相続時精算課税制度とは?
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母または祖父母から、20歳以上の子または孫に財産を贈与した場合に選択できる贈与税の課税制度のことです。
一般的な生前贈与の場合は年間で110万円までの基礎控除(暦年課税)が受けられますが、相続時精算課税制度を利用すると合計で2,500万円までの贈与に対して税金が課されません。
そのため、60歳以上の人から20歳以上の子や孫への贈与であれば、1年間のうちに非常に大きな価額の生前贈与を無税で行うことができます。
ただし、基礎控除を利用する場合と異なり、相続時精算課税制度を利用する場合は贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日の間に一定の書類を添付した贈与税の申告書類を提出する必要があります。
また、贈与者が亡くなった場合、相続時精算課税制度で贈与した財産は「相続財産」に持戻され、合計金額に対して相続税が発生します。
つまり、本来であれば財産の贈与を受けたときに発生する贈与税の支払いを、相続発生時に先延ばしする制度と言い換えることができます。
贈与を受けた財産を「相続時」に「精算(持戻)」して「課税」するという意味から『相続時精算課税制度』と呼ばれています。


相続時精算課税制度と暦年課税の違い
贈与税には「相続時精算課税制度」と「暦年課税」の2つの課税方式が存在します。
贈与を受けた場合にどちらか好きな方を選択することができ、それぞれには以下のような違いがあります。
名称 | 相続時精算課税制度 | 暦年課税(通常の贈与) |
---|---|---|
特徴 |
|
|
贈与の条件 | 60歳以上の父母や祖父母から20歳以上の子や孫への贈与 | 誰でも利用可能 |
贈与税の納税 | 対象の贈与額から2,500万円の特別控除を差し引いた額に対して課税 | 1月1日〜12月31日の間に行われた贈与財産から基礎控除を差し引いた額に対して課税 |
贈与税の計算式 | (贈与額 - 2,500万円(過去に非課税枠を利用している場合はその額を除く))×20% ※税率は一律20% |
(贈与額-基礎控除110万円)×累進税率 ※累進税率は10〜55%の8段階※詳細については国税庁公式ホームページを参照 |
相続税との関係 | 相続が発生したとき、相続時精算課税制度を利用して贈与した財産を相続財産に持ち戻した上で相続税の計算を行う (贈与税の代わりに相続税が発生するイメージ) |
相続税とは切り離して贈与税の計算 ただし、相続開始前3年以内の贈与がある場合は相続税の課税価格に持ち戻して計算を行う |
制度の移行 | 相続時精算課税制度を選択した後で暦年課税への以降はできない | 暦年贈与を選択した後で相続時精算課税制度への以降は可能 |
※2021年1月時点参照:「相続時精算課税制度」とはどんな制度?|生命保険文化センター参照:相続時精算課税の選択|国税庁
相続時精算課税制度は、60歳以上の同一の父母または祖父母から20歳以上の子や孫への贈与に対して2,500万円までの特別控除が適用される制度です。
同一の父母または祖父母からの贈与であれば、2,500万円までの枠を使い切るまでは何度でも相続時精算課税制度を利用できます。
ただし、相続時精算課税制度を利用した贈与については暦年課税に変更することができなくなってしまうので気をつけましょう。
一方の暦年課税は、贈与を行う際に誰でも選択できる課税方式で、贈与額から年間110万円までの基礎控除を差し引いた金額に対して贈与税が課されます。
年を跨げば何度でも暦年課税を利用できるので、長い時間をかければ一切の贈与税を納めることなく多くの財産を贈与することも可能です。
なお、定期的な贈与を行うと「定期贈与」とみなされて贈与の合計額に対して贈与税が課される可能性があるので、贈与のたびに契約書を作成して記録を残した上で贈与を行わなければなりません。
それぞれにメリットとデメリットが存在するので、贈与税や相続税の負担を軽減するためには暦年贈与と相続時精算課税制度を賢く使い分ける必要があります。
相続時精算課税制度や暦年贈与に関する詳細な注意点、それ以外で生前贈与に活用できる非課税制度は以下の記事でご紹介しているので合わせてご参照ください。


相続時精算課税制度のメリット
贈与の際に相続時精算課税制度を選択するメリットとしては以下の3点が挙げられます。
相続時精算課税制度のメリット
暦年課税に比べて非課税となる上限が大きいことが特徴ですが、それ以外にもメリットがあります。
しかし、後から暦年贈与へ変更することができないデメリットがあるので、メリットを事前に確認した上でどちらの課税方式を選択すべきか検討しましょう。
1. 2,500万円まで贈与税がかからない
相続時精算課税制度の最大の特徴は、2,500万円までの贈与であれば贈与税が課されない点です。
一般的な贈与(暦年課税)の場合は年間で110万円までの基礎控除枠がありますが、この金額を超える場合には累進税率が課されるため、贈与財産の価額によっては非常に高額な贈与税を納めることになりかねません。
また、相続時精算課税制度を利用した場合、2,500万円を超えた価額に対しては一律で20%の税率が課されることになるので、暦年贈与を行うよりも贈与税を安く抑えることができます。
たとえば、5,110万円の財産を贈与する場合、暦年贈与と相続時精算課税制度のどちらを選ぶかによって、以下のとおりに贈与税の金額が大きく変わってきます。
例:5,110万円の財産を贈与する場合の贈与税
-
相続時精算課税制度:5,110万円 - 特別控除2,500万円 × 20% = 522万円
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暦年贈与:{(5,110万円 - 基礎控除110万円)× 累進税率55%} - 控除640万円 = 2,110万円
※暦年贈与の累進税率は特例税率を用いて計算しています
ご覧の通り、課される贈与税の金額に大きな違いがあることがおわかりいただけるかと思います。
ただし、相続時精算課税制度を利用した贈与は、相続が発生した時に相続財産へ持戻された上で相続税が計算されます。
暦年贈与の場合は相続発生から3年以内に行われた贈与でなければ相続税は課されないので、自分にとってどちらを選ぶとメリットが大きいのかをよく比較する必要があります。

- ナビナビ保険監修
- 税理士・公認会計士
- 滝 文謙
2. 早期にまとまった資金を贈与できる
相続時精算課税制度は、同一の父母や祖父母からの贈与財産に対して2,500万円までの特別控除が受けられる制度です。
暦年贈与の場合、年を跨げば110万円の基礎控除枠を何度でも利用できますが、定期贈与とみなされて贈与税を課されないようにするために諸々の手続きが必要です。
また、まとまった資金を贈与する場合、何年にも渡って贈与を行う必要があることから非常に多くの時間がかかってしまいます。
その点、相続時精算課税制度を利用すれば2,500万円までの贈与なら一切の贈与税を納める必要がないので、早期にまとまった資金を贈与できるというメリットがあります。
また、相続時精算課税制度を利用して生前贈与を行えば、いざ相続が発生したときの家族間トラブルを未然に防ぐことにもつながります。
3. 評価額が低いうちに自社株式などを移転できる
相続時精算課税制度を利用した場合、相続発生時に相続財産へ持戻されるため、結果として贈与税の代わりに相続税が発生することになります。
ですが、相続時精算課税制度によって持戻された贈与財産は「贈与した時点での価額」で相続税が計算されるので、将来的に評価額が高くなると予想される自社株式などを移転しておくことで相続税負担の軽減効果が生まれます。
ただし、逆に評価額が下がってしまった場合はより多くの相続税が課されることになってしまうので注意が必要です。


相続時精算課税制度のデメリット
最大で2,500万円までの贈与に対して贈与税が課されない相続時精算課税制度ですが、その一方でデメリットもあります。
相続時精算課税制度のデメリット
メリットに対してデメリットの数が多いので、利用を検討する場合は事前によく確認しておきましょう。
1. 暦年贈与とは併用できず110万円以下の贈与でも申告義務が発生する
贈与を行う場合、相続時精算課税制度か暦年贈与のどちらか一方を選ぶ必要があります。
相続時精算課税を適用した贈与者からの贈与については、暦年贈与とは併用ができないので、相続時精算課税制度を選んだ場合は110万円の基礎控除を利用することができません。
また、暦年贈与の場合は税務署への申告義務はありませんが、相続時精算課税制度を利用する場合は、たとえ贈与財産の価額が110万円以下だったとしても申告義務が発生します。
申告を行う際には確定申告の書類や届出書などの書類を準備しなければならないので、諸々の手続きが必要で手間がかかるということを覚えておきましょう。
2. 誰でも気軽に利用できる制度ではない
相続時精算課税制度が利用できるのは以下に該当する人だけに限定されています。
相続時精算課税制度が利用できる人
- 贈与する人:60歳以上の父母または祖父母
- 贈与される人:20歳以上の子または孫
大きな金額を無税で贈与できる可能性があることが魅力の相続時精算課税制度ですが、利用できる人が限定されているのでご注意ください。


3. 相続時精算課税制度を利用して孫へ贈与した場合は2割加算の相続税が発生する
相続時精算課税制度を利用して孫へ贈与した場合、相続税の計算を行う際に「相続税の2割加算」が適用されます。
相続税の2割加算とは、遺贈や相続時精算課税制度を利用して財産を受け取った人が「一親等の血族または配偶者以外の人」である場合に、相続税額の2割に相当する金額が元々の相続税に加算される制度のことです。
一親等の血族とは以下の範囲に含まれる人のことを指します。
一親等の範囲内に含まれる人
- 配偶者
- 被相続人の父母
- 被相続人の子
なお、相続税対策として自分の孫を養子縁組で子に迎え入れるケース(いわゆる孫養子)もありますが、孫から見たときの親(被相続人から見たときの子)が生存している場合は相続税の2割加算の対象となります。
一方、親が死亡していて孫が代襲相続人となっている場合は相続税の2割加算の対象にはなりません。
そのため、相続時精算課税制度を利用して孫に贈与をするときは、場合によって相続税の2割加算の対象になるかもしれないということを覚えておきましょう。
4. 一度選択すると後から暦年贈与へ変更することができない
相続時精算課税制度を選択すると、対象の贈与については後から暦年贈与へ変更することができません。
その逆で、暦年贈与を選んだ後で相続時精算課税制度に変更することは認められています。
生前贈与を行う際、相続時精算課税制度を選択する可能性がある場合はメリットとデメリットを見比べた上で選ぶようにしましょう。

- ナビナビ保険監修
- 税理士・公認会計士
- 滝 文謙


5. 贈与税は非課税だが、相続税は発生する可能性がある
2,500万円までであれば贈与税は発生しませんが、相続時精算課税制度を利用すると相続発生時に生前贈与した財産を相続財産に持ち戻した上で相続税が計算されます。
冒頭でもお伝えしたとおり、相続時精算課税制度は贈与税を「相続時」に「精算」して「課税」する制度なので、結果として贈与した財産に対しても相続税が課されることになります。
つまり、本来であれば贈与を受けたときに発生する贈与税を、相続するタイミングへと先延ばしにしていると言い換えることができます。
ただし、メリットでもご紹介したように持戻された場合の贈与財産は「贈与時の価額」で相続税の計算が行われるので、贈与時よりも相続時の価額が高くなっていれば相続財産としての納税額が少なく済むことが特徴です。
6. 小規模宅地等の特例が使えなくなる
相続時精算課税制度を選択すると、小規模宅地等の特例が使えなくなります。
- 「小規模宅地等の特例」とは?
- 一定の要件を満たす土地を相続する場合に、その土地の評価額を最大80%まで減額することで相続税の軽減効果が得られる特例
非常に大きな税負担の軽減効果が期待できる一方で、相続時精算課税制度を利用すると本特例を利用できなくなってしまうので、どちらの制度を利用するとメリットが大きいかをよく比較してから検討する必要があります。
相続財産の中に不動産が含まれている場合は、プロの専門家に相談の上、どちらの制度を利用すべきかをご検討ください。


相続時精算課税制度がおすすめの人
ここまでにご紹介したように、相続時精算課税制度には様々なメリットとデメリットが存在します。
これらの特徴を踏まえた上で、相続時精算課税制度がおすすめできるのは以下の特徴に当てはまる人です。
相続時精算課税制度がおすすめの人
- 相続財産の価額が相続税の基礎控除額(3,000万円 + 法定相続人 × 600万円)以内に収まる人
- 定期的な収益のある不動産を持っている人
- 将来的に評価額が高くなる財産(土地、株式など)を持っている人
相続時精算課税制度は、ごく簡単に説明すると贈与を受けたタイミングの贈与税を、相続発生時に先送りにする制度です。
贈与税を非課税にできたとしても将来的に相続税が発生しますが、相続財産の価額が相続税の基礎控除額以内であればそもそも相続税が発生しません。
暦年贈与の場合は年間で最大110万円までしか控除が受けられませんが、相続時精算課税制度を利用することで最大2,500万円までの贈与を非課税で行えて、場合によっては相続税も非課税にできる可能性があります。
また、定期的に収入のある不動産(家賃収入など)を持っている人は、生前贈与をしておくことでその不動産から得られる収益を相続財産から省くことができます。
不動産自体は将来的に相続財産に持戻されますが、贈与を行なった後の不動産の収益は贈与を受けた人の財産となるので、贈与者の相続財産の評価額を下げることによる税負担の軽減効果が期待できます。
それとは別に、相続時精算課税制度を利用して贈与した財産は「贈与時の価額」で相続税の計算が行われるので、将来的に評価額が上がりそうな財産を生前贈与しておくことで納税する相続税額を減らすことも可能です。
これらの特徴に該当する人は、暦年課税よりも相続時精算課税制度を利用したほうがメリットは大きいといえるでしょう。


相続時精算課税制度の手続きの流れ
相続時精算課税制度を利用するためには、以下の手順で手続きを行う必要があります。
相続時精算課税制度の利用手順
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以下の必要書類を準備する
(ア) 贈与税の申告書 第1表・第2表
(イ) 相続時精算課税選択届出書
(ウ) 受贈者(贈与を受けた人)の戸籍謄本または抄本
(エ) 受贈者の戸籍附票や住民票
(オ) 贈与者の戸籍附票や住民票 -
生前贈与が行われた年の翌年2月1日〜3月15日までの期間中に申告を行う
(ア) 申告を行うのはお住いの地域を管轄する税務署
参照:贈与税の申告|国税庁参照:相続時精算課税を選択する贈与税の申告書に添付する書類|国税庁
贈与税の申告書、相続時精算課税選択届出書は国税庁公式ホームページでダウンロードできるほか、お住いの地域を管轄する税務署でも取得することができます。
戸籍謄本や住民票はお住いの地域の市区町村役場などで取得可能ですが、取得するためにはいくらかの費用が必要なのでご注意ください。
必要書類が準備できたら、生前贈与が行われた年の翌年2月1日〜3月15日までの確定申告受付期間中に、必要書類一式を税務署へ提出して申告を行います。
贈与額がどんなに少ない場合であっても、相続時精算課税制度を利用するには必ず税務署への申告を行う必要があるので気をつけましょう。


まとめ
相続時精算課税制度は、60歳以上の父母や祖父母から20歳以上の子や孫に対する生前贈与において、最大2,500万円までの特別控除が適用される制度です。
まとまった財産を早期に贈与できることが最大の魅力ですが、それ以降は暦年贈与に変更できない・特例を利用できない・申告義務が発生するなどの注意点もあります。
生前贈与を行う場合は、これらの特徴をしっかりと理解した上で暦年課税と相続時精算課税制度のどちらを利用すべきかをよく検討するようにしましょう。