扶養控除とは?
扶養控除は、配偶者や子供、親、その他親族を養っている場合に利用できる控除のことです。
家族を養っている人は、そうでない人に比べて生活費などの支出負担が大きくなります。
そうした事情を考慮して、扶養する家族の人数に応じて税負担を軽減するための措置を取っているのが「扶養控除」です。
扶養控除は、大きく分けると「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」の2種類があります。
扶養控除の種類
- 税制上の扶養:所得税や住民税の控除、配偶者控除・配偶者特別控除に関するもの
- 社会保険上の扶養:健康保険や各種年金に関するもの
それぞれで扶養から外れるボーダーライン(控除金額の合計)が定められており、学生などのアルバイト収入で「年収103万円(130万円)を超えると扶養から外れてしまう」というようなことが言われています。
日常的な会話で使われる「扶養」はこれらの種類が混合されているため、学生や主婦などで扶養される側の人から見ると「一年でいくらまでなら稼いでも扶養から外れないのか」がわかりづらくなります。
ですが、「扶養控除の種類」と「それぞれのボーダーライン」を整理すれば、意外とすんなり理解できるようになります。
この記事で扶養控除について分かりやすく解説するので、一緒に理解を深めていきましょう。
扶養控除の対象となる人
扶養控除の対象となる人(扶養親族)は、以下の条件をすべて満たしている必要があります。
扶養控除の対象となる人の条件
-
納税者の扶養親族であること
- 生計を一にする人:原則として同居していることが条件
- 単身赴任や地方の大学に通っている子供に仕送りをしている場合は扶養親族に含まれる
- 年間の合計所得金額が48万円以下の人(令和元年以前は38万円以下)
-
青色事業専従者、または事業専従でない人
- 青色事業専従者、事業専従者とは個人事業主の事業を手伝っている家族のことをいう
-
他の人の扶養親族、控除対象配偶者になっていない人
- 他の人の扶養や配偶者である場合には扶養控除の対象親族にはならない
- つまり二重に扶養控除の対象にはなれない
参照:扶養控除|国税庁
簡単に説明すると、給与所得を受ける場合には「給与所得控除」として55万円(令和元年以前は65万円)が適用されます。
それとは別に年間の合計所得金額が48万円までなら「扶養控除」が適用されるので、給与所得控除55万円+扶養控除48万円の合計として、年収103万円以下であれば扶養から外れることはありません。
上記に該当する親族がいるかどうかは毎年12月31日時点で判定され、原則として16歳以上の人が対象となります。
15歳以下の人は、平成23年(2011年)より扶養控除による控除額が廃止となり、その代わりに「児童手当」が支給されるようになっています。
なお、兄弟・姉妹が共同で両親の生活費を仕送りしている場合、誰か1人分にしか扶養控除が適用されないので、誰の扶養控除を適用するかを決めておく必要があります。
また、上記の扶養親族には配偶者は含まれていません。
配偶者がいる場合には、扶養控除とは別の「配偶者控除」または「配偶者特別控除」が適用されます。
扶養控除は上記の条件を満たす子供や両親、その他の親族などがいる場合に適用される控除なので、混同しないように気をつけましょう。
配偶者控除と配偶者特別控除については後述します。
扶養控除額
扶養する家族がいる場合の控除額は、扶養親族の年齢や同居の有無によって金額が変わります。
控除額については以下の一覧表をご参照ください。
扶養親族の年齢 | 扶養控除額 | |
---|---|---|
年少扶養親族 | 満15歳以下 | 0円 ※平成23年より廃止 |
一般扶養親族 | 16歳以上18歳以下 | 38万円 |
特定扶養親族 | 19歳以上22歳以下 | 63万円 |
成年扶養親族 | 23歳以上69歳以下 | 38万円 |
老人扶養親族 | 同居かつ70歳以上 | 48万円 |
同居以外かつ70歳以上 | 58万円 |
※いずれも毎年12月31日時点における年齢を指します参照:扶養控除|国税庁
扶養控除は16歳以上で適用され、年齢によって38万円〜68万円の間で金額が変わります。
なお、70歳以上の場合は同居しているか否かで控除の金額が変わりますが、病気の治療のために長期入院をしている場合は「同居」と取り扱って問題ありません。
ただし、老人ホーム等へ入所している場合は「同居以外」の取り扱いとなるので覚えておきましょう。
配偶者控除
配偶者控除とは、納税者に配偶者がいる場合に一定の所得控除が受けられる控除のことです。
以下の条件を満たしている人は配偶者控除の対象となります。
配偶者控除の対象となる人の条件
- 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は除く)
- 納税者と生計を一にしていること
- 年間の合計所得金額が48万円以下(令和元年分以前は38万円以下)
- 給与のみの場合は給与収入が103万円以下であること
- 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払いを受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと
参照:配偶者控除|国税庁
扶養控除はあくまで子供や両親などが対象で、配偶者は含まれていません。
配偶者がいる場合には扶養控除とは別の「配偶者控除」が適用されるので覚えておきましょう。
なお、配偶者控除として適用される控除額は以下のとおりです。
控除を受ける納税者本人の合計所得金額 | 控除額 | |
---|---|---|
一般の控除対象配偶者 | 老人控除対象配偶者 (12月31日時点で年齢が70歳以上の人) | |
900万円以下 | 38万円 | 48万円 |
900万円超950万円以下 | 26万円 | 32万円 |
950万円超1,000万円以下 | 13万円 | 16万円 |
参照:配偶者控除|国税庁
配偶者特別控除
配偶者特別控除とは、配偶者に年間で48万円以上の所得があり「配偶者控除」が適用されない場合に、一定金額の所得控除が受けられるようになる控除のことです。
配偶者特別控除を受けるための要件は以下のとおりです。
配偶者特別控除を受けるための要件
- 控除を受ける納税者本人のその年における合計所得金額が1,000万円以下であること
- 配偶者が次の要件すべてに当てはまること
- 民法の規定による配偶者であること(内縁関係の人は除く)
- 控除を受ける人と生計を一にしていること
- その年に青色申告者の事業専従者としての給与の支払いを受けていないこと又は白色申告社の事業専従者でないこと
- 年間の合計所得金額が48万円超133万円以下(平成30年分から令和元年分までは38万円を超え123万円以下、平成29年分までは38万円を超え76万円未満)であること
- 配偶者が、配偶者特別控除を適用していないこと
- 配偶者が、給与所得者の扶養控除等申告書又は従たる給与についての扶養控除等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと(配偶者が年末調整や確定申告で配偶者特別控除の適用を受けなかった場合等を除く)
- 配偶者が、公的年金等の受給者の扶養親族等申告書に記載された源泉控除対象配偶者がある居住者として、源泉徴収されていないこと(配偶者が年末調整や確定申告で配偶者特別控除の適用を受けなかった場合等を除く)
参照:配偶者特別控除|国税庁
配偶者特別控除による控除額は、「控除を受ける納税者本人」と「配偶者」それぞれの合計所得金額に応じて変わります。
控除を受ける納税者本人の合計所得金額 | ||||
---|---|---|---|---|
900万円以下 | 900万円超950万円以下 | 950万円超1,000万円以下 | ||
配偶者の合計所得金額 | 48万円超95万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
95万円超100万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 | |
100万円超105万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 | |
105万円超110万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 | |
110万円超115万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 | |
115万円超120万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 | |
120万円超125万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 | |
125万円超130万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 | |
130万円超133万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
参照:配偶者特別控除|国税庁
たとえば、配偶者の合計所得金額が年間48万円超95万円以下(給与所得控除分を合わせると年収103万円超150万円以下)の場合、配偶者控除は適用されません。
しかし、この場合は配偶者特別控除によって、配偶者の年収が150万円以下であれば最大38万円までの所得控除が受けられます。
もし配偶者の年収が155万円だった場合、配偶者特別控除額は最大36万円まで下がってしまいます。
つまり、配偶者特別控除による満額の控除を適用するためには、配偶者の年収を150万円以下に抑える必要があるということです。
税法上と社会保険上の扶養
冒頭でもお伝えしたとおり、日常的に使われる「扶養」には以下の2つの種類が混合されて使われています。
扶養控除の種類
- 税制上の扶養:所得税や住民税の控除、配偶者控除・配偶者特別控除に関するもの
- 社会保険上の扶養:健康保険や各種年金に関するもの
そのため、扶養が外れないようにするためのボーダーラインとして「年収103万円の壁」「年収130万円の壁」など、複数の金額があるので混乱してしまいがちです。
ですが、これらの金額は以下の図のように「税制上の扶養」「社会保険上の扶養」に整理して考えると、年収がいくらを超えると何の税金が発生するのかが分かるようになります。
扶養控除の103万円、130万円の意味
子供が成長してアルバイトをするようになると「年収103万円の壁」「年収130万円の壁」といった言葉を意識する必要があります。
なぜ2つの金額があるのかというと、扶養控除を適用して親の税負担を軽減できるギリギリのラインが「103万円」、子供自身が税負担を最大限緩和できるラインが「130万円」であるためです。
扶養控除が適用されるボーダーライン
- 親の税負担:給与所得控除55万円+基礎控除48万円=最大103万円までなら扶養控除が適用可能
- 103万円を超えると扶養控除が適用できなくなる
- 子供の税負担:給与所得控除55万円+基礎控除48万円+勤労学生控除27万円=最大130万円までなら子供自身の所得税納税義務はない
つまり、「年収103万円の壁」は、諸々の控除が適用されて扶養される側の納税義務がなく、なおかつ扶養する側も最大金額の扶養控除が適用できて所得税を大きく軽減できるラインです。
「年収130万円の壁」は、扶養控除は適用できないために扶養する側の税負担は変わりませんが、扶養される側は諸々の控除が適用されて自分で納税をする必要がないギリギリのラインになります。
年収130万円を超えてしまうと扶養から外れることになってしまうので、自分自身で所得税や住民税を納めなければなりません。
そうなると手取り額が少なくなってしまい、いわゆる「働き損」になってしまう可能性も出てくるので、最低限のボーダーラインとして覚えておきましょう。
共働きの場合の扶養控除
扶養控除は、ひとりの扶養親族で複数人に対して扶養控除が適用されることはありません。
たとえば、共働きの夫婦が高校生以上の子供を養っている場合、どちらか一方にしか扶養控除は適用されないということです。
この場合、父親と母親のどちらに対して扶養控除を適用すると効率が良いのかについて解説します。
子供が16歳以上の場合
扶養控除は、基本的に収入が高い方に対して適用した方が税率は高くなりより大きな税負担の軽減効果が期待できます。
たとえば、高校生の子供1人の扶養控除を受ける場合を想定してシミュレーションをしてみましょう。
- 年収600万円の場合:所得税+住民税で72,000円安くなる
- 年収200万円の場合:所得税+住民税で55,000円安くなる
つまり、年収600万円の人が扶養控除を受けた方が、結果として税金が17,000円も軽減されます。
そのため、扶養控除を適用する場合は所得の高い方の扶養に入るようにしてください。
子供が15歳以下の場合
15歳以下の子供に対しては、平成23年より扶養控除が適用されなくなり、その代わりに「児童手当」が支給されるようになりました。
児童手当とは、15歳以下の子供を養育する家庭に対して支給される手当のことで、一人あたり毎月5,000〜15,000円が受け取れます。
児童手当は申請した月の翌月から支給されますが、支給されるのは15歳の誕生日後の最初の3月31日になるまでの間と、手当が受け取れる期間が決まっています。
そのため、申請が遅れれば遅れた分だけ受け取れる児童手当が少なくなってしまい、結果として損をすることになってしまいます。
できるだけ多くの児童手当を受け取るためには、基本的には出生届と同時に児童手当の申請をするのが望ましいでしょう。
なお、月末に出産した場合には「15日特例」によって、最短で当月から児童手当が支給されるようになるので覚えておいてください。
扶養控除を受けるための手続き
扶養控除を受けるためには、働き方に応じた手順で申請手続きを行う必要があります。
扶養控除を受けるための手続き
それぞれのパターンごとの手続きについて確認していきましょう。
サラリーマンの場合は「年末調整」
サラリーマンとして会社で働いている人は、毎年12月頃になると「年末調整」を行うことになります。
その際、会社の指示に従って「扶養控除等(異動)申告書」を提出するだけで、その他の手続きは必要ありません。
ただし、給与総額が2,000万円以上の人、中途退職者で再就職の予定がある人、2か所以上から給与を受けている人は年末調整の対象にならないので、自分で確定申告をする必要があります。
扶養控除(異動)申告書の記入箇所については以下をご参照ください。
扶養控除(異動)申告書の記入手順
- 全員が記載する欄
- 源泉控除対象配偶者(A)
- 控除対象扶養親族(B)
- 障害者、寡婦、寡夫又は勤労学生(C)
- 他の所得者が控除を受ける扶養親族等(D)
- 16歳未満の扶養親族
個人事業主、フリーランスの場合は「確定申告」
個人事業主やフリーランスとして仕事をしている人は、毎年2月16日〜3月15日にかけて「確定申告」を行う必要があります。
その際、申告書第二表の「扶養控除」の項目に以下の情報を記入し、申告書第一表の「所得から差し引かれる金額」の扶養控除欄に合計金額を記入してください。
申告書第二表に記載する項目
- 扶養親族の名前
- 続柄
- 生年月日
- 控除額
なお、確定申告書には給与所得などを得ている人用の「確定申告書A」と、誰でも使える「確定申告書B」の2種類があります。
基本的には確定申告書Bを使っておけば間違いないので、覚えておくようにしてください。
以下は確定申告書Aと確定申告書Bの扶養控除の記入欄です。
よくある質問Q&A
最後に、扶養控除について聞かれることが多い「よくある質問」にお答えしていきます。
Q.日本国外に住む親族を扶養控除の対象とする場合は、どのような手続きが必要でしょうか?
A. 日本国外に済む親族を扶養控除の対象とする場合は、「親族関係書類」や「送金関係書類」を源泉徴収義務者に提出または提示する必要があります。
親族関係書類
- 戸籍の附票の写しその他の国又は地方公共団体が発行した書類及び国外居住親族の旅券(パスポート)の写し
-
外国政府又は外国の地方公共団体が発行した書類(国外居住親族の氏名、生年月日及び住所又は居所の記載があるものに限る)
※親族関係書類は国外居住親族の旅券の写しを除き、基本的には原本の提出又は提示が必要です※外国政府等が発行した書類とは、戸籍謄本や出生証明書、婚姻証明書が該当します
参照:国外居住親族に係る扶養控除等の適用について(平成30年1月改定)|国税庁
送金関係書類
- 金融機関の書類又はその写しで、その金融機関が行う為替取引により居住者から国外居住親族に支払いをしたことを明らかにする書類
-
いわゆるクレジットカード発行会社の書類又はその写しで、国外居住親族がそのクレジットカード発行会社が交付したカードを提示してその国外居住親族が商品等を購入したこと等により、その商品等の購入等の代金に相当する額の金銭をその居住者から受領した、又は受領することとなることを明らかにする書類
※送金関係書類については原本に限らずその写しも送金関係書類として取り扱うことができます
参照:国外居住親族に係る扶養控除等の適用について(平成30年1月改定)|国税庁
上記に該当する書類を準備し、勤務先で年末調整を行う際に合わせて提出してください。
Q.扶養控除の対象となるには、同居をする必要がありますか?
A. 扶養控除の対象となる「控除対象扶養親族」は、以下の条件を満たしている必要があります。
控除対象扶養親族の条件
- 配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等内の姻族)又は都道府県知事から養育を委任された児童(里子)や市町村長から用語を委託された老人であること
- 納税者と生計を一にしていること
- 年間の合計所得金額が48万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
- 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払いを受けていないこと又は白色申告者の事業専従者でないこと
- その年の12月31日時点で年齢が16歳以上の人であること
参照:扶養控除|国税庁
つまり、「同居」をしなくとも生計を一にしてさえいれば、扶養控除は適用可能ということです。
そのため、単身赴任をしている場合や地方の学校に通うために一人暮らしをする子供がいる場合でも扶養控除は適用できます。
ただし、70歳以上の人は同居の是非によって控除額が変わるので、気をつけましょう。
なお、病気の治療のために長期入院をする場合は「同居」として取り扱われ、老人ホームなどの施設に入居する場合は「同居以外」として扱われるのでご注意ください。
Q.子供がいる人と再婚した場合、その子(所得なし)は扶養控除の対象となりますか?
A.子供がいる人と再婚した場合、その子供との養子縁組の是非に関わらず扶養控除の対象とすることができます。
扶養控除の対象となるためには「控除対象扶養親族」の条件を満たさなければなりませんが、配偶者の子供は1親等の血族(養子縁組あり)/姻族(養子縁組なし)に該当します。
そのため、生計を一にするなどの要件を満たしてさえいれば、前夫・前妻の子であっても扶養控除を適用することが可能です。
まとめ
扶養控除は、配偶者や子供、親、その他親族を養っている場合に利用できる控除のことです。
扶養控除を受けるためには、養われている人の所得金額が一定の金額以下でなければなりません。
世間的に使われることが多い「扶養」という言葉は、「税制上の扶養」と「社会保険上の扶養」が混合されて使われています。
そのため、扶養から外れないようにするための「年収103万円の壁」や「年収130万円の壁」といった複数の金額によって内容が複雑化しています。
ですが、上記の図のようにそれぞれを整理しておくことで、年収がいくらを超えると何の税金が発生するのかが分かるようになります。
ぜひこの記事を参考にして、扶養控除の仕組みについての理解を深めてみてください。