友人や知人、別居している親などから借りた車で事故を起こしたときは、車に紐付けられた自動車保険の補償を受けられる場合があります。
ただし、自動車保険の契約内容次第では、補償が適用されません。たとえ保険を使えたとしても、貸してくれた人の翌年の自動車保険料が上がって迷惑をかけてしまう可能性があります。
そこで、他人の車を運転する機会がある人は、ドライバー保険を検討するのがおすすめです。
この記事では、ドライバー保険の補償内容や補償の対象となる自動車、1日自動車保険との違いなどをわかりやすく解説します。

- ナビナビ保険監修
- 関西学院大学教授
- 前田 祐治
ドライバー保険とは他人から借りた車での事故を補償する保険
ドライバー保険は、記名被保険者(補償の中心になる人)が、他の人から借りた車の運転中の事故を補償する自動車保険です。
ドライバー保険に加入できるのは、車を所有していない免許を持っている人です。通常であれば自動車保険は所有する車に紐付けられていますが、ドライバー保険は運転する人に紐付けられています。
ドライバー保険の保険期間(補償が有効である期間)は、任意加入の自動車保険と同じ1年です。
保険料は、事故実績に応じたノンフリート等級と、契約者の年齢区分に応じて決まります。
ドライバー保険の対象となる借用自動車
ドライバー保険は、記名被保険者が以下の自動車を借りて運転したときの事故を補償します。
ドライバー保険の補償対象となる自動車
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自家用普通乗用車
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自家用小型乗用車
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自家用軽四輪乗用車
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自家用小型貨物車
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自家用軽四輪貨物車
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自家用普通貨物車(最大積載量0.5トン以下)
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自家用普通貨物車(最大積載量0.5トン超2トン以下)
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特殊用途自動車(例:キャンピングカー)
- 二輪自動車・原動機付自転車
ドライバー保険に加入すると、普通自動車や軽自動車だけでなく、キャンピングカーやバイクなどを借りたときの事故も補償されます。
一方でドライバー保険では、記名被保険者やその配偶者、同居の親族(父母・祖父母・兄弟姉妹など)が所有する自動車を運転したときの事故は補償されません。配偶者には、内縁の相手方や同性のパートナーも含まれます。
他にも、業務中に運転する勤務先の社用車や、タクシーをはじめとした緑色のナンバープレートの営業車は、ドライバー保険の補償対象外です。
なおドライバー保険は、レンタカーやカーシェアの車両を運転したときの事故も補償されます。ただし、レンタカーやカーシェアの運営会社は、基本的に保険や補償制度を用意しており、利用料金に保険料が含まれているのが一般的です。
レンタカーやカーシェアを利用するときは、ドライバー保険に加入する前に運営会社が提供する保険や補償制度を必ず確認しましょう。
ドライバー保険が役立つ場面
ドライバー保険は、他人が所有する車を運転する機会があるなら、加入を検討すべき保険といえます。
ドライバー保険に加入していない状態で、他人が所有する車を運転すると、その車の自動車保険の補償が適用されないかもしれません。たとえ補償が受けられたとしても、車を所有する人の翌年の保険料が上昇する可能性があります。
貸してくれた人の自動車保険の補償が受けられない
自動車保険は、主に運転する人の範囲(本人+配偶者、本人のみなど)や年齢を特約で限定することで、保険料を安くできます。
借りた車の自動車保険に、運転者の範囲や年齢を限定する特約が付いていると、借りた人が事故を起こしても補償を受けられないことがあります。
例えば、実家に帰省したとき、親が所有する自動車を運転するとしましょう。親の車の自動車保険は、35歳以上の人が運転するときしか補償が受けられません。
運転する子どもの年齢が25歳であると、事故を起こしたときに相手への補償ができず、多額の損害賠償を背負う恐れがあります。
ドライバー保険に加入すると、万が一自動車事故を起こして損害賠償を負ったとき保険金が支払われるため、高額な損害賠償を負わずに済みます。借りた車の自動車保険の補償が受けられないときは、ドライバー保険に加入しておくと安心です。
借りた車の自動車保険を使いたくないとき
ドライバー保険に加入すると、事故を起こしたとき借りた車の自動車保険を使わずにすみます。
友人の車を借りて運転するケースで考えてみましょう。借りた車で自動車の事故を起こしてしまいましたが、幸いにも友人の自動車保険から保険金が支払われました。
しかし自動車保険は、事故実績に応じて決まる等級が下がると、保険料が高くなる仕組みです。そのため借りた車の自動車保険を使ったことで、貸してくれた友人の翌年の保険料が上昇してしまいました。
ドライバー保険に加入していれば、事故を起こしたときに友人の自動車保険を使う必要はありません。よって友人は、翌年に自動車保険料が上がらずに済むのです。
貸してくれた人に迷惑をかけたくないのであれば、自分自身で保険料を支払ってドライバー保険に加入すると良いでしょう。

- ナビナビ保険監修
- 関西学院大学教授
- 前田 祐治
ドライバー保険の補償
ドライバー保険に加入すると、事故相手への賠償と運転者または同乗者のケガ・後遺障害、死亡が補償されます。
賠償責任保険 |
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傷害保険 |
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ドライバー保険は、どの保険会社で加入しても対人賠償責任保険と対物賠償責任保険が基本補償となります。
一方で傷害保険は、保険会社によって取り扱いが異なります。なかには、人身傷害保険を選べない保険会社もあるのです。
なおドライバー保険は、任意の自動車保険とは異なり、自分自身が運転していた車が損害を負ったときの補償を付帯できません。
対人賠償責任保険
対人賠償責任保険は、事故相手がケガや後遺障害を負ったり死亡したりしたときの損害賠償を補償する保険です。
事故相手の死傷で法律上の損害賠償を負ったとき、借りた車の自賠責保険の補償が適用されます。自賠責保険は、法律によって原付バイクを含むすべての自動車に加入が義務付けられている保険です。
自賠責保険の保険金額は、被害者1人につき死亡3,000万円、後遺障害4,000万円、傷害120万円がそれぞれ上限となります。対人賠償責任保険では、損害賠償額のうち自賠責保険を超過した金額の保険金が支払われます。
例えば、友人から借りた車を運転中に対向車と正面衝突し、事故相手が寝たきりとなってしまい、5,000万円の損害賠償責任を負ったとしましょう。
自賠責保険から4,000万円の保険金が支払われた場合、ドライバー保険に加入していると、対人賠償責任保険から1,000万円の保険金が支払われます。
対人賠償責任保険の保険金額(保険金の支払上限額)は、基本的に無制限です。
対物賠償責任保険
対物賠償責任保険は、事故によって他人が所有する車や家屋、モノなどに損害を与え法律上の損害賠償責任を負ったときの補償です。
例えば、知人から借りた車を運転中に交通事故を起こして、相手の車を壊し600万円の損害賠償を負ったとき、対物賠償責任保険から600万円の保険金が支払われます。
なお対物賠償責任保険では、信号機やガードレール、店舗などに損害を与えたときの賠償責任も補償してくれます。
対物賠償責任の保険金額は、無制限が一般的です。

- ナビナビ保険監修
- 関西学院大学教授
- 前田 祐治
人身傷害保険
人身傷害保険は、自動車事故によってドライバーや同乗していた人が、ケガや後遺障害を負ったり、亡くなったりしたときの補償です。
人身傷害保険に加入していると、過失割合にかかわらず実際の損害額と同額の保険金が支払われます。損害額は、治療費や慰謝料、休業によって得られなくなった収入などをもとに、保険会社が独自の基準で算定します。
交通事故が発生したとき、ご自身がケガを負っても、損害額のすべてを相手に賠償してもらえるわけではありません。自分と相手にそれぞれどれだけの責任があるのかを表す「過失割合」に応じて、賠償額は相殺されるためです。
例えば、会社の同僚から借りた車の運転中に事故を負い、過失割合が自分:相手=30:70であったとしましょう。
ご自身のケガに対する損害額が1,000万円であった場合、事故相手から賠償してもらえるのは700万円であり、300万円は自己負担しなければなりません。
人身傷害保険に加入していれば、本来であれば自己負担となる300万円の損害額を、保険金でカバーできます。※損害額は基本的に保険会社の基準で計算されるため、示談や調停によって認定された金額とは異なる場合があります。
搭乗者傷害保険
搭乗者傷害保険は、人身傷害保険と同じく、自動車事故によって運転者や同乗していた人が、ケガや後遺障害を負ったり亡くなったりしたときの補償です。
搭乗者傷害保険と人身傷害保険は、支払われる保険金の決まり方が異なります。
人身傷害保険は、ケガや後遺障害、死亡による損害額に応じて保険金の支払額が決まる保険です。対して搭乗者傷害保険は、契約時に決めた定額の保険金が支払ってもらえます。
搭乗者傷害保険に加入していると、保険会社による損害額の算定を待つことなく、スピーディーに保険金を支払ってもらえます。事故を起こしたときの治療費をすみやかに準備したいのであれば、搭乗者傷害保険に加入していると安心です。
ドライバー保険に付帯できる特約
ドライバー保険には、特約を付けて補償を手厚くできることがあります。代表的な特約は、以下の通りです。
補償内容 | |
---|---|
対物超過修理費用補償特約 | 事故相手の損壊した自動車の時価相当額よりも多額の修理費用が発生した場合に補償する特約 |
個人賠償責任特約 | 交通事故以外の日常生活において、偶然の事故によって他人をケガさせたり他人の持ち物を壊したりして負った、 法律上の損害賠償責任を補償する特約 |
ドライバー保険に付けられる特約は、保険会社によって取り扱いが異なります。
ドライバー保険のメリットとデメリット
自分自身にとってドライバー保険が必要か判断するときは、加入するメリットとデメリットを把握することが大切です。ここでは、ドライバー保険のメリットとデメリットをそれぞれ解説していきます。
ドライバー保険のメリット
- 事故時に借りた車の自動車保険を使わずに済む
- 借りた車の自動車保険の契約内容にかかわらず事故時に補償が受けられる
- 事故を起こして等級が下がっても他の自動車保険に引き継がれない
ドライバー保険のデメリット
- 車両保険に加入できない
- 事故を起こさず等級が上がっても他の自動車保険に引き継げない
ドライバー保険のメリット
ドライバー保険に加入すると、借りた車で事故起こしたとき、車に紐付けられた自動車保険を使わずに済みます。そのため車を貸してくれた人の翌年の等級が下がらず、自動車保険料は上昇しません。
また、借りた車の自動車保険に運転者の範囲や年齢を限定する特約が付いており、自分自身が補償対象外であるときは、ドライバー保険に加入することで事故が発生したときに補償を受けられます。
ドライバー保険の保険料は、任意加入の自動車保険と同様に事故実績に応じた等級をもとに算出されます。しかしドライバー保険の保険金を請求し等級が下がったとしても、将来的に車を持ち自動車保険に加入するときに等級は引き継がれません。
ドライバー保険のデメリット
ドライバー保険は、運転する人に紐付けて加入する保険であるため、原則として車の損害を補償する車両保険を付けられません。
そのため、借りた車が事故で損傷したときは、車に紐付けられた自動車保険の車両保険を使うか、自己負担で修理する必要があります。
また、車を購入して自動車保険に加入するとき、ドライバー保険の等級は引き継がれず基本的に6等級からのスタートとなります。マイカーを手放して自動車保険を解約し、新たにドライバー保険に加入するときも等級は引き継がれません。
ドライバー保険と1日自動車保険(1day自動車保険)の違い
1日自動車保険(1day自動車保険)は、半日〜1日だけでも加入できる自動車保険のことです。コンビニやスマホから、手軽に契約できます。
1日自動車保険は、ドライバー保険と同じく、他人が所有する車を運転したときの事故による損害を補償する保険です。一方でドライバー保険と1日自動車保険には、以下の通り異なる部分があります。
ドライバー保険 | 1日自動車保険 | |
---|---|---|
保険料 | 等級や年齢に応じて決まる | 1日あたりの金額 |
保険期間(補償期間) | 1年 | 1日 |
車両保険 | 付帯不可 | 商品によっては付帯可能 |
上記のうち、保険料と保険期間についてドライバー保険と1日自動車保険の違いをみていきましょう。
保険料
ドライバー保険の保険料計算には、ノンフリート等級が用いられます。ノンフリート等級とは、事故歴に応じた1〜20等級の区分に応じて保険料を決める制度です。
1年間で事故を起こしていないと、翌年の等級は上がり保険料が安くなりますが、事故を起こすと翌年の等級は下がって保険料が高くなります。
またドライバー保険は、契約者の年齢が21歳以上か21歳未満かで保険料が変わる仕組みです。
対して1日自動車保険は、年齢や契約する人の事故歴にかかわらず、誰が契約しても保険会社が決めた1日あたりの金額を支払います。
保険期間(補償期間)
ドライバー保険の保険期間は、任意の自動車保険と同じく原則として1年間です。保険会社によっては、一か月だけドライバー保険に加入することも可能です。
1日自動車保険の保険期間は、基本的に24時間単位で設定します。最長7日連続で加入することも可能であるため、友人や知人の車で運転を交代しながら、数日かけて長距離を運転する旅行でも役立ちます。
自動車保険に加入している場合、基本的にドライバー保険は不要
車を所有しており任意の自動車保険に加入している人は、他の人の車を借りて運転するとしても、基本的にドライバー保険に加入する必要はありません。自動車保険のほとんどには、「他車運転特約」がセットされているためです。
他社運転特約とは、自分自身やその同居家族以外の人が所有する車を運転したときの事故を補償する保険です。他人から一時的に借りた車を、自分自身の車と見なして加入している自動車保険の補償が受けられます。
また、同居の家族が所有する車の自動車保険の補償範囲に、ご自身が含まれているときは、その自動車保険に付けられている他車運転特約によって、他人から借りた車での事故が補償されます。
家族が自動車保険に加入しているのであれば、補償が適用される範囲や年齢に自分自身が含まれているか確認してみましょう。
まとめ
ドライバー保険に加入していると、他人から借りた車の運転中に起こした事故での損害が補償されます。相手から損害賠償を請求されたり、車に乗っている人が死傷したりしたときに保険金が支払われます。
ドライバー保険の契約期間は、基本的に1年間です。自分自身で車を所有しておらず、友人や別居の親などが所有する車を、年に複数回運転するのであれば、ドライバー保険の加入を検討すると良いでしょう。
一方で、車に乗るのが1日単位であるのなら、1日自動車保険に加入したほうが良い場合があります。 また車を所有して自動車保険に加入しており、他車運転特約がついているのであれば、基本的にドライバー保険は不要です。
他人の車を運転する頻度や自動車保険の加入の有無など、ご自身の状況に応じてドライバー保険の必要性を判断することが大切です。