りあります。
養子の数え方
- 被相続人に実子がある場合、又は被相続人に実子がなく養子の数が1人である場合・・・養子は1人と数える
- 被相続人に実子がなく養子の数が2人以上である場合・・・養子の数は2人とする。
ただし次のような場合は養子であっても実子としてみなします。
養子であっても実子とみなす場合
- 特別養子縁組により被相続人の養子となった者
- 被相続人の配偶者の実子でその被相続人の養子となった者。これはいわゆる、連れ子が養子となった場合を指します。
- 被相続人とその被相続人の配偶者との婚姻前に、その被相続人の配偶者と特別養子縁組により配偶者の養子となった者で、その婚姻後にその被相続人の養子となったもの。別の言い方をすれば、配偶者の連れ子が特別養子だった場合で、その子を婚姻後に亡くなった方が養子にしていた場合です。
- 被相続人の実の子、養子またはその直系卑属が相続開始以前に既に死亡しているか、又は相続権を失ったため、その子供などに代わって(代襲相続により)法定相続人となった直系卑属。なお、直系卑属とは子供や孫の事を指します。
以下、養子がいる場合の計算例を交えながら説明していきます。
被相続人に実の子がいる場合で、養子が2人以上のケース
相続できる人は以下の通りです。
- 配偶者
- 被相続人の実の子1人
- 被相続人の養子3人(全て普通の養子縁組。実子とみなす場合に該当しないものとする。)
この場合の基礎控除額は以下の通りになります。
- 法定相続人の人数は、配偶者、実の子、養子1名の3人
- 基礎控除額(4,800万円)= 3,000万円 + 法定相続人の数(3人)× 600万円
被相続人に実の子がいないケース
相続できる人が以下の通りです。
- 配偶者
- 被相続人の養子3人(全て普通の養子縁組。実子とみなす場合に該当しないものとする。)
この場合の基礎控除額は以下の通りになります。
- 法定相続人の人数は、配偶者、養子2名の3人
- 基礎控除額(4,800万円)= 3,000万円 + 法定相続人の数(3人)× 600万円


孫に相続させる場合
孫に相続する場合は、その孫が代襲相続として相続するのか、代襲相続ではなく遺言などで相続するのかによって基礎控除の計算は違ってきます。
代襲相続とは、法定相続人である被相続人の子が相続発生より前に既に死亡している場合に、その被相続人の子の子(つまり被相続人から見た孫)が法定相続人になる制度です。
図で表すと以下のような構図になります。
代襲相続として孫が相続する場合、この孫は法定相続人ですので相続税の基礎控除の人数に含まれます。
一方、被相続人の子が健在であるにもかかわらず遺言などによって孫が相続するような場合は、孫は法定相続人ではありませんので基礎控除の数には入れません。
また遺言がなくとも、孫が被相続人の養子であれば、養子として相続することもあり得ます。
この場合は、既に述べた通り、養子としてカウントされますので、一定の人数までは基礎控除の数に含まれます。
しかし、注意点として相続税には一定の人が相続すると、その人の相続税だけ2割加算されるという決まりがあります。一定の人というのは、次の人「以外」の人です。
2割加算されない人
- 被相続人の一親等の血族(ただし代襲相続となった孫(直系卑属)を含む)
- 配偶者
以下、孫に相続できる方法をまとめていますのでお考えの方はこちらをご参照ください。


相続欠格者がいる場合
相続の欠格とは、相続に関して不正な行為をした場合に相続人の資格を失う制度です。
例えば脅迫で被相続人が遺言を変更するように仕向けたり、遺言を偽造したりしたような人が該当します。
この欠格者は法定相続人にはならないため基礎控除の計算をする際、人数に含みません。ただしその子供が代襲相続することが可能です。
なお、これに似たもので「相続の廃除」というものもあります。
これは相続人から虐待や侮辱行為を受けた被相続人が家庭裁判所に申立を行うことで相続人から相続権を剥奪することです。計算の仕方は相続の欠格と同じ流れとなります。
それでは具体例を見てみましょう。
相続欠格者がいる場合の計算例
相続欠格者がいる場合のシチュエーションは以下の通りです。
相続税欠格者がいる場合の例
- 被相続人の配偶者なし
- 被相続人には子供Aと子供Bがいた。
- 子供Aは被相続人の殺害をしてしまい相続の欠格となった。子供Aには子供はいない。
- 子供Bは通常通り相続した。
以下が相続欠格者がいる場合の計算方法です。
- 基礎控除額の計算上の法定相続人の数=1人{子供B}
- 基礎控除額(3,600万円)=3,000万円+法定相続人の数(1人)×600万円


遺言によって法定相続人以外の人が相続する場合
遺言によって法定相続人以外の人が相続する場合、基礎控除の計算は遺言がなかったときの法定相続人の数で計算します。
これは遺産の分割の仕方によって基礎控除の計算が変わってしまうと予期せぬ税負担や税逃れができてしまうので、これを回避するための規定になっています。
以下具体例を交えながら、詳しく説明していきます。
お世話になった姉に遺言で相続財産の半分を渡した場合
シチュエーションは以下の通りです。
相続財産(課税価格も同じとする)5,000万円
- 被相続人の配偶者なし
- 子供は1人で相続財産2,500万円相続した。
- 遺言により非常に世話になった被相続人の姉に相続財産2,500万円遺贈した
まず、基礎控除額を引いて課税遺産総額の計算をします。
1. 課税遺産総額の計算
- 課税遺産総額(1,400万円)= 課税価格(5,000万円)- 基礎控除額(3,600万円)
- 基礎控除額(3,600万円)= 3,000万円 + 法定相続人の数(1人)× 600万円
- 基礎控除額の計算上の法定相続人の数 = 1人{子供}
次に、法定相続分の割合と相続税率をかけて、相続税の総額を計算します。
2. 相続税の総額の計算
- 相続税の総額(160万円)= 子供の法定相続分の税額(160万円)
- 子供の法定相続分の税額(160万円)= 子供の法定相続分の取得金額(1,400万円)× 相続税速算表の税率(15%)- 相続税速算表の控除額(50万円)
- 子供の法定相続分の取得金額(1,400万円)= 課税遺産総額(1,400万円)× 法定相続分(1/1)
最後に、各人が納付すべき相続税について計算していきます。
3. 各人が納付すべき相続税の計算
- 子供の納付する相続税(80万円)= 相続税の総額(160万円)× 子供が相続した課税価格(2,500万円)/ 課税価格の合計(5,000万円)
- 姉の納付する相続税(96万円)= 相続税の総額(160万円)× 姉が相続した課税価格(2,500万円)/ 課税価格の合計(5,000万円) + 2割加算(16万円)


基礎控除以外の控除制度
基礎控除以外に相続人が置かれている状況に応じて、税負担を軽減する制度がいくつか存在しています。
これらの制度は、基礎控除と異なり、該当する人のみが受ける事ができる制度です。
以下、それぞれの控除制度を詳しく説明していきます。
配偶者控除
配偶者控除(配偶者の税額軽減)とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈によって実際に取得した遺産の純額が次の金額のどちらか多い金額まで相続税がかからない制度です。
- 1億6000万円
- 配偶者の法定相続分相当額
なお、「配偶控除を適用すれば相続税がゼロとなるが、適用しない場合は相続税が発生する」という時、相続税の申告は必要ですので注意しましょう。
また配偶者の税額軽減は、配偶者が取得する財産について遺産分割協議が申告期限内に成立している必要があります。
※ただし当初の相続税の申告書に「申告期限後3年内の分割見込書」を添付していた場合で、かつ実際に3年内に分割されれば、その段階で軽減の対象となります


未成年者控除
未成年者控除とは、相続人が未成年の時に相続税額から一定の金額を差し引くことができる控除のことをいいます。
一定の金額とは、未成年者控除の額はその未成年者が満20歳になるまでの年数1年につき10万円です。
障害者控除
障害者控除とは、相続人が85歳未満であってなおかつ障害者の時に相続税の額から一定の金額を差し引くことができる控除のことをいいます。
障害者控除の金額は、その障害者が満85歳になるまでの年数1年につき10万円です。
相次相続控除
相似相続控除とは、今回の相続開始前10年以内に相続税が課された人について、今回の相続税から一定の金額を差し引くことができる控除のことをいいます。
外国税額控除
外国税額控除とは、海外の相続財産に外国の相続税がかかった場合にその金額を日本の相続税から引くことができる控除です。
日本の相続税は海外の相続財産も含めて計算しますが、もし外国税額控除がなければと日本の相続税と海外の相続税が二重で課税されてしまうことがあります。
これを調整するために外国税額控除があります。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、相続開始の直前において被相続人又は被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族が事業の用又は居住の用に供していた宅地等のうち、一定のものについては相続税の評価額を50%~80%減額する特例制度です。
こちらも配偶者控除と同様に、特例の対象の財産の遺産分割が申告期限内に成立している必要があります。
※ただし当初の相続税の申告書に「申告期限後3年内の分割見込書」を添付していた場合で、かつ実際に3年内に分割されれば、その段階で軽減の対象となります


まとめ
相続税の基礎控除はすべての人が利用できる控除です。
基礎控除は3,000万円+ (600万円×法定相続人の人数)です。
この法定相続人の数は、相続放棄がなかったとした場合の法定相続人の数です。
また、養子は一定の場合を除いて基礎控除の計算に使うことができる人数が制限されます。
孫は、その親(被相続人の子)が相続人として生存していれば法定相続人にはなりませんが、養子や遺言により相続人になることがあります。
養子の場合は、通常の養子と同様に基礎控除の計算に含められますが、遺言の場合は基礎控除の計算に含められません。
孫の親(被相続人の子)が相続発生時に既に死亡している場合は、代襲相続として相続可能です。
この場合は、基礎控除の金額に算入されます。